「アンコンシャス・バイアス」 自分には無理...の思い込みを解く
近年、「無意識の偏見・思い込み」を意味する「アンコンシャス・バイアス」という言葉が注目されています。女性活躍を妨げる要因のひとつとして、セミナーや研修などを取り入れる企業も増加。管理職ならぜひとも知っておきたいアンコンシャス・バイアスの概念と、思い込みを解き放つ具体的な方法を解説します。
「無意識の思い込み」にしばられていませんか?
「女性は管理職に向いていない」「男性に比べてリーダーシップが劣る」「家事や育児は女性が中心となって担うもの」「妻は夫の仕事を優先すべき」「時短勤務の女性は、仕事よりも家庭を重視している」「男性は家事が苦手」「前例がないことはやるだけムダ」「ゆとり世代は根性がない」「シニアはパソコンが苦手」―――。もし、あなたがこうした先入観にとらわれているなら、それは「アンコンシャス・バイアス」かもしれません。
「アンコンシャス・バイアス」とは、直訳すると「無意識の偏見」。自分では気付いていないけれど、先入観や思い込みにとらわれたモノの見方をしてしまうことを指すものです。
"私は偏見なんて持っていないつもりだけれど..."そう思う人もいるかもしれません。しかし、アンコンシャス・バイアスは、これまで育った環境や経験のなかで刷り込まれた価値観や考え方のクセ。無自覚ゆえに自分では気付きにくく、誰もが何かしらのバイアスをもっていると言っても過言ではありません。性別や立場、学歴などから人や物事を判断し、ステレオタイプに当てはめて考えるのがその典型。また、身内意識から同じ属性を持つ人に親しみを感じ、そうでない人に警戒心を抱くのも同様です。
能力の評価に影響したり、判断を歪めてしまう場合も
「無意識の思い込み」は、誰もが持っているものであり、それ自体が悪ではありません。
ある程度パターン化させることで、物事を高速で処理することができるのも、なせるわざ。
ですが、問題は、それによって、能力の評価にネガティブな影響を及ぼしたり、判断を歪めてしまうことにあります。
代表的なケースとして有名なのが、アメリカで行われたオーケストラ団員のオーディションです。応募者と審査員との間にスクリーンを置く「ブラインドオーディション」を取り入れたところ、女性の合格率が50%も上がったといいます。
そもそもアンコンシャス・バイアスは、2000年頃からダイバーシティ&インクルージョンの施策としてアメリカで導入が始まり、近年では、日本でも社員研修に取り入れる企業が増加。女性活躍やダイバーシティの推進を阻む要因のひとつとして、関心が高まっています。
上司のアンコンシャス・バイアスが部下のやる気と自信を奪う!?
意思決定や部下の評価に影響を及ぼしがちな「アンコンシャス・バイアス」の存在。男性管理職の意識改革の一環として研修などに取りくむ企業が増えていますが、女性管理職にとっても、こうした概念とその対処法を知っておく必要があります。
例えば、「子育て中の女性に出張は無理だろう」「女性に責任のあるポジションを任せるのは荷が重い」などのバイアスを持っていたとします。その結果、負担の少ない仕事ばかりを任せられた社員は、"自分は期待されていない"とやる気や自信を失ってしまうかもしれません。さらには、部下の成長の機会を奪うことにも繋がります。
実際には、子育て中でもキャリアアップに積極的な女性もいますし、責任のあるポジションにやりがいを感じ、より上を目指したいと考える人もいるでしょう。よかれと思った配慮が、部下のモチベーションを下げることになっては上司としては失格です。自分のものさしで判断せず、まずは本人に聞いてみることが大切です。
"私には無理..."という「思い込み」が見えない壁を作る
一方で、女性が自分に対して抱くアンコンシャス・バイアスもあります。"私には管理職なんて無理...""リーダーには向かない"と自分の能力を低く見積もってしまう。特に、日本の女性は自分に自信がない人が多く、こうしたケースは少なくありません。これも自分自身への偏見です。また、「前例がないから無理」「ロールモデルがいないからできない」と、最初から諦めてしまうことにより、選択の幅を狭めたり、キャリアの可能性を摘んでしまう。思考停止してしまうことで、自分で見えない壁を作っているとしたら、もったいないことだと思いませんか?
"思い込み"を解き放ち、前向きな考え方を癖にする方法とは
では、こうした無意識の思い込みや偏見から抜け出すには、どうすればいいのでしょうか。
まずは、「人間は誰しもアンコンシャス・バイアスを持っており、自分自身にもそうした偏見が存在する」と知ることです。頭にとどめておくだけでも、多くの気づきがあるはずです。
次に、自分自身のアンコンシャス・バイアスに目を向け、それに気付くことです。具体的な方法としては、「普通だと~」「一般的には~」「〇〇はこうに違いない」「~すべき」などの思考が頭をよぎったら、受け流さずにいったん立ち止まること。その上で、「これって事実? 根拠はあるの?」「自分のものさしや色眼鏡で見ていない?」「一般的にはそうかもしれないけれど、人によって違うのでは?」などと、自問自答を繰り返してみましょう。これまでの思考パターンに陥った時こそ、やってみる。思考をとめないことがカギになります。
まとめ
他人に対するアンコンシャス・バイアスを解くにはコミュニケーションが重要。"人それぞれ"を身をもって経験することにより、「違いを知り、認めること」ができるようになっていくはずです。
▶︎ プロフィール
西尾英子 フリーライター
大学卒業後、男性総合誌で8年間編集に携わった後、フリーライターとして独立。主に女性誌やビジネス誌、書籍で女性の生き方や働き方などを執筆。これまで数多くの著名人やビジネスパーソンなどを取材。