いわゆる「CxO呼称」で呼ばれる役職がある会社がありますが、では、具体的にはどのような呼称なのでしょうか。今回は、企業がCxOの呼称を使う目的とユニークな呼称の例などについてみていきます。
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1.CxOとは
最近多くの企業で、CEOやCTOという役職を設置しています。このような役職はまとめてCxO呼称と呼ばれることがあります。
C:Cheif(最高責任者)
x:責任範囲を表す
O:Officer(執行人)
という意味で、E:Executive(経営陣)を入れたCEOは最高経営責任者であり、T:Technical(技術)を入れたCTOは最高技術責任者となります。
(企業で使われる主なCxO呼称。執行役員がCxOを名乗ることが多い。法的な裏付けがある役職ではないので、企業が自由に設置をすることができる)
2.法的な裏付けはない呼称
このようなCxO呼称には商法や会社法の裏付けはありません。会社法で定められている役職は「取締役」「代表取締役」のいわゆる役員と、「会計参与」「監査役」のみです。つまり、私たちが普段使っている社長、会長、あるいは専務、部長、課長といった役職呼称も法的裏付けがあるわけではなく、自主的に使っている呼称であるため、企業によって呼称が異なっています。
CxO呼称も同様に、使用が定められているわけではなく、使っていない企業も数多くあります。
3.責任の所在を明確にすることが目的
CxO呼称を使う最大の理由は、社外の顧客や取引先に対して、責任の所在を明確にすることです。CTOは技術に関して起きたことのすべての責任を取る人であり、CEOは会社で起きたことのすべての責任を取る人のことです。従来の社長、副社長、会長、あるいは技術部長、技術担当役員のような役職制度では、誰が責任者なのかがわかりづらいことがあります。
これを1人の人に対象範囲の責任を集約させることでわかりやすくし、顧客や取引先からの信頼感を得るねらいがあります。つまり、責任者の顔が見えるようにするということです。
また、社内でも誰が責任者なのかが明確になり、情報の集約、指揮系統の強化が進む効果があります。
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4.根底にある考え方は、経営と執行の分離
このCxOという呼称は1980年代の米国企業で始まり、日本企業もそれを見習ったものですが、考え方の根底にあるのは日米とも同じです。それは経営と執行の分離です。経営者は経営判断をすることに専念し、事業には直接携わらない。執行役は事業の監督に専念し、経営判断は経営者に任せる。この役割分担をすることで、経営判断と事業執行のスピードを上げようというものです。
そのため、日本では執行役員制度が広まりました。それまでの取締役(役員)は意思決定をしながら、事業の陣頭指揮もとっていたため、多忙になりすぎて、意思決定が遅れ、事業の監督も不十分という問題がありました。そこで取締役は事業から外れ、経営判断のみに専念し、さらに取締役とは別に事業ごとの執行役員を選任し、この執行役員が、取締役会の意思決定を受けて、事業を進めます。
日本の企業では、CEOを除き、この執行役員がCxOになることが多いようです。いわば現場トップです。
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5.独自の呼称を用いる企業も増えている
このようなCxO呼称は、テクノロジー系企業では数多く用いられてます。特にウェブやアプリを介して、直接消費者に商品やサービスを提供している企業では、会社の顔をはっきりさせるために、多くの企業が採用しています。
また、それだけはなく、企業の個性を表現するために、他社では使っていない役職を置く企業も増えています。
(1)CPO:Chief Philosophy Officer(最高哲学責任者)
企業の理念を社内、顧客に伝えることが仕事で、ブランディング、マーケティング、社内研修、社外研修など、縦割り分業を横断するように動きます。
(2)CXO:Chief user eXperience Officer(最高ユーザー体験責任者)
ウェブやアプリの使い勝手から始まり、消費者が入会をして退会するまでのシナリオに沿って、ユーザー体験を向上させる責任者です。特にサービスを提供している企業では、直接サービス品質を左右し、収益にも影響を与えることから、CXOの役職を置くところが増えています。
このようなユニークなCxO役職を置くと、事業の縦割りを横断する横ぐしでの品質管理や業務改革ができるようになります。その効果をねらって、この他にも独自のCxO役職を設置する企業が増えています。
(テクノロジー系企業、ベンチャー企業などでよく使われるCxO呼称。会社の個性をアピールするためにユニークな役職を設置しているところもある)
6.グーグルの「CXO」、マリッサ・メイヤー氏
CXOという役職を名乗ってはいませんでしたが、最もCXOらしい仕事をしたのが、元グーグル副社長のマリッサ・メイヤー氏です。メイヤー氏は、グーグルがまだ20名程度の小さな企業の時に入社をし、女性エンジニアとして活躍をしました。
頭角を表したのが、グーグル検索の結果を表示する時にどのフォントで表示すべきか論争が起きた時です。英文でも日本語のゴシック体にあたるヒゲのないサンセリフ体、日本語の明朝体にあたるヒゲのあるセリフ体の2系統があり、どちらが読みやすいかで論争になったのです。
メイヤー氏は、個人の主観ではなく、モニターテストを行うことで科学的に決着をつけようとしました。そして、得られた結論は、次のようなものでした。ヒゲのあるサンセリフ体は、それぞれの文字のヒゲが水平につながるように見え、特に文字のベースラインには下線が浮かび上がり「読みやすい」。
しかし、ひとつひとつの文字は余計なヒゲという要素があるので「見づらい」。一方、ヒゲのないサンセリフ体は水平線が浮かび上がらないので、行として捉えるのが難しく「読みづらい」。しかし、ひとつひとつの文字や単語は「見やすい」。
この結果を携えて、グーグル検索の結果は、文章を読むのではなく、必要な単語を認識するのだから、「見やすい」サンセリフ体が適していると提言をしました。
これ以降、文字フォントの大きさ、ラインの太さなど、グーグルすべてのプロダクトについて、すべてユーザーテストによる裏付けに基づいて決められるようになりました。メイヤー氏は、CXOという役職こそ名乗っていませんが、CXOとしての仕事を務めました。
その後、ヤフー!のCEOとなり、退職後、Sunshineという企業をグーグル時代の同僚と共同創業しています。
7.まとめ
CxOというのは、事業や部門の最高責任者を表す呼称で、社内外に責任者が誰であるのかを明確にし、顧客や取引先からの信頼感を得ることを目的にしたものです。また、社内的には経営と執行を分離し、意思決定から執行までのスピードを上げる目的もあります。
テクノロジー系の企業では、このCxO呼称を取り入れる企業が多くなっています。また、商法や会社法で定められた役職ではないため、企業の個性を表すために他社にはない呼称を取り入れる企業も増えています。テック企業では、CPO(最高哲学責任者)、CXO(最高ユーザー体験責任者)などをと入れる企業が増えています。