『ゲスの極み乙女。』の休日課長さんに聞く"困難な時代を生き抜く力"(前編)--「会社員時代に"自分を盛らないこと"を学んだ」

連載・インタビュー

新型コロナウイルスの感染拡大で突然訪れた社会の転換期。不安定要素だらけで、自分の将来像が描けないと嘆いている人もいるかと思います。そんな方々に「今こそ自分をじっくり分析して、自分の得意分野を見つけてみては」とアドバイスしてくれたのは、「ゲスの極み乙女。」の休日課長さん。人気バンドのメンバーながら、「バリバリ理系大学院生」「電気メーカー社員」という経歴も。学生時代や会社員時代のエピソードも交えつつ、この時代を生き抜くヒントを教えてもらいました。

初めての弦楽器はウクレレ。ベースにはまった後も「音楽で食べていく」の発想はなかった

――楽器を始めたのはいつごろですか。

中学で軽音部が作りたくて、元担任の家庭科の先生に顧問をお願いしたら、「エレキは不良がやるものだ」って言われたんですよ(笑)。じゃ、エレキじゃなきゃいいのかと、こっちも頑張っていろいろ提案していったら、「ウクレレならいい」って話になって。だからスタートは中2で始めたウクレレです。僕一人だったので部活は作れませんでしたけど。

――その後は?

ギターです。学校のベランダでビートルズの曲をフィンガーピッキングでかっこよく弾いている友達(※)がいて、「ギター、モテそう」と。でもギターはどこかしっくりこなくて、学園祭などで弾く機会があったベースに興味が出始めました。完全にベースに移行したのはその頃ずっと付き合っていた彼女に振られた時。大学受験の合格祝いで買ったジミ・ヘンドリックスのライブDVDを見ていたら、「こんな風に弾けない俺はもうギターをやめよう」って。で、その後に「Red Hot Chili Peppers」のライブDVD見て、大好きなギタリスト、ジョンフルシアンテと絶妙かつアグレッシブに絡むフリーのベースを見て「俺はすごくかっこいいギタリストと絡めるようなベーシストになろう」と思ったんです。それで、大学に入ったら本格的にベースをやると決めました。

(※現在プロのサックス奏者として活躍する永田こーせーさん)

――大学はバリバリ理系ですよね。

東京農工大の電気電子工学科でした。将来的にはものづくりがしたいと思っていたからです。ものづくりが好きで、楽器を見ても、どういう仕組みで音が鳴っているのだろうと考えるタイプですね。大学院では、医療超音波を使ってメタボリックシンドロームの診断をする研究をしました。

――大学でベースを始めて、かなりのめり込んだ感じですか。

メトロノームを夜な夜な流しながら、部室で一人練習したりしていました。いい意味でもそうでない意味でも「理系っぽい」とよく言われるんですが、この時も高性能なメトロノームを買ったところでストイックモードが入った感じです。

――そのころプロのミュージシャンになるという考えは?

全くなかったです。川谷(※)がやっている「indigo la End」に最初にサポートで呼ばれたのは就活中で、その後正規メンバーになるんですけど、その間に電機メーカーへの就職が決まりました。「音楽で食べていく」とはあまり考えていませんでした。

(※「ゲスの極み乙女。」の川谷絵音さん)

「失敗した自分」ではなく、「成功した自分」をイメージしてミュージシャンに転身

――会社に入ってからの、音楽活動は?

1年目に仕事に集中しようといったんバンド活動をやめました。それからは時々ライブハウスで演奏するくらいのゆるい感じでした。でもある時、セッションしに音楽スタジオに行こうと誘われて、合わせてみたら、「このメンバーはなんかバンドになりそうだな」って。そのメンバーが「ゲスの極み乙女。」でした。それでじわじわ活動を始めたらどんどん本格的になっていって。

――でも実は副業禁止の会社だったとか。

はい。だからミュージックビデオを作る話とかになって、会社にばれたらまずいとサングラスをつけたりしていましたけど、会社にはふつうにバレていました(笑)。それで「バンド活動の収益は一切もらわないので」と自分から言って、両立を続けました。でもこのままでいいのかと悩んでもいて、そんな時に、上司が助けになる一言を言ってくれたんです。「10年後に会社員とバンド活動の両方がすごくうまくいっている姿を想像して、その時にどちらを選ぶか想像できるなら、今のうちにそっちを選んだほうがいい」と。今でも心に残っている、人生を変えたアドバイスでした。

――それでバンド活動を選んだんですね。

はい。そこからは早かったです。先輩たちはこれからも僕が仕事を続けると見越して、時間を割いていろいろ教えてくれてきたわけで、気持ちが固まったからにはすぐ辞めないと失礼だと思いました。でも、退職願を出したら、それが4月1日(エイプリルフール)で、「えっ、本当はどうなの?」って(笑)

――それは受け取る方も戸惑いますよね(笑)。ところで、「バンド活動の収益をもらわない」ってよく考えるとすごい話ですが。

後から面倒くさいのがすごく嫌だから、オープンにしておいた方がいいなと。何でもそうですが、ちょっとごまかそうとすると、そのためにまたうそをつくことになる。負のスパイラルが始まるんです。すごい上司がいて、その人はミスったことや、うまくできなかったことそのものは責めないですけど、できる対策をしていなかったとか、何かを隠そうとしていることに対してすごく怒ったんです。会社員時代に「自分を盛らないこと」を学ぶことができたのはよかったし、今もそれは心がけています。

料理も仕事も音楽も、全体像を捉えることから始める

――休日課長さんが会社員って想像つかないのですが、どんなタイプだったのですか。

こんなこと言うのは恥ずかしいですが、3年間詰め込んで働いて、実績も残せたなという自負はあります。僕は不器用だったので、パワープレイだったと思いますが。手の抜き方がわからなかったのです。

――仕事を進めるうえで心がけたのは?

全体像を捉えることですね。例えば僕はカレー作りが趣味なので、それにたとえて話します。例えば、「10日後に1レシピください」となったらWord1枚にまず提出するフォーマットに則ってレシピを書いちゃう。中のクオリティとか気にしないで。で、その通り作ってみて、うまくいけばそのまま渡せばいいし、うまくいかなかったら、ちょこちょこ直してそれで出すんです。これを、先にレシピを書かないでちょこちょこ一つずつ順を追って精度を上げようとすると、締め切り直前に最初の手順に戻らなきゃとかになるんですよ。最初に全部流れを作ってしまってそこから流れに沿って小さいところの精度を上げていった方がいい。そんな感じで仕事も進めていました。

――なるほど。それは音楽でも同じなのでしょうか。

音楽の場合、成り行き任せってのもちろんありなんですけど、最初に全体像をイメージするといい、という点は同じかもしれません。僕の場合、ベースのアレンジを考えるときは、まず1曲通せるようにしてから、「この流れだったら、AメロよりBメロは落ち着いていた方がいいか」とかそんな感じでアレンジしていきます。全体像があって、そこから落とし込んでいくというか、そういう考え方の方が割と通した時にいい流れになるので。まあ、その時々によって作り方も様々なので一概には言えませんが。

――バンドはもちろん、会社でもチームプレーは大事だと思いますが、気をつけていたことは?

バンドの中ではベースというわかりやすい役割があるので、さほど意識しなくてもいいかもしれないですけど、何事においても、自分は何に貢献できるか、そして、他の人がどういう役割でいるのかを見ることが重要だと思います。誰が何をやっているのかある程度わかっていないと、実はAさんとBさんが同じことをしていたなんてことにもなってしまう。これも「全体像を捉える」ことに繋がりますが、あえて意識的に状況を俯瞰するようにしていました。

――仕事も音楽も、まず全体を俯瞰してから取り掛かるわけですね。私もぜひ、実践してみたいと思います。

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今回は、休日課長さんが音楽を始めたきっかけから、どのような会社員生活を送ってきたか、会社員からプロのミュージシャンに転身したきかっけ、などについてお聞きしました。

次回の「後編」では、コロナ禍の時代でどう生きていくべきかなどについて、お話をお聞きします。

休日課長(きゅうじつかちょう)

ベーシスト。1987年2月20日生まれ、埼玉県出身。大学時代にベースを始める。2012年、川谷絵音に誘われ「ゲスの極み乙女。」に加入。11年に東京農工大学大学院を卒業後、14年までは一般企業に勤めながらバンド活動を展開。17年に「DADARAY」、18年に「ichikoro」にベーシストとして加入。趣味は「食」。

休日課長"初"レシピ本
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