「今の仕事に何となくモヤモヤする」「新たな可能性を試してみたいけれど、何から始めるべきか分からない」――そんな悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。環境を変えるには転職が1つの手段になりますが、理想の未来を手に入れるためには、いくつかのコツを心得ておく必要があります。
そこで今回は、『マンガでわかる 成功する転職(出版:池田書店)』などの著者であり、オールラウンダーエージェントとして活躍する森本千賀子さんにインタビューを実施しました。これまで多くの転職支援をしてきた森本さんが考える、転職で押さえておきたいポイントとはーープロが伝える、自分らしいキャリアデザイン術に迫ります。
【著者プロフィール】森本 千賀子
株式会社morich 代表取締役 兼 オールラウンダーエージェント
獨協大学卒業後、リクルート人材センター(現リクルート)入社。転職エージェントとしてCxOクラスの採用支援を手がける。全社MVPのほか受賞歴は30回超。現在は、株式会社morich/株式会社morich-To/株式会社and morich代表として、転職エージェント事業のほか、社外取締役/顧問/NPO理事などパラレルキャリアを体現。NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」「ガイアの夜明け」にも出演。日経新聞「人間発見」に連載されるなどの各種メディア、『1000人の経営者に信頼される人の仕事の習慣』『本気の転職』等の著書の執筆、講演も多数。二男の母。
転職で必ずしも「人間関係」が改善されるわけではない
――森本さんの著書『マンガでわかる 成功する転職』は、ビジュアルが豊富で読みやすく、転職活動を進めるうえでのポイントが分かりやすく表現されています。本書を書こうと思った背景を教えてください。
まず、『マンガでわかる 成功する転職』は主にZ世代のビジネスパーソンをターゲットとしています。私自身、過去に転職のガイド本を数冊出版していますが、主な購買層は30代以上の方でした。一方で、昨今は入社3年以内に3割以上の人が退職をするなど、第二新卒での転職が増えています。
そのような中、転職はあくまでも自分の夢や目標をかなえるための手段であること。また、転職には「覚悟」と「本気」が求められることを若手のビジネスパーソンに伝えたいと思い、本書を執筆するに至りました。
――なるほど。なぜ転職には覚悟と本気が求められるのでしょうか?
もちろん、転職にはメリットがたくさんありますが、同様にデメリットも存在するからです。例えば、転職により、現職で培った人間関係や自分自身のブランドがリセットされるリスクがあります。また、新たな仕事のスタイルやルール、その会社ならではのカルチャーに慣れるまでに時間を要する方もいるでしょう。あとは、人間関係に悩んで転職をしたものの、転職先で改善される確約はなく、さらに悪化してしまうケースもよくあります。
――たしかに選考段階で転職先の人たちと接する機会があったとしても、すべての人間関係を把握できるわけではないですよね。
そうなんです。しかも、「人」は可変要素が大きく、選考中に魅力を感じた配属先の上司が入社したら辞めていたり、異動していたりすることも往々にしてあります。直属の上司だけを理由に転職を決めるのはやや危険だと感じます。
――実際に、森本さんに相談をされる転職希望者の方たちは、人間関係に対する悩みを感じていることが多いのでしょうか?
多いですね。給与や仕事内容を理由にあげる方もいらっしゃいますが、大元をたどると大半が人間関係に起因することが多いように思います。例えば、給与についてはある程度のテーブルを理解して入社しているはずです。それでも納得できないのは、上司からの評価に不満があるということでしょう。
仕事内容についても上司との関係性がうまくいっていれば、自身の希望する仕事をアサインしてもらえたり、チャレンジさせてもらえたりするはずです。そもそも上司とのコミュニケーションが図れていないケースも含め、やはり人間関係に関する問題が大きいのではないでしょうか。
「今の場所」では実現できない「可能性」を見つけられることが転職のメリット
――昨今の転職市場に関して、どのような印象をお持ちですか?
キャリアの築き方が本当に多様になってきたと感じています。副業やプロボノ(※1)、サードプレイス(※2)への所属など新たな働き方に注目が集まり、さまざまな選択ができるようになりました。
(※1 「Pro Bono Publico」というラテン語が語源。仕事で培ったスキルや経験を活かす社会貢献活動のこと)
(※2 自宅や職場とは異なる心地よい第3の場所)
その一方で、働き方の選択肢が増えた分、多くのビジネスパーソンが自分のキャリアに迷いを感じはじめたようにも思います。どのタイミングで何の仕事を選ぶのが最適なのか。自分のバリューを高める方法に悩む人たちが増えた印象ですね。
――多様な選択肢が存在する中で、「転職」という選択にはどのようなメリットがありますか?
今いる場所では実現できない「可能性」を見つけられる点が最大のメリットです。自分のWILL、CAN、MUST(※3)を実現できる場が、現在の会社の外にある場合の選択肢が転職だからです。
(※3 Will(したいこと)、Can(できること)、Must(しなければならないこと))
一例をあげると、早期に意思決定やマネジメントに関わりたい希望があるにも関わらず、組織の規模が大きく、分業化されている会社では実現できないことがあります。そのような場合、例えばベンチャー企業に転職することで、自身のキャリアアップを実現しやすくなるかもしれません。現在在籍している会社では、ある程度自分の道筋が見えてしまうことが多いです。転職は自分の見えていない多岐にわたる可能性に気づく良いきっかけになるかと思います。
――森本さんが「成功」と考える転職活動とは?
入社はゴールではなくあくまでもリスタート。転職して本当に良かったかどうかは数年働いてみないと分かりません。ただし、入社を1つのマイルストーンとして目指していくことには意味があります。
ただ、なかなか内定がもらえない場合は、やはり自らの「可能性」を広げることも検討すべきでしょう。自分が見えている世界はほんの一部ですから、先入観で決めつけることなく、「面白そう」と思ったら、まずはトライすることをおすすめします。実際、私が相談を受けた人たちの中にも、当初は興味がなかった会社や仕事に就き、イキイキと働いていらっしゃる方がたくさんいます。
同時に、納得感を持って「自分で決める」姿勢も大切です。誰かに相談すると「その会社はやめておきな」「こっちの会社がいいよ」と、いろんなアドバイスをもらうことも多々あります。もちろん参考にしていただくのはよいのですが、言われたことを鵜呑みにしてはいけません。答えは自分の中にしかないのですから、自分の意志で決断することが納得の転職を実現する上で何より大切です。
「キャリアメンター」を見つけるのが転職成功の鍵
――納得度が高い選択をしつつ、より良い転職活動を行うためのコツはありますか?
伴走してもらえる「キャリアメンター」を見つけることです。転職活動において自分をメタ認知(※4)しながら、自己分析することは不可欠ですが、決して簡単なことではありません。自分ではわからない自分の癖や性格もありますからね。そこで、学生時代の先輩、他部署の上司、転職エージェントでもいいので、まずは自分を客観的に見てもらえる人を探してください。
(※4 自分自身に関して知っている事)
ただし、むやみやたらにいろんな人に相談すればいいわけではありません。人によっては数多くの転職エージェントに登録される方がいますが、それだと逆に情報量が多すぎて自分を見失ってしまいます。中には売上につなげるため、とにかくたくさんの求人をやみくもに紹介する転職エージェントも存在しますので、本当に信頼できるエージェントやメディアに絞ることをおすすめします。
もう1つ、転職活動で大切なことは転職マーケットの理解です。今、転職市場ではどんな人が求められているかリサーチし、市場のニーズを把握した上で自分の強みを抽出すると、書類や面接でアピールしやすくなります。「希少性が高く、市場価値につながる自分ならではの強みは何か」を考えて言語化することで、納得の転職につながりやすくなるでしょう。
――転職活動を進めるうえで、いわゆる「嫁ブロック」「夫ブロック」など家族からの反対を受けるケースもあるかと思います。そのような場合はどんな対処法がありますか?
家族から転職を反対されるのは、おそらく「本気」や「覚悟」が感じられないからです。本気でその仕事をやりたいと思っているのであれば、家族など周囲の人たちの理解を得られるのではないでしょうか。転職への「本気」と「覚悟」を自分の言葉で伝えることができれば、基本的に反対されることは少ないと思います。
ただし、「どんな会社に転職したいのか」「転職活動はどんな進捗なのか」はあらかじめ共有しておくといいでしょう。「◯◯の会社から内定が出たから転職するつもり」といきなり事後報告してしまうと、「なんで教えてくれなかったの?」と不信感を持たれることにつながるかもしれませんので。
――転職意思を職場に伝えたところ、上司や会社から反対されたといった事例も耳にします。
そうですね。家族と同様に職場に対しても、転職への本気度を伝える必要があります。家族と違って職場では特に礼節やマナーが求められますので、転職の意思を伝えたら、迷惑をかけないようしっかり引き継ぎのスケジュールも伝えておきたいところです。特に昨今は出戻り社員を受け入れる「アルムナイ採用」に積極的な企業が増えてきているので、万が一転職した会社が自分に合わなかった場合でも、「いつでも戻ってきなよ」と言ってもらえる関係性を築いておくといいと思います。
――職場に転職意思を伝えるうえで、最適なタイミングはありますか?
内定通知書やオファーレターが届いたあとに報告するのが一般的です。ただし、会社によっては直属の上司だけでなく、経営層の許可が必要な場合もあるため、誰を押さえておくべきかをあらかじめ確認しておく必要があります。
なお、転職意思を伝えたところ、給与や部署異動などのカウンターオファーを出されて転職自体を辞めた人たちも見てきています。内定をもらったうえで、結果的に現在の職場にとどまる選択をするのはまったく悪いことではありません。むしろ、不安や不満などのモヤモヤした気持ちを抱えて働いている状態こそが不健全だと言えます。迷っているのであれば、まずは転職活動を進めてみると良いかと思います。
転職のあり方が変化している時代、長期的な視点で選択を
――当社が行ったアンケートでは、希望する条件の仕事が見つからずに転職活動がなかなか進まないと回答した人が多くいました。
提示された条件の中でどうしても譲れないものがあれば、ある程度長期戦を覚悟し、その間に自分自身のバリューを上げておくようにしたいですね。一方で短期間で転職をしたいのであれば、条件は柔軟に考える必要があるかと思います。
なお、給与や働く環境は仕事を選ぶ上で大切な判断要素ですが、条件に固執しすぎることはおすすめしません。例えば、「リモートワークを希望して入社したものの、転職後にフル出社に切り替わってしまった......」という話はいくらでもあります。
もし自分がやりたいことができるのであれば、条件が多少希望に合わなくても、その仕事にチャレンジした方がいいと思います。そのほうが自分のバリューが上がり、のちに転職する際にも、収入アップが期待できるからです。とにかく目の前の条件に惑わされず、長期的な視点で視野を広げることを心がけてください。
――昨今は年齢や転職回数などもそこまで重視されない時代になってきましたよね。
そうですね。かつては年齢や回数が制約になるケースが多く見られましたが、最新著書『リミットレス時代の転職術 「選ばれる人」の新常識』にも書いたとおり、以前ほどセンシティブになる必要がなくなりました。もちろん、短期間での転職が続いた場合は、その理由や転職先に対する覚悟を強調して伝えることが大切ですが、転職のあり方自体が変化していることも念頭に置いておくと良いですね。
【関連記事】「転職を考えた人の8割が実際に転職、苦労した3つのポイントと「良かった!」と思えた具体例を紹介」
――最後に、転職を検討している読者のみなさんへメッセージをお願いします。
一昔前は1社に勤め上げることが当たり前で、転職自体がアウェイだったり歓迎ムードではなかったりした時代もありました。しかし、今は10人いれば10通りのキャリアの形があり、多彩な未来を築ける時代です。「自分にはこの職種、この業界しかない」と選択肢を狭めることなく、制約を取り払い、潜在的な可能性を見つけてほしいと思います。
「可能性」は転職に限った話ではなく、もしかすると副業やサードプレイスなどでも得られるものかもしれません。もし今置かれている環境を変えたいと思っているのであれば、ぜひ固定観念にとらわれず、柔軟な思考を持って取り組んでいただければと思います。
私自身もそうでしたが、意識して目を凝らしてみると身の回りにはさまざまな機会があります。そんなチャンスを"自分ごと化"し、とにかくやってみることが大切です。以前は年齢、性別、バックグラウンド、転職歴、エリアなど、いろいろな制約条件が壁になっていました。ところが今は、それらが「新しい未来への扉」へと変わったのです。ぜひ目の前の縁や機会を大事にしてほしいですね。
(取材・執筆:金子 茉由/VALUE WORKS)
【書籍】マンガでわかる 成功する転職
「終身雇用」「年功序列」の時代は終わった!
ついに、「自分のキャリアを、自分の意思でデザインする」時代がやってきました。
本書は、転職とは何か? そして、「成功する転職」とは何か?について、マンガを交え、やさしく解説するものです。
転職で"いちばんやってはいけないこと"、それは「後悔すること」。
そして、"いちばんこだわるべきこと"、それは「納得できること」です。
本書では、そのために、マンガ特有の自由度を活かして、「失敗して後悔するシーン」からスタートし、それから夢の『時間の巻き戻し』を実行、「成功して納得するシーン」を紹介します。
そして、転職活動で進む「自己分析」「企業研究」「書類作成」「面接」「退社」すべてのステップについて、完全網羅で、目からウロコの成功ポイントを紹介していきます。
決して後悔しない、必ず納得できる成功する転職のすすめ方が、よくわかります!
(池田書店書籍紹介より引用)
池田書店刊
著者:森本 千賀子
発行年月:2019年07月
定価:1,200円