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「ペイ」だらけのQRコード決済乱立、本当の理由は企業の都合--置き去りにされる消費者の利便性
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「ペイ」だらけのQRコード決済乱立、本当の理由は企業の都合--
置き去りにされる消費者の利便性

2019.06.06

 
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Felicaがあるのに、
なぜQRコード決済が増えていくのか

新たなQRコード決済が続々登場している。「100億円還元」で有名になった「PayPay」、LINEのユーザー数を背景にした「LINEペイ」。携帯電話キャリアもNTTドコモが「d払い」、KDDIは「auペイ」を始めている。さらに、ゆうちょ銀行が「ゆうちょPay」を始め、今年秋には1000行以上もの銀行が参加する「Bank Pay」が始まる。ECサイトもアマゾンが「Amazon Pay」、楽天市場が「楽天ペイ」。コンビニでは、セブンイレブンが「7pay」、ファミリーマートが「ファミペイ」を始める。

もう「ペイ」だらけで、ここまでくると「QRコード決済のゴリ押し」とすら思いたくなる人も多いのではないだろうか。なぜ、こんなにもQRコード決済が乱立するのだろうか。

しかも、多くの人が疑問に感じるのが、Suicaに代表されるFelicaというタッチするだけ決済ができる素晴らしいテクノロジーが日本にはあるのに、なぜわざわざセキュリティも弱く、ユーザー体験も悪いQRコード決済ばかりが増えていくのかということだ。QRコード決済をするには、事前にスマホのアプリを起動して、QRコードを表示してからレジのスキャナーにかざさなければならない。あるいは、逆にアプリを起動して、カメラを起動し、店舗側のQRコードを自分でスキャンし、金額を入力して支払わなければならない。

Suicaならタッチするだけ完了だし、クレジットカードでも差し込んでPINコード(暗証番号)を入力するだけで終わる。日本は技術を持っているのに、わざわざQRコード決済に逆行していると思っている人も多いはずだ。



(ファミリーマートで利用できる決済サービス一覧。クレジットカード、交通系カードはひとまとめにしているのに、21種類もある。スタッフもレジ操作を覚えるのがたいへんだと思う(http://www.family.co.jp/services/payment.htmlより))。

鍵になっているのは決済手数料

なぜ、続々とQRコード決済がゴリ押しされるのか。鍵になっているのは決済手数料だ。多くのキャッシュレス決済では、3%から5%の決済手数料を取って、それで利益を出している。例えば、クレジットカードで100円の買い物をすると、お店の実入りは97円で、3円はカード運営会社に手数料として取られる。

わずか3%程度と言え、これは大きい。例えば、あなたがカフェを経営して、1日50万円の売上があったとする。月30日営業して、月の売上は50万×30日=1500万円となる。すべてキャッシュレス決済だとすると、1500万円×3%=45万円が手数料として取られることになる。

よく「キャッシュレスの利点は、現金を扱う不要な業務コストを削減できること」と言われるが、現金を数えたり、釣り銭を用意したりという作業は、店長の1日の労働時間のうち10%程度ではないだろうか。多く見積もって20%とし、店長の人件費が月50万円だとすると、現金扱いコストは50万円×20%=10万円となる。つまり、現金オンリーにしたらコストは10万円、キャッシュレスオンリーにしたらコストは45万円となり、現金の方がコストが抑えられるのだ。こんなパラドクスも生まれてしまう。

個人経営のカフェではどうしようもないが、体力のある小売チェーンなどでは、この手数料による利益の流出をなんとかしたい。解決策は自分でキャッシュレス決済を運営してしまうことだ。よその会社に取られるぐらいだったら、自社あるいは自社グループ内に還流させたい。

小売チェーンは、
防衛的な理由でQRコード決済立ち上げ

かといって、クレジットカードやFelica決済という本格的なキャッシュレス決済はコストがかかりすぎる。そこで、決済システムもシンプルで、アプリで対応できるQRコード決済を始めることになる。

体力のある小売チェーンは、このような防衛的な理由で、QRコード決済を立ち上げている。

非小売業にとっては、手軽に決済業務に参入できるチャンスになる。キャッシュレス決済業を始めるには、システムだけあっても意味がない。決済方式に対応してくれる加盟店を集める必要がある。しかし、この加盟店開拓業務が大きな参入障壁になっている。なぜなら、基本的には街中の商店を1軒1軒回って、店主を口説いていくという伝統的な営業手法を取らざるを得ないからだ。

膨大な人数の営業部隊が必要になり、継続的に営業活動をしていかなければならない。既存のクレジットカード会社は、長年、この加盟店開拓業務を地道にしてきた蓄積があるため、多くの店舗で利用できるようになっている。

クレジットカードのビジネスは、大雑把にいって、加盟店から手数料を3.5%取り、このうちの1.5%が加盟店開拓と管理を行うカード会社(アクワイアラー)の収入となる。残りの1.5%がカード発行会社(イシュアー)の収入になり、さらにネットワーク接続料などに消える。つまり、クレジットカード手数料の半分弱が加盟店開拓、管理コストなのだ。

QRコード決済では、
加盟店開拓コストも大きく削減

QRコード決済では、この加盟店開拓コストも大きく削減できる。QRコード決済の加盟店になるには、スマートフォンかタブレットがあればよく、特殊なカードリーダー端末やPOSレジといった設備は必要ない。そのため、開拓営業をしなくても店主自らアプリをダウンロードして、セットアップして加盟店になることができるからだ。もちろん、従来的な加盟店開拓営業もしているが、1軒1軒回るなどというやり方よりも、商店会などで店主を集めて説明会をして、その場でアプリをインストールして加盟店になってもらうという手法もよく行われている。

つまり、QRコード決済が雨後の筍のように登場して乱立している理由は、企業側の都合なのだ。「アプリを起動してQRコードを表示し…」という消費者側の利便性は置き去りにされてしまっているようなところがある。さらに乱立しすぎて、どの店でどの決済方式が使えるのかをいちいち確認する必要があり、「現金の方が便利なんじゃないか?」と思うことすらある。

LINE、NTTドコモ、メルカリの国内3社と「アリペイ」「WeChatペイ」の中国2社は、統一したQRコードを開発することを表明した。これが呼び水となり、他のQRコード決済も統一の動きが進んでいくものと思われる。

一方で、QRコード決済の本家である中国では、QRコードを脱して、顔認証決済やNFCを利用した決済に移ろうとしている。数年後、日本だけがQRコード決済を使っているガラパゴスになっているなどということはまさかないですよね?



(中国杭州市のケンタッキーが運営するファストフードレストラン「KPro」。入り口のタッチパネルで、メニューを選び、顔認証決済する。顔認証決済は、カルフール、フーマフレッシュなどのスーパーやファストフードを中心に広がり始めている)



(NFC対応スマホで使えるテンセント乗車カード。中国200都市の地下鉄、バスの料金がタッチするだけで支払える。中国では新機種にNFC搭載が定番化したのが2017年頃であるため、ようやくNFCスマホが普及してきた。地下鉄に乗るときは、QRコード方式よりもNFCの方が圧倒的に便利だと歓迎されている)

原稿:牧野武文(まきの・たけふみ)

テクノロジーと生活の関係を考えるITジャーナリスト。著書に「Macの知恵の実」「ゼロからわかるインドの数学」「Googleの正体」「論語なう」「街角スローガンから見た中国人民の常識」「レトロハッカーズ」「横井軍平伝」など。

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