これから「IT営業」を目指す人に求めるものとは?--日立ソリューションズ・吾郷陽平部長に聞く(後編)

連載・インタビュー

前編の「IT業界の「営業職」に必要なスキルと考え方とは!?では、日立ソリューションズの吾郷陽平部長に、入社された経緯から、どうやってIT営業職としてのスキルと経験を積んできたのかを伺いました。後編では、吾郷氏が管理職になってからどうやって人材育成を行ってきたか後輩の営業パーソンたちに何を求めているかなどについて伺った内容を紹介します。

(吾郷陽平氏プロフィール)

日立ソリューションズ 営業企画本部 グローバルビジネス推進営業部 部長。新卒で入社後、一貫して営業部門に従事。製造・流通業の営業から、パートナー営業など幅広く経験。2019年からは管理職として、組織運営・人財育成に尽力し、現場発信での社内副業制度の立ち上げにも取り組む。

1.「Will Can Must」の「Will」を引き出せるよう、部下の一人ひとりと向き合う

――管理職になられたのが2019年ということは、30代後半からずっと管理職ということですよね?

はい、そうですね。

――2019年にどういう役職に就かれたのでしょうか。

パートナー営業の部署の課長職です。

――管理職として組織運営や部下の育成はどのようになさってきたのでしょうか。

課長になる前に主任として若手を取りまとめるということになり、マネジメントに対する意識というのはその時期からありましたが課長になったのが2019年です。そこでは、今も続く人材不足という問題に突き当たりました。

コロナ過の中でもIT業界に対しては旺盛な需要があって、それだけに限られたリソースでいかに全員のパフォーマンスを上げていくか生産性を上げていくかということをすごく意識してマネジメントしました。

マネジメントは上意下達というやりかたではく、1on1などで一人ひとりに向き合いながら、その人その人の100%を引き出せるようなマネジメントを心掛け、全員に輝いてほしいと思いながらやってきました。

――新卒で入ってこられる方と中途採用で入ってこられる方がいらっしゃると思うんですけど、育成方法の違いみたいものはありますか?

新卒か中途かには関係なくその人個人のステージを見た方がいいと思っています。

例えば中途採用でも社会人3年目で前職がIT業界ではない場合は、新人のつもりでティーチングをベースにして育成します。一方で、ある程度自分でできる方は引き出すためのコーチングを行うなど、人によってその育成方法を変えるんです。

そのためにはその人に興味を持って、その人を学ばなければなりません。そのために1on1などでしっかり一人ひとりと向き合うようにしています。

――相当きめ細やかに部下の方を育成されていらっしゃるんですね。それは御社全体の方向性なのでしょうか?

会社として職場アンケートやeラーニング、管理職向けに1on1のやり方に関する動画を作るなどの人材育成策を行っていますが、やはり現代の若手の人たちに対して、ただ仕事をしなさい、ではみんな辞めてしまうという認識が会社側にもあると思います。「言わなくてもわかってくれるだろう」といったマネジメントから、部下にちゃんと寄り添って、その人に合った指導をしてくださいというふうに、会社としてシフトしていると感じています。

――吾郷さんが部下の方たちを営業パーソンとして育てる上で一番重視している点について教えてください。

「Will Can Must(※)」を重視しています。こういう仕事をやりたいという内発的動機がいいパフォーマンスを生むと思いますし、結果としてそれは会社にとって良いパフォーマンスになるからです。

(※Will(したいこと)、Can(できること)、Must(しなければならないこと))

ただ、「Will」が明確になっていない人が案外多いんです。たくさんの給料が欲しいといった動機は、もっといい給料をもらえる会社があったらそっちに簡単に移りますが、内発的にこの会社でやりたいことがあるという動機があれば会社で輝いてくれますので、「金の切れ目が縁の切れ目」とならないように、「Will Can Must」を大事にしてほしいと思っています。

その上で、WillとCanがアンマッチであればCanを伸ばしてほしいという話をします。一方、Mustは会社としてやってもらわなければいけないことですので、自分の好きなことだけやればいいというわけではないということも伝えます。この三つのバランスをしっかりとってもらうようにしています。

――「Will Can Must」を1on1などで確認していくわけですね。

それは会社のメッセージとして全体に言っていますし、1on1でも言っていますね。

若手でも自分はこういうことをやりたいと言って入ってくる人もいれば、特にコロナ禍以降、安定した会社に入って安心したいという人もいますが、「Will Can Must」を実践しなくていいというわけじゃない。

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2.部下の女性の産休をきっかけに立ち上げた「社内副業制度」が思わぬ効果を社内にもたらすことに

――なるほど。ところで、現場発信での社内副業制度を立ち上げた、とお伺いしたのですが、どんな制度なのでしょうか。

自分が課長の時に、女性の部下が産休を取得することになったのですが、彼女は、1回目の産休時に、1ヵ月前まで引き継ぎ先が見つからなくて苦労した経験がありました。そのため、引き継げる人を早めに見つけておいてください、と早い段階で言われたんです。

ただ、課内も人材不足でみんな余裕がない状況で働いている中で、課内で手分けしてできるレベルを超えていました。そこで、課外で人を探さなきければいけないという状況になったのですが、そういう点に関して全く組織的な制度がなかったんです。まず部長に相談しましたが、部長もすぐには対応できず困っていたんです。

それでなんだこれはと人事部門に文句を言ってみたんですね(笑)。すると人事部門から、復職する前提だとなかなか新しい人は割り振れないって言ってきたんですよ。

そこで私は、じゃあ、その決められた期間だけお手伝いしてくれる人を募るような制度があったらこの課題が解決できるんじゃないかと思って調べる中で、社内副業制度というものをやっている会社があるという事を知ったんです。人事にこういう制度を作ってくれないだろうか、という話をしたら、「人事部門からやるっていっても社員は使ってくれないものなんですよ」との回答でした。

ただ、「吾郷さんのいる営業統括本部でやってみたらどうですか」って言われたので社内副業制度を提案することにしたんです。当時の本部長に今こういう課題があって、こういうふうに解決できるんじゃないか、という企画書を作ってプレゼンした結果、トライアルでやってみようという話になりました。

そうして制度設計をしている中で、人が足りないことに対する解決策として役立つだけでなく、他の問題の解決策にもつながる可能性があると分かってきました。

例えば、同じ一つの部署にずっといると少しマンネリになってしまったり目標を見失って辞めてしまったりする人がいるけれども、社内公募などで異動するとなると勇気が必要です。そういう人が他の部署を体験してみたいと思った場合に社内副業制度はメリットがあるのではないか、といったことです。

むしろ、人材不足の解決策を超えて、自分の部署とは違った部署の仕事を経験することでその人の成長になること、実はそうした側面のほうが大事なのではないか、と思うようになったんです。

現在は、営業統括本部内の社内副業制度として運用されています。

――当初の足りない人材を補うという目的も果たしつつ、違う部署の仕事も経験できるという制度になったんですね。

そうです。私も当初人手を補うという募集する側の視点でしか見られてなかったのですが、応募する側にとっては雑用をやらされるだけだったらメリットがないのではないか、では応募側からの視点で考えたらどういうメリットがあるかを考えて設計した結果、いい制度を作れたかな、と思っています。

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3.他業種からの転職も多いIT営業職、学び続けるうちに大きな成長につながる

――今のお話をお聞きしていると、営業パーソンとして社内の関係部署に案件の意義を説得していった手法と似ているように感じたのですが。

そうですね。相手の立場に立って物事を考える、という営業パーソンとしての基本が、応募側の方の側に立って考える、という点に現れているかもしれません。

――そこは営業で培ったスキルが活きているのでしょうか。

営業は自分の仕事がこうだ、という枠を設けない方がいいと思っています。

何か目的があったらそこに対してさまざまな手段を駆使していく必要がある。社内副業制度を作った際の全く新しい、今まで誰もやってない制度を作ったという事と同じように、営業も今までやったことはないけれどどうしよう、という状況が常に出てきますから。

――IT営業を目指す際、ITの知識がなくても大丈夫なのでしょうか?

私の部署ですとIT企業で営業をやっていましたという人よりも、他業種からきている方が多い気がしますね。

――そうなんですか?

IT業界では知識はどんどん新しくなるので3年前の知識も意味がなかったりするんですよ。だから結局学び続けなければいけない。ですので、学び続けようという意欲のある方であれば、別に他業界、IT業界じゃなくても全く問題ないと思います。

――営業一筋で未踏の道を切り開いてきた吾郷さんの、今後目指すキャリアについてお聞かせいただけますでしょうか。

実は会社に入ったタイミングからずっと経営に携わりたいって思っていて、営業を希望したというのはそこに繋がっているんです。営業職だと経営層の人とも一緒に仕事もできますから、組織運営や事業運営により高い視座でやっていくための経験ができたのではないかと思っています。

自分自身も成長しながら、より大きい組織を運営したり、経営により近いところで仕事をしたい、というのが自分の目指すキャリアビジョンです。

――最後に、営業職を目指す方へのメッセージをお願いできますでしょうか。

先ほど他業種から転職してくる方も多いと申し上げたように、例えばコミュニケーションスキルだったり、相手の立場に立ってものを考えたりすることが必要という点においては、もちろん業界や業種によってやり方とかいろいろ違う点もあると思うんですけど、営業職に共通するものかなと思います。そういう意味ですと営業職としての経験を積めば、一生食べていけるだけのスキルや考え方が身につくのではないでしょうか。

――本日は貴重なお話をいただき、本当にありがとうございました。

(写真:谷田部一水)

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(編集後記)

前編に続き後編も、吾郷さんの熱意が伝わってくる素晴らしいお話でした。管理職として、部下や後輩の方一人ひとりに寄り添って自らの体験も踏まえて伝えているメッセージは、このインタビューを読んだ多くの方々にも届いたのではないでしょうか。

我こそはぜひIT営業に、という方は、本記事をご参考にしていただきたいと思います。

筆者プロフィール:石田哲也

福岡県出身。メーカーの経理部員、新聞記者、雑誌編集者などを経て、現在はWEBサイトの編集者・記者。趣味は歴史小説を読むことで、特に戦国時代の場合、石田三成が豊臣家の忠臣と描かれているものを好む。ただし、徳川家康も偉人と尊敬している。

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