転職でキャリアアップするには?プロに聞く成功のポイント
いまの仕事にやり甲斐を持てない、自分のスキルを活かせていないなどの理由から、転職で「キャリアアップしたい」と考えている人も多いことでしょう。しかし、安易な気持ちで転職するとキャリアに傷がつき、逆に自分の市場価値を下げてしまうこともあるようです。
キャリアダウンすることなく、うまく転職するにはどうしたらよいでしょうか。某人材マネージメント会社でキャリアアドバイザーを務める小松由枝さんにお話を伺い、転職でキャリアアップするための方法をご紹介します。
転職で何を叶えたい? 目的を明確に、優先順位をつける
給与、人間関係、会社の将来性、残業など、転職を考える人は様々な仕事の悩みを抱えていることと思います。マイナビが行った調査によれば、転職活動を始めた理由として職場の人間関係を挙げる人が最も多く、給与や休日・残業時間などの待遇面がそれに続き、職場への不満が転職の動機となっていることがわかります。
しかし、ただ辞めたい一心で転職に踏み切ってしまうと、自分に合った仕事でなかったり、かえって待遇が悪くなったり、満足のいく転職にならないケースも少なくありません。転職を成功させるには、転職によって何を叶えたいのか「目的を明確にすることが大切」と小松さんはいいます。
「転職によって叶えたい目的は世代によって異なると思います。たとえば仕事への自信や意欲が出てくる30代の場合、仕事の幅を広げてポジションを上げたいなどキャリアアップを目指す人がいる一方で、結婚や出産などライフイベントが多い世代でもあり、ワークライフバランスを優先した柔軟な働き方を求める人も多いと思います。その場合、単に職種や年収で選ぶのではなく、女性が働きやすい環境や制度の有無もチェックポイントになります。お給料がよくて入社したけど、通勤に2時間もかかり子どもと過ごす時間がなくなった......、というケースも。勤務地や就労時間など絶対に譲れないものがあれば、条件として明記することも必要です。何のために転職するのか、目的を見失わないよう優先順位を決めて整理することが大切です」
キャリアアップか、キャリアチェンジか
転職で自分の能力を活かせる仕事をしたいと考えた場合、いまの経歴を積み重ねるキャリアアップか、新しい仕事に挑戦するキャリアチェンジか、悩む人がいるかもしれません。
キャリアアップとキャリアチェンジ、どちらも転職に関わるキーワードとしてよく耳にしますが意味は異なります。キャリアチェンジとは、未経験の仕事に挑戦するため異職種や業界へ転職すること。販売業で培ったコミュニケーション力を活かして営業職につきたい、といった場合はキャリアチェンジといえます。あるいは、今の職種にやり甲斐を感じられないので他の仕事を経験したい、というケースもあるでしょう。転職を機に「他の仕事も経験してみたい」、と考える人もいると思いますが、キャリアダウンに繋がる恐れはないのでしょうか。
「20代で転職する場合は、企業側も求職者の伸びしろに期待しますので、キャリアチェンジにチャレンジしてもよいと思います。ただし、まったくの未経験でキャリアチェンジできるのは20代まで。30代以降の求職者に対しては、一般的にキャリアを活かした即戦力が求められますので、職種を違えないことが大切です。営業職、事務職、経理なども、同じ職種を続けていれば、その道のプロフェッショナルとして実績をアピールすることができます。同じ職種であれば、異なる業界や分野へチャレンジすることも可能です」
転職で年収アップは可能?
転職先を選ぶポイントとして、給与や賞与を重視する人は多いと思います。転職サイトのCMなどでは、年収○百万円アップ!などのキャッチフレーズも見かけますが、実際に年収アップは見込めるのでしょうか?
「転職の場合、求人側の企業は前職年収というのを基本にします。たとえば前職で500万の年収があり、それがマーケット価値にあっている場合、転職後の年収も前職並であると考えてください。最初から年収アップを目指すというより、500万で入社した後に頑張り次第で収入を増やす、というのが一般的な流れです。ただし、今の会社でスキルやキャリアに見合わない年収の場合、転職して優良企業と出会うことで、正当な報酬として年収がアップしたというケースもあります。
逆に、前職より給与が下がってしまった場合は、転職先を決めずに辞表を出してしまい、早く就職したいという焦りから選択を誤ったことが考えられます。内定が出たことで安心してしまい、給与等の条件を口頭で聞いただけで書面確認していなかったということも。転職は計画的に行うことが大切です。
一方で専門性のある職種の人の場合は、前職より年収がアップすることも珍しくありません。IT系やメディカル関連の専門職などは需要が高いため、業界の市場価値と照らし合わせた時に前職での給与が低いということがわかれば、転職の条件として市場に見合った報酬をオファーすることもあります」
転職でキャリアアップするコツは?
転職でキャリアアップを望むなら、最終ゴールに向けてどのような道筋を辿ればいいのか、しっかりとキャリアプランをたてる必要があります。その場しのぎで安易に転職を繰り返せば、キャリアアップどころか「経歴に傷が付く可能性もある」と、小松さんはいいます。
「転職によってキャリアアップしようと考えるなら、長期的なビジョンでキャリアプランを構築する必要があります。日頃から履歴書、職務経歴書を意識して仕事をする習慣をつけると良いでしょう。履歴書に書かれた経歴を見ると、その人の行動、人柄などがよくわかります。たとえば、ずっと経理だったのに、なぜか途中で営業をやったり、販売職をやっていたり......。キャリアの方向性を見失っていることが履歴書に残り、悪い印象を与えてしまいます。転職は慎重に、戦略的に、長期的なビジョンをもって行う必要があります。
自分が40代、50代になった時の履歴書を想像してみてください。そこに、筋の通った説得力あるキャリアが記されていることが大切です。「とりあえず少しの間だけ」と安易な気持ちで不本意な転職をすれば、せっかく積み上げたキャリアに汚点を残す可能性も。自分の市場価値を下げないよう、仕事選びは慎重に行いましょう」
コロナ禍においては、大企業であっても安泰とはいえない時代。いまは転職の予定がないという人も、いざという時のため日頃から心の準備が必要といえそうです。
「転職する可能性も念頭において、いまの仕事は職務経歴書に実績として書けるのか、などと考えながら仕事すると良いです。若い人ほどぜひそうして欲しい。たとえば営業のプロとして、この業界でこれだけの売上実績を残しました、など。事務職の場合でも、社内表彰の受賞歴や資格など履歴書に残せるような実績があると有利です。また、興味がある業界や分野があるのなら日頃から情報収集を。いまはネットで簡単に情報収集ができますので、業界紙や四季報をチェックするのも良いでしょう」
まとめ
キャリアアップとキャリアチェンジを両立させるのは、長期的なビジョンと計画性、慎重さが大切です。未経験からやってみたい仕事や興味を持った仕事へのキャリアチェンジは基本的には20代まで。でも30代以降にキャリアチェンジをした後もしっかりキャリアを磨けば次の転職時はキャリアアップと年収が実現するかもしれません。もし今の仕事に迷いがあるならば、まずは自分が狙う業種の転職事情をリサーチしてみましょう。また独りで悩むよりキャリアアドバイザーに相談してみるのもひとつの手です。プロの適切なアドバイスを受けることで、あなたの能力を活かしたキャリアプランが見つかるはずです。
▶︎ プロフィール
峯岸 弓子(みねぎし ゆみこ)
企業のPR誌、広告印刷物等の企画・編集を経て、フリーランスの編集・ライターに。マネー系ビジネス誌の他、旅や地方移住、農業、工芸などに関わる記事を執筆。