1.はじめに
前編では、「DXとは何か」、「DXを進める意義」について改めて見てきました。
その続編となる本編では「DXの進め方」、「DX時代に求められる人材」についてお話しします。
2.DXの進め方
IDCの提唱では、「DXを進めるには第3のプラットフォームを活用し、顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出、競争上の優位性を確立する必要がある」とされていて、経産省の2025年の崖でも「DXを進めないと既存システムが重荷になり、負債となる」と言われています。
一見するとシステムそのものの刷新に目が行きがちですが、本質的にはテクノロジーを駆使して人々の生活をより豊かにするということになるので、企業の立場からすると、ビジネスの側面でも、システムの側面でも考える必要があるのではないでしょうか。
前編でお話しした企業がDXを推進する意義の二つ、ポジティブな側面「競争優位を築き競合に打ち勝つことができる」、ネガティブな側面「進めないと既存のシステムが重荷になる」というのがそれぞれ、ビジネス観点とシステム観点と言えるのではないでしょうか。
2.1.ビジネスの側面
テクノロジーの進歩によって、これまで裏側でビジネスを支えていたITが、より顧客に近づき、新しいチャネルとなることで、顧客との新たなタッチポイントとなりました。
その新しいタッチポイントを活用し、顧客とコミュニケーションを取りながら、自分たちのサービスや製品、ソリューションに磨きを上げ、CX(カスタマーエクスペリエンス)を向上させる。それができるかどうかが大きな分岐点と言えます。
それを実現するためには、自分たちの顧客は誰か?顧客は何を求めていて何に反応するのか?、ターゲットとなる顧客を定義(ペルソナを定める)することから、その顧客の購買まで(もっと言うと生涯を通じてまで)のカスタマージャーニーの定義、要所で発生する顧客との新たなタッチポイントを見極め、ビジネスを再定義する必要が出てきます。
カスタマージャーニーマップ関する詳細は以下のサイトも参考になるかと思います。
【参考】「5分でわかるカスタマージャーニーとは?取り入れ方や分析のコツを事例とともに解説」
ここまでくると、誰しもが経験したことのない領域になっていくのではないでしょうか。今までのように事業部門と情報システム部門、ユーザ企業とITベンダのように役割をきちんと分け、どちらかに責任があって、どちらかが正解を持っているべき。みたいな話は通用しにくくなります。
難しい話ではありますが、組織の垣根を超え、同じ議論のテーブルに座ることから物事は始まるのではないかと筆者は考えます。
2.2.システムの側面
経産省の2025年の崖で指摘されている技術的な負債から解放されるためには、レガシーなシステムを刷新することが求められます。
しかしながら、その現実はそう簡単ではありません。
メインフレームやオープン系と言えど、何度も更改を繰り返しながら、改修が加わってきた、まるで増改築を繰り返してきた巨大な屋敷と化しているシステムを一気に、第3のプラットフォームに移行させるなんて、とてつもない勇気と時間、そしてお金が必要になります。
現実的に考えれば、システムの刷新は、いくつかのフェーズに分け、最初にシステム基盤のRePlatformを実施し、それからアプリケーションのReDesignに踏み切るなど、段階的に実施していくことが多いのではないでしょうか。
では、いかにして上述したビジネスの側面で考えた顧客とのタッチポイントを活用し、顧客にアプローチするか。答えは一つではありませんが、現場で実際に用いられた例を挙げて行きたいと思います。
堅牢で失敗が許されず、高いサービスレベル(SLA)に縛られたレガシーシステムSoR(System of Record)と、顧客とのつながりを重視し、顧客ニーズの変化に合わせ、俊敏に変化を受け入れられるデジタルなSoE(System of Engagement)でシステムの定義を見直し、それぞれ分けて考える。という手法も一部においては有効と言えます。
SoRとSoEを理解するには、以下のサイトも参考になるかと思います。
【参考】「SoE、SoI、SoRとは?これからの基幹システムを考えるヒント」
例えば、基幹システム(SoR)の前段に、API(Application Programming Interface)を利活用できるデジタルな入口となるGateway(SoE)を配置するパターンです。
いわゆるレガシーなシステムはBack Endとして活用し、そこにデジタルなFront Endシステムのキャップを被せるようなイメージでしょうか。
これにより、レガシーなシステム全面刷新に要する時間とお金を回避しつつも、デジタルなビジネスを展開していくことができるようになるのではないかと思います。
3.DX時代に求められる人材
前編で指摘してきた通り、日本のIT業界は構造的にユーザ企業よりITベンダに多くの技術やノウハウが蓄積されることを長年許してきました。それはある意味、既存の業務を置き換える、効率化する、という守りのITだったからこそ、外部(ITベンダ)に発注できたともいえるのではないでしょうか。
このような受発注の構図は、ユーザ企業のビジネスモデルやプロセスそのものを変え、ビジネスのトップライン(売上)を向上させる必要性が求められるDX時代では大きな壁となってきます。
それは何か?ユーザ企業の情報システム部門も、ITベンダも、既存の業務を見える化・文章化(要件定義)し、それらをシステムとして作り上げることは得意とする一方、企業の売上や利益、新しいバリューを見出すことはやったこともなければ、訓練されてもいないため苦手、と言うわけです。
これまでのITは「正解(既存の業務や実現すべき機能)があって、その正解を当てに行く。」ことが仕事であったものの、DX時代のITは「正解(いかにトップラインを向上させるか)のない世界」で考え、悩み、もがき続ける領域に変わったのです。
DX時代に求められる人材、つまり、必要とされる力(スキル)とは何か?については様々な意見がありますが、現場の感想として述べていきたいと思います。
3.1.必要なスキルとは何か?
・クラウドネイティブな技術を扱う力
第3のプラットフォームといわれる技術を扱う力が必要となります。改めて、第3のプラットフォームとは「クラウド」「ビッグデータ」「モバイル」「ソーシャル」(IoTも加わったとか)といった現代の柱となる技術要素となりますが、中でもクラウドに関する技術は、どの企業でも、どんなプロジェクトでも必要となってきますので、もはや当たり前化しているとも言えます。
・様々なソリューションを組み合わせる力
昨今のシステム企画・検討・実装の現場ではスクラッチで作るということをあまり聞かなくなりました。恐らく、日本でも「これまでのように個社ごとの要件に合わせ、一からシステムを、アプリケーションを組み上げることは時間もお金もかかる上に、レガシーシステムになっていく」という認識が広まったからではないかと思われます。
そうすると、おのずと様々な製品やソリューション、パッケージを組み合わせてシステムの要件をカバーすることになりますので、幅広く色々な領域の知識が求められます。
エンジニアとして、これまでのようにデータベース一本でとか、ネットワーク一本でとか、何か一つを極めるようなキャリアの選択肢は選びにくくなってきたわけですね。
話がそれましたが、一から作り上げるのではなく、実績のあるものを組み合わせるため、様々なソリューションの機能を理解し、それらをつなぎ合わせ、システム全体として組み立てる力が求められます。
余談ですが、システムへの期待として、わがままを言い続けると「既製品」では対応できないことも多々発生することから、システムに求められる要件をユーザと調整する力も合わせて必要と言えます。
3.2.最も重要なのは何か?
前述の通り、この時代の顧客ニーズに応え、DXを推進するためには、正解のない世界に自ら身を投じる必要があります。
学校やこれまでのシステム構築のように「誰かが答えを持っている」という状態ではないため、自分が考えるべき顧客は誰か?その顧客になったつもりで、システムは、サービスは、どうあるべきなのか?顧客目線であることが求められます。
エンジニアにとっては、いばらの道と言えるのではないでしょうか。
ただ、それは、ビジネスを考えてきた立場の人にも当てはまります。これまでのように営業が仕事を取ってきた、という話ではなくなりますので。
だからこそ、エンジニアであってもユースケースを考え、もっともらしい(正解はないから)顧客体験と収益モデルを検討する必要があり、「人と向き合う力」が必要なのだとあえて言いたいと思います。
4.おわりに
最後までお読みいただきありがとうございます。
前編のDXの定義から意義、後編のDXの進め方と求められる人材まで、広く浅く様々な視点に触れてまいりました。
DX、背景には技術革新というものがありますが、筆者としては
「人に向き合う」、
「いつまでも、どこまでも、議論を重ね、自分が、自分たちがやろうとしているビジネスがいかに顧客を満足させられるか。」
に他ならないと思う次第です。
読者の皆様におかれましても、皆さまが置かれた役割・立場を超え、ITじゃなく、「顧客」、ましてや「個客」に目を向けてみるのはいかがでしょうか。
【会社概要】株式会社BFT
東京、名古屋にてシステムインフラの強みを活かした基盤構築自動化サービスやIT技術の教育サービスなどを展開している。
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