皆さんご存じのように、2021年8月は新型コロナウイルス感染者数が急増、いわゆる「第5波」となって新型コロナウイルスが襲ってきた月でした。今回は、帝国データバンクの調査をもとに、新型コロナ感染者数の拡大が日本国内の景気にどんな影響を与えているのかを見ていきます。
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帝国データバンクは、全国2万4,458社を対象に2021年8月の国内景気動向を調査・集計し、景気DIとして発表しました。
(※景気DIは50を境にそれより上であれば「良い」、下であれば「悪い」を意味し、50が判断の分かれ目となる(小数点第2位を四捨五入)。また、企業規模の大小に基づくウェイト付けは行っておらず、「1社1票」で算出している)
1.2021年8月の景気は一時的に足踏み
この調査によると、2021年8月の景気DIは前月比1.5ポイント減の39.2となり、3カ月ぶりに悪化しました。
緊急事態宣言やまん延防止等重点措置について33都道府県への拡大や延長が実施されたことに加え、豪雨・長雨による影響も下押ししました。人流抑制策が強化されるなかで、小売業や個人向けサービス業などの個人消費関連が再び大きく落ち込んだほか、金属や木材、半導体などの材料不足や価格高騰が、企業の収益環境を悪化させる要因となりました。
(【画像出典】帝国データバンクプレスリリース)
一方で、ワクチン接種の普及が進むなか、海外経済の回復にともなう輸出の増加や好調な半導体関連、郊外での住宅購入の活発化などはプラス要因となりました。
国内景気は、感染者数急増に記録的大雨の影響も加わり、急ブレーキがかかったような状況となりました。
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2.全10業界中9業界が悪化、特に個人消費関連の業種で大幅減
今度は業界別に見ていきます。帝国データバンクによると、全10業界中、『その他』を除く9業界が悪化。緊急事態宣言・まん延防止等重点措置の影響や、各地で悪天候が続いたことで、特に個人消費関連の業種が大きく落ち込んだといいます。また、自動車工場で減産や稼働停止がみられるなか、『製造』も3カ月ぶりに悪化しました。
『小売』(32.7)
前月比2.7ポイント減でした。3カ月ぶりに悪化し、景気DIは全10業界で最も低い水準となりました。各地で緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発出される一方、記録的な大雨の影響も重なりました。
そうしたなか、百貨店やコンビニエンスストアが含まれる「各種商品小売」(同8.3ポイント減)やアパレルなどの「繊維・繊維製品・服飾品小売」(同3.6ポイント減)などが大きく落ち込みました。また、半導体不足の影響で商品の供給面に制約がみられる「自動車・同部品小売」(同3.7ポイント減)や「家電・情報機器小売」(同3.9ポイント減)も悪化しました。
『サービス』(39.1)
前月比2.4ポイント減でした。3カ月ぶりに悪化し、景気DIは再び40を下回りました。多くの地域で緊急事態宣言などの人流抑制策が発出されるなか、「飲食店」(同4.9ポイント減)、「旅館・ホテル」(同3.0ポイント減)、「娯楽サービス」(同5.6ポイント減)といった個人消費関連の景況感が再び悪化しました。
特に、「飲食店」「旅館・ホテル」は10台と厳しい水準が継続しています。また、イベントや展示会の中止による影響が続く「広告関連」(同0.7ポイント減)や、宿泊業・飲食サービス向けなどの新規求人数が落ち込んでいる「人材派遣・紹介」(同3.5ポイント減)なども悪化しました。
『製造』(41.5)
前月比1.2ポイント減で、3カ月ぶりの悪化となりました。金属や木材、半導体などの材料不足、価格高騰が続き、『製造』の仕入単価DIは65.3(同0.3ポイント増)と12カ月連続で上昇しました。
他方で、『製造』の生産・出荷量DIは51.1(同2.7ポイント減)と7カ月ぶりに低下しました。そうしたなか、自動車メーカーの減産の影響を受け「輸送用機械・器具製造」(同2.4ポイント減)や、外食向けや酒類が厳しい「飲食料品・飼料製造」(同2.7ポイント減)が大きく悪化。
一方、半導体製造装置などが含まれる「機械製造」(同0.7ポイント増)は14カ月連続の改善となりました。また、医療用機械器具などが好調な「精密機械、医療機械・器具製造」(同0.4ポイント増)も50を上回る水準を維持しました。
『農・林・水産』(37.0)
前月比1.5ポイント減となり、2カ月連続の悪化となりました。『農・林・水産』の販売単価DIは53.9(同2.6ポイント増)と大きく上昇。記録的な大雨の影響で野菜の供給不足や価格高騰が悪材料となりました。
また、対象地域が拡大された緊急事態宣言・まん延防止等重点措置の影響で飲食店向けの需要がより落ち込み、畜産も悪化しました。
一方で、輸入木材の不足が続き国産木材の需要が高まるなか、森林組合は高水準を維持しました。
3.今後は「一時停滞ののち緩やかに回復」
(【画像出典】帝国データバンクプレスリリース)
帝国データバンクの今後の国内景気の見通しによると、やはり新型コロナウイルス変異株の動向が最大の懸念材料と指摘しています。海外でも感染が再拡大しており、再び輸出が減少に転じることになれば大きな下押し圧力になる可能性もあるとしています。
また、原材料など仕入価格の上昇や半導体不足に加えて、政局の動向や中東情勢など地政学的リスクも注視する必要があります。特に企業の業績回復に対する二極化傾向の広がりがマイナス要因となりうるとしています。
他方で、ワクチン接種の普及とともに経済活動は緩やかに正常化に向かうと予測。設備投資の増加傾向のほか、5Gの本格的普及や自宅内消費の拡大、海外経済の回復、SDGsに対応した投融資などがプラス材料になるとしています。
帝国データバンクでは、「今後は、緊急事態宣言等で一時停滞するものの、緩やかな回復が続くと見込まれる」としています。