ジャズと経済 第2回--「ジャズがシカゴやニューヨークで白人社会にも浸透、アメリカの一大エンターテインメントに」

ジャズと経済 第2回--「ジャズがシカゴやニューヨークで白人社会にも浸透、アメリカの一大エンターテインメントに」

街中を歩いていても、レストランやヘアサロンにいても、さりげなく耳にするジャズミュージック。最近では「心身と脳の疲労回復にも効果がある」ということから、職場にBGMとしてジャズを取り入れているオフィスも増えているようです。在宅ワークが増えた昨今では、自宅で仕事の邪魔にならないBGMとしてジャズを選んでいるという話もよく聞きます。

各々の場面で聴かれるジャズのスタイルやパターンをリスト化したら、おそらく多種多様になることでしょう。

そして、日常生活に溶け込んでいるのと同時に、私たちを取り巻く社会や経済動向と関連があるのもジャズの特性です。

このコラムでは、その「ジャズと経済の相関性」について取り上げ、なかでもジャズの本場とされるアメリカを中心に据えて、探って参ります。

北部の商工業や金融業が繁栄する時代へ、シカゴの南部「サウスサイド」に黒人労働者が集中的に移り住む

第1回では、アメリカ南部のルイジアナ州ニューオーリンズから始まったジャズ文化がミシシッピー川を北上し、1920年代のシカゴ・ジャズの時代を迎えるまでを解説しました。

今回はその続きとなります。

ジャズ文化がミシシッピー川を北上し、シカゴへと移動した背景には、アメリカ経済全体において、南と北の地位が逆転したことがありました。

17世紀初頭から200年超に渡って続いてきた奴隷貿易を通じて、アメリカ南部はタバコや綿花などの栽培地域として栄えていました。ですが、綿花栽培を中心とする農場経営体制は徐々に下火になっていきます。

経済の中心は、繊維、鉄鋼、自動車、金融、株式取引など、北部の商工業や金融業が繁栄する時代へと変わっていくのです。その変化と共に、アメリカ北部の都市には、大量の労働者が流入しました。特に、シカゴの南部「サウスサイド」には黒人労働者が集中的に移り住み、ジャズの文化はすぐに浸透し、次第にジャズの中心地となります。

さらに1923年には、あのルイ・アームストロングがシカゴにやってきます。ジャズミュージシャンの王様、ルイ・アームストロングが活躍した1920年代は、ジャズ人気と共に、アメリカの文化や社会が変化するなかで、大量消費文化も生まれ、GDPの伸びと共に世界経済の中心となり、国全体が資本主義経済を謳歌する時代となりました。

このアメリカの勢いを探るためには、世界全体におけるアメリカの位置づけを歴史的見地からも探る必要があります。

ドーズ案の仕組みの中で、アメリカはイギリスやフランスに代わり、世界経済の中心の座に君臨

アメリカが世界経済の中心に躍り出るのは、第一次大戦(1914年~1918年)以降です。第一次世界大戦前まではイギリスやフランスが超大国として世界の中心的存在にありました。ですが、この2大国は戦勝国となったものの、戦争中に多額の借金をアメリカに負ってしまいます。

また、敗戦国となったドイツでは、物資の不足と紙幣の供給が同時並行で起こり、モノに対する貨幣の価値が下がり続け、戦後から10年間で物価が1.2兆倍になるというハイパーインフレが起こりました。苦境に立たされたドイツ、そしてドイツから賠償金をもらいたいイギリスやフランスに対し、アメリカは問題を解決する案として『ドーズ案』を提案しました。この『ドーズ案』とは、まずアメリカがドイツ企業にお金を融資し、経済を復興させ、イギリスやフランスへの賠償金の支払いに繋げるというものでした。そして、イギリスやフランスはドイツから得た賠償金でアメリカに借金を返済します。つまり、アメリカを中心に世界各国に好循環を生む仕組みがドーズ案です。この仕組みの中で、アメリカはイギリスやフランスに代わり、世界経済の中心の座に君臨し、国内では大量消費型の経済が勢いを増していきます。

アメリカの1920年代を象徴するモータリゼイション、ディズニーやコカ・コーラも

今でも根強い人気を持つディズニーの誕生は1923年、世界的に流行するコカ・コーラの携帯用6本入りカートンの発売は1924年。大量消費社会の時代ならではのカルチャーが次々にブームを起こします。

そして、何よりアメリカの1920年代を象徴するのが、モータリゼイションです。 自動車販売の増加と共に、大量の労働力を必要とする自動車産業は大量の雇用をもたらしました。アメリカの自動車産業は、大量消費と大量生産、需要と供給サイドの両面を支え、アメリカの繁栄をさらに勢いづかせます。

シカゴ・サウスサイドで黒人中心に盛り上がったジャズ、ノースサイドでもジャズに興味持つ白人

そうした流れの中で、アメリカの中心都市のひとつであったシカゴもルイ・アームストロングの参入により、ジャズシーンで盛り上がりを見せていきます。シカゴのサウスサイドは黒人を中心に、一方、ノースサイドでは、観客だけでなく演奏者の中にも白人が登場するようになり白人社会にもジャズに興味を持つ層が出てきます。新興の観客やファンが一気に増加し、ジャズがアメリカの一大エンターテインメントに成長していくのです。

さらにジャズの特徴も、ニューオーリンズ時代とルイ・アームストロングが参入したシカゴ・ジャズの時代では、変化が生まれました。集団的な即興演奏に代わって、メンバー各々のアドリブソロにスポットがあたるようになります。また、ニューオーリンズ時代にはほとんど使われていなかったサックスも登場します。

このようなジャズの変遷について、日本を代表するトランぺッター・原朋直(洗足学園音楽大学教授)先生に直接、おうかがいしました。

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「(シカゴ・ジャズでの)アドリブソロとは即興で作曲をする行為のことですが、集団即興に比べ個人の即興が中心のジャズの方がより自由度が高いと言えます。他の音楽にも当てはまることですが、ジャズは特にプレイヤーそれぞれの独立した感覚に基づく創作を協働作業によって結び付け、構築していくアートです。集団的即興の場合、この協働作業の中での関係が濃厚となります。なぜならそれぞれが頻繁にその音楽のメインとなるメロディの創作を行っているので、ある意味「主張」のハッキリした歌同士のコミュニケーションが展開されるわけです。大勢の意識が繋がって発展していく感じです。連帯の強い感じ、とも言えます。ニューオーリンズ時代はこの集団的即興が中心でした。

一方、シカゴで流行ったひとりのアドリブソロとそれをサポートする伴奏とのコミュニケーションによる音楽の展開は、ソリストの想像力が作る世界の広がりをより自由にし、その結果、協働で構築する作品の方向性が無限に広がっていくものです。このスタイルがジャズという音楽を大きく発展させるひとつの要因になったと私自身は思っています。

また、サックスの登場もジャズの歴史に大きな意味をもたらしたと言えます。サックスは「音量のレンジの広さ」や「表現の幅広さ」を持つ非常に優れた楽器です。それは音楽そのもののレンジを広げ、ドラマチックな展開を創造させ、バンドで作る全体のカラーリングにも大きな役割を果たします。音楽は(特にジャズでは)、それを表現するプレイヤーの個性が音楽制作の決め手になると言っても過言ではありません。サックスはプレイヤーのイメージをよりダイレクトに表現できる楽器なので、その影響力はとても大きなものだと思うのです。そんなサックスは人間性や人生観がモロに映し出される「人間臭い」楽器であるとも言えるでしょう。吹く人によって全く違う世界が作り出せるこの楽器も、やはりジャズの発展に大きく貢献していると私は思っています。

現代においては、ジャズも多様化し、更なる可能性を追求した、様々な即興演奏のコミュニケーションによる音楽が日々生まれ続けていると感じています」。

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このように可能性を追求し続けるジャズという音楽。1920年代半ば以降は、新興の富裕層がジャズを支え、大都市・ニューヨークでも盛り上がりを見せるようになり、ある種のバブル経済期を迎えたアメリカ社会とジャズが連動する最盛期を迎えます。その高揚感は、恐慌が始まる1929年まで続きました。

その後のストーリーは、また次回に。

そして、アメリカ・ジャズ界最大の音楽フェスティバルを舞台に、伝説のミュージシャンたちが魅せる奇跡の音楽ドキュメンタリー映画『真夏の夜のジャズ4K』(製作・監督:バート・スターン/出演:ルイ・アームストロング、セロニアス・モンク、チャック・ベリー、アニタ・オデイ他/上映時間:83分)が、現在、全国順次公開中です。ジャズ音楽を4Kの鮮やかな映像と共に楽しめますので、ジャズに興味を持たれた方にはぜひともおススメです。

【関連記事】「ジャズと経済 第1回--「"多人種国家"アメリカに一石を投じたルイ・アームストロングのジャズ」」

鈴木ともみ(すずきともみ)氏プロフィール

経済キャスター、国士館大学政経学部兼任講師、早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員、 ファイナンシャル・プランナー、日本記者クラブ会員記者。
埼玉大学大学院人文社会科学研究科経済経営専攻博士前期課程を修了し、経済学修士を取得。地上波初の株式市況中継TV番組『東京マーケットワイド』や『Tokyo Financial Street』(ストックボイスTV)にてキャスターを務める他、TOKYO-FM、ラジオNIKKEI等にも出演。国内外の政治家、企業経営者、ハリウッドスター等へのインタビュー多数。『国際金融×Jazz』『日本経済×古典』をテーマに、『金融・経済×アート』を表現するストーリーテラー、ポエトリーリーディングで活動中。主な著書『資産寿命を延ばす逆算力~今からでも間に合う! 人生100年時代を生きるための資産形成~』(シャスタインターナショナル刊)、『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。

原朋直(はらともなお)氏プロフィール

音楽家、ジャズトランペット奏者、作曲家、教育者、洗足学園音楽大学教授。 1966年生まれ。大学在学中よりジャズの演奏活動を開始、卒業後、本格的に音楽の道へ進む。 1990年代、日本ジャズ界に巻き起こった若手ミュージシャンによる一大ムーブメントの先頭に立ち活躍。1996年の初リーダー作『Evidence for My Music 』以来、Co-leader作品も含め20枚のリーダー・アルバムを発表。
自身の音楽活動の他にも『一万人の第九コンサート』『佐渡裕ヤング・ピープルズ・コンサート』へのゲスト出演、テレビ番組『情熱大陸』への出演、北野武監督の映画『ブラザー』やNHK-BS『ワールドニュース』のオープニング・テーマの演奏、ヤマハのCMへの出演及び楽曲の提供、音楽番組『題名のない音楽会』への出演など、様々なシーンで活動する。 海外のトップ・アーティストとも多くの共演を果たし、アメリカ、ヨーロッパ、アジアでのジャズ・イベントにも多数参加。現在も自己のユニット"原朋直グループ"(Tomonao Hara Group)を中心に活動し、教育活動においては日本各地でのクリニックや音楽講座を展開中。
近年の主な作品は、『Color As It Is』原朋直カルテット(Gaumy Jam Records 2015年)、『Time In Delight』原朋直グループ(Gaumy Jam Records 2017年)、『Dear J.C. ~ Dedicate to John Coltrane ~』原朋直 & 池尻洋史(Gaumy Jam Records 2018年)、『Circle Round』原朋直グループ(Gaumy Jam Records 2020年)。