IT業界の「営業職」に必要なスキルと考え方とは!?--日立ソリューションズ・吾郷陽平部長に聞く(前編)

連載・インタビュー

新卒採用、中途採用にかかわらず、営業職を目指す若手社会人の方も多いかと思います。今回は、日立ソリューションズにて営業部門一筋で歩んできた吾郷(あごう)陽平氏に、営業職に必要なスキルや姿勢、また管理職として部下の営業パーソンに求めていることなどについてお聞きした内容を、前編・後編に分けてご紹介します。

(吾郷陽平氏プロフィール)

日立ソリューションズ 営業企画本部 グローバルビジネス推進営業部 部長。新卒で入社後、一貫して営業部門に従事。製造・流通業の営業から、パートナー営業など幅広く経験。2019年からは管理職として、組織運営・人財育成に尽力し、現場発信での社内副業制度の立ち上げにも取り組む。

1.自分自身の市場価値を高めるため、「これから伸びる」と確信したIT業界に飛び込む

――まず、日立ソリューションズに入社した経緯を教えていただけますでしょうか。

大学は文系学部だったのですが、就職活動をした時期がITバブル期の2000年前後だったこともあり、これからIT業界が伸びるとの見通しのもと、お客さまの課題に対して答える提案型SEのような仕事をしたいと思っていました。

就職氷河期ということで多くの会社を受け、SE(システムエンジニア)として内定をもらった会社もあったのですが、その時の日立ソリューションズの人事の方の人柄に私の中で響くものがあり、営業として2003年に入社しました。

ITに関する知識は何もなかったのですが、自分がこれから社会人になるにあたって自分の市場価値を高めたいと思い、大変そうなイメージの新規開拓の営業部署を自分から希望して希望通りの部署に配属されました。

――ITの知識はなかったとおっしゃいましたが、どういう形で知識をつけていかれたのでしょうか?

IT業界は日進月歩でいろいろ学んでいかなければいけないので、常に学び続ける姿勢と学び続けることができる環境が大事と思っていたこともあり、そうした環境が整っている日立ソリューションズを選びました。

入社してからは、いろいろな集合研修や資格取得のための研修もありましたし、しっかりOJT(On the Job Training)でも教育をしていただいて、自然と営業としてのスキルを身につけていくことができました。

――具体的にどういうスキルを身につけていかれましたか?

ヒューマンスキルももちろん大事ですが、うちの会社はテクニカルな話も多いので、新入社員はまず基本情報技術者試験の勉強をする研修を受けることになっていました。

――基本情報技術者試験の資格は取られたんですか?

はい。入社前から勉強していたこともあり、入社直後の4月中旬の試験で合格できました。

――まず基本情報技術者試験に合格されたんですね。そこからIT知識をプラッシュアップされていかれたわけですね。

ちょっと自慢話のようになりますけど、高度情報処理資格と呼ばれる資格を2つ持っています。

――すごいですね。そういった資格を取るためのバックアップもあるんですか?

高度情報処理資格は自分で勉強してくださいという感じなんですが、報奨金を出してくれました。当時まだ20代で若くてそれなりのお金をもらえるし頑張ってやろうかな、という気持ちで受けていました。

その後の営業の話にもつながるんですけど、営業だからITのテクニカルな面を知らなくていい、というわけではないと思っています。広く浅くでもやっぱりテクニカルな知識を持っていないとSEと会話ができないですし、お客さまの方がすごく詳しいこともあります。そこまで深くなくてもいいけれども、やはりある程度の知識がないとダメだと思っていましたので勉強しました。

――そうなんですね。ITの知識があまりなかった中でもそれだけ資格を取られるということは、ITのテクニカルな側面に何か魅力みたいなのも感じていたからでしょうか。

もともと成長意欲があって自らの市場価値を高めたいという気持ちがありましたので、新しい技術や知識をどんどん学び続けなければいけないIT業界は自分自身の伸びしろもあると思い、がむしゃらに知識を蓄えていったんです。

――今もそうした勉強をなされているんですか?

資格試験のためというわけではないんですが、社内研修などは今も受け続けています。また、今はグローバルな時代ですので英語の勉強をずっと毎日30分ぐらいしていて、今日もしてきました。

――朝に勉強されるんですね?

テレワークが広がり通勤しなくていい日もあるので、以前より長く、朝の始業までの8時~9時に勉強することが多いです。

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【関連記事】「自信が持てない若手社会人が自分の強みを見つけて活用する方法は?--日立ソリューションズ・伊藤直子氏に聞く」

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2.IT業界の営業職は「ゼネラリストでありスペシャリストであることが重要」

――すごいですね。ところで、新規開拓という営業の一番難しい部署に配属されたということなんですが、やはりITの知識を武器にしてどんどん開拓されていったイメージでしょうか。

今思うと、配属された初期の頃は、ちゃんと受注できるかどうかというのは度外視して、自分自身の成長も見ながら頑張りなさいという会社や上司の姿勢もあったかなと思っています。

新規開拓した後で継続顧客になっているお客さまもいるのですが、私がやらせてもらったのは、リストの上から順番に電話をかけるとか、雑居ビルに行って商材の資料を配ったりするとかいうことでした。上司に同行して地方のお客さま先に訪問した際には、その地域の取引のない企業へ飛び込み訪問などもしました。

そうした中で営業としての度胸やコミュニケーションスキルを培えました。トークも事前に考えておかないと相手にしてもらえないので、どうやったら話を聞いてもらえるんだろうと考えるうちに相手の立場にたって考えることができるようになった気がします。

――話を聞いてもらえるようになるコツはあるんでしょうか。

お客さまが「え? それは何なの?」と少し引っかかるような事を言うのも一つの方法かもしれません

例えば、2005年に個人情報保護法が施行されたタイミングでは、セキュリティについて御社は大丈夫ですか、という話をしたら興味を持っていただけるのではないか、など、時事に合った話をさせていただくというようなことですね。

――そうすると、吾郷さんの強みは度胸と、相手の立場に立って考えるコミュニケーションスキル、継続的に勉強することによって得られる知識、ということになるのでしょうか。

私が考える営業というのは、ゼネラリストでありスペシャリストであることですどちらかではなくて両方必要と思っています。ゼネラリストであるためには浅く、広く常に学び続けなければいけないですし、スペシャリストとなるためには自分の得意分野を作ってそこに関して深く語れるようになることが重要です。

スペシャリストとなる上では、新規開拓から、ソリューション営業の部署に異動してから自分を磨けた気がします。

――ソリューション営業とはどんな事をするのでしょうか。

ゼネラリストが幅広いお客さまの興味を聞きながら何らかの商材が引っかかりそうということを見つけてアポイントを取ってくる役割だとすれば、ソリューション営業というのはスペシャリストとして、特定のソリューションについて、仕組みなどテクニカルな部分を知った上で深くお客さまと話をしながら、ではこういうシステム構成でこうやったらいいのではないでしょうか、といった提案などをしていく仕事になります。

――なるほど。それまでのゼネラリストとしてのスキルに加えて、ソリューション営業としてスペシャリストとしての知見も高めていかれたわけですね。ソリューション営業は大体何年ぐらいなさったのでしょうか。

だいたい5年ぐらいです。それに加えて、製造系の直販やパートナー営業もやったことがありますので、うちの会社の営業分野はほぼ網羅して経験してきました。

――広範囲な分野に対応できる営業パーソンとしてスキルや知見を高めてこられたわけですね。少し違う観点からお聞きしたいのですが、御社の営業はITシステムという、目に見えるものではない無形商材について営業されるものですが、無形商材を営業する難しさはありますか?

例えば食品でしたらこんな味がしますので試食してください、機械でしたらこうすれば○○が作れますなど比較的分かりやすく説明できるかもしれませんが、ITシステムは出来上がっていない状態で商品の説明をしなければいけませんので、こちらのイメージとお客さまのイメージがあうように認識の齟齬をなくすことが重要です。言葉の定義一つがすごく重要ですので、買ってもらうためだけに自分のいいように解釈をして話を進めると、だいたいトラブルになります。

私が営業をやっている時は、自分が話したことをお客さまはどう受け止めたのか、またお客さまが話した内容をどう受け止めればいいのかお客さまの立場に立って自分の言葉にし直して確認をするようにしていました。

無形商材を売るのはイメージがずれないようにしていかなければいけない部分がありますので、今おっしゃったことはこういう理解で合っていますか、とお客さまに確認することを丁寧にやっていましたね。

――IT営業はお客さまとの認識のすり合わせが重要なんですね。

はい。

――そうやって営業パーソンとしてキャリアを積み重ねていく中で、何をやりがいと感じていらっしゃいましたか?

自分自身の成長や予算の達成ですね。あとはやはりお客さまから喜ばれるというのがやりがいでした。

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3.多くの人を説得して案件を成功させる「リーダーシップ」が身に着くことがIT営業の醍醐味

――逆に悩みみたいなものはあったんでしょうか。

社内に対して、なんでお客さまがこう言っているのに協力してくれないんだろうと悩んだことはありました。

――お客様に対する悩みではなく、社内に対しての悩みがあったとは少し意外です。

ITの営業職というのは、自分だけで特定の商材をお客さまに売るわけではなく、さまざまなステークホルダーを巻き込んで受注していかなければいけないんです。

お客さまの考えと会社としての方向性、SE部門の考えなど、いろんな要素を加味して前に進めなければいけないので、いろんな立場に立って物事を進める点は非常に難しかったですね。SE部門は慢性的な人材不足で人的リソースが不足しているとか、あまり条件のいい案件ではなさそうだからとか、さまざまな理由でなかなか協力してもらえないこともありました。

当時は未熟でしたから、自分が持ってきた案件に対して受けてくれない理由を理解できなかったんです。

――そうすると、この案件は会社にとって意義があるということを、SE部門など他の部署にも理解してもらう必要があったわけですね。

この案件を成功させると、この先これだけの素晴らしいプランが待っていて大きな受注に繋がる、といった話をすることの重要性に最初は気づいていなかったんですよ。やはり組織を同じ方向に向かせるには、そういうことが必要だったんですね。

営業は一担当かもしれませんが、いろんな組織に対して同じ方向を向いてもらってリーダーシップをとることもすごく大事だとだんだんわかってきたんです。

――営業はそうしたリーダーシップをとることが大切だと気付かれたんですね。

営業をやっているとリーダーシップが身につく面があると思います。もちろん上司はついているんですけど、新人の頃からあなたはこのお客さまの担当だよって、矢面に立って責任感を持ってやらなければいけません。そうした意味でリーダーシップが必要になります。

――人をまとめる力を育めるのが営業職なんですね。

そうだと思います。さまざまなステークホルダー、ベンダーさんも含めてみんな同じ方向に動かしてお客さまに提案していかなければいけませんので、目的を明示してそれぞれの利害を考えた上で、この人にとって私の依頼は意味があるということを伝えなければ動いてくれない。

社内的には、SE部門のほか、法務部門などとも折衝して、状況によっては「この契約条件じゃやっちゃダメ」と言われても、「いえそんなリスクはないんじゃないでしょうか」などの交渉をすることもあるわけです。

――営業の悩みというとクライアントとの折衝などが多いのかな、というふうに感じていたんですが、社内での悩みもあるんですね。

社外半分、社内半分、という感じでした。

――そこを乗り越えると、いい未来が見えてくるのでしょうか。

そうですね。みんなが同じ方向に向いてもらえるようコーディネートする点は非常に勉強になりましたね。

――社内の各部門との調整は悩みではありましたけれども、次のステップに繋がった悩みだったということでしょうか。

そうです。壁にぶち当たることもありましたけど、なんとか一生懸命頑張りました。

――ご自身が成長されたということを実感されるようになったのは入社してどれくらいですか?

プレイヤーとして成熟してきたかな、って思ったのはやっぱり30代半ばぐらいですね。

――今回のインタビューを掲載させていただく「CANVAS」というメディアが、「20代~30代の若手社会人の悩みと疑問に答えるポータルサイト」というキャッチコピーなんですが、まさにそういう悩みをキャリアアップにつなげていって、やりがいにもつなげていかれたという感じですね。

どうしようって思っていることでも前に進むと案外気づけることが結構あったかなと思っています。自分はどちらかというとあれこれ考えるタイプなんですけど、いろんなことは考えつつも強行突破、のような感じでやっていくと、見えてなかったものが見えるようになってきました。

あ、こっちの道でよかったんだ、とかそっちじゃなかったんだ、ってわかるようになったんです。立ち止まっていても何も始まらないということがわかったんです。

(写真:谷田部一水)

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(前編を終えて不肖石田)

吾郷さんの先を見る目や自らの市場価値を高めていこうとする姿勢に脱帽すると同時に、IT業界で営業職として働く上で必要な考え方や身に着けられるスキルについて熱を持って語っていただいた内容は、これからIT業界や営業職にチャレンジしようとしている方に大いに参考になると感じました。
後編では、吾郷さんが管理職の立場として営業パーソンとして後輩や部下に求める姿勢や、これからIT業界の営業職を目指そうという人たちへのメッセージについてご紹介します。



筆者プロフィール:石田哲也

福岡県出身。メーカーの経理部員、新聞記者、雑誌編集者などを経て、現在はWEBサイトの編集者・記者。趣味は歴史小説を読むことで、特に戦国時代の場合、石田三成が豊臣家の忠臣と描かれているものを好む。ただし、徳川家康も偉人と尊敬している。

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