1.人事制度は1:8:1の法則になっている
前回、優秀層と普通層と残念層の割合が『2:6:2』になるという法則のお話をしましたが、会社が導入している人事制度(等級格付け、評価、報酬の3制度)では、少し比率が異なり、1:8:1の法則になっています。
つまり、優秀層の上半分の1割は、明らかに優秀なので会社の制度・ルールに惑わされず、自身の能力をいかんなく発揮し、それが周囲に評価されている人たちと言えるので、人事制度への関心が低いのです。
一方、残念層の人たちが、それぞれ残念な状況に甘んじている理由は様々です。
業務多忙でメンタル不全に陥った人、上司とそりが合わず、やる気が失せてしまった人、能力があってもそもそも怠け者の人、降格になって腐っている人等々、会社の政策に翻弄されたか、本人の問題かは別として下位2割に位置しています。
ただ、この中の下半分である最下位の1割は、自身の社内でのそういう位置づけに対して危機感がない「ぶら下がり」人材なので、こちらも会社の制度・ルールには無頓着です。
ということで、企業が導入している人事制度は、最優秀のトップ1割と最下位1割を除いた大多数の真ん中8割の社員を競争させる仕組みと言えるのです。
2.優秀層も残念層も入れ替え戦を戦っている
優秀層の中の残り(下位)の1割は標準層の人たちと常に入れ替え戦を戦っています。
サッカーのJリーグでもJ1で順位が下位のチームは、J2への降格というルールを意識しながら試合に臨んでいますし、J2の中でも上位の優勝争いに位置しているチームは、昇格という明確なルールに基づきJ1を目指して懸命に戦っているはずです。
「優秀層に勝ち残りたい」というエリート意識を持ちながらも下位層転落の危機感もあるでしょう。
一方、残念層の上位(上半分)は、ローパフォーマンスの理由はともかく、人事制度という明確なルールは理解しているので、異動や担当替え、上司の転勤などをきっかけとして浮上する可能性があり、最下位層転落の危機感もあるためサバイバルを意識します。
また標準層(真ん中6割)も下位に位置付けられている社員は、残念層への転落はしたくないし、上位層は優秀層への仲間入りをしたいはずです。
「出世したい!」「下位に落ちたくない!」「同僚に負けたくない」などそれぞれの思いを持ちながら、会社が定めた人事制度により社内競争しているのが真ん中8割の層といえるのです。
常に周囲との人間関係、競争関係を意識しながら働いている層なので、周囲の何気ないひと言でモチベーションが上がったり、下がったりするため、管理職のマネジメントスキル、コミュニケーションのスキルの善し悪しで組織業績が変わると言われています。
マズローの欲求5段階説とご存知でしょうか。人間の欲求は低次の欲求から順番に「生理的欲求」(生命維持のための最低限の欲求)、「安全の欲求」(安全な環境でいたい)、「社会的欲求」(どこかに所属しているという満足感)、「承認の欲求」(自分の価値を認めてもらいたい)、「自己実現の欲求」(自分の持つ可能性を発揮したい)という5階層になっているという理論です。
先ほどの1:8:1の法則でいえば、最上位にいる1割の人は自分の自己実現欲求が会社に評価されている人と言えそうです(ひょっとすると最下位の1割も会社以外の領域で自己実現を目指しているかもしれません)。
しかし、真ん中8割の人は、この段階説の真ん中の「安全の欲求」「社内的欲求」「承認の欲求」が強いと考えられ、他者との競争や人間関係を常に意識しながら働いていると言えるでしょう。
4.給与・賞与でモチベーションが上がるか?
労働・成果の対価として支払われる給与・賞与は社員のモチベーションを高めることができそうでしょうか。これら現金給付は心理学では"衛生要因"と言われ「不満足の解消にはなっても、動機付けにはならない」とされています。
実際、金銭報酬は法律上「働いた時間に対する対価」と明確にされていることもあり、「もらって当たり前」という感覚が強いのです。
給与が昇給してもすぐにそれが当たり前になりますし、賞与で10万円増えたら、その時は嬉しいですが、その次回の賞与で5万円減ったら、前々回と比べたら5万円多いのに不満が出ます。そこへ、金銭報酬がモチベーションに成りにくいという通説を覆す企業通貨制度が登場し、脚光を浴びているのです。
執筆者プロフィール
麻野 進(あさの・すすむ)
株式会社パルトネール代表。大企業から中小・零細企業まで企業規模、業種を問わず組織・人事マネジメントに関するコンサルティング、講演・執筆活動を行う。
専門は「マネジメント」「出世」「管理職」「リストラ」「中高年」「労働時間マネジメント」「働き方改革」など。
人事制度構築の実績は100社を超え、年間1,000人超の管理職に組織マネジメントの方法論を指導し、企業の組織・人事変革を支援している。
著書に「イマドキ部下のトリセツ」(ぱる出版)、「課長の仕事術」(明日香出版社)、「最高のリーダーが実践している『任せる技術』」(ぱる出版)などがある。
書誌情報
『イマドキ部下のトリセツ』
著者:麻野 進
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人事のプロが教える、部下を動かす「しくみづくり」の教科書。本記事で紹介した「仮想通貨インセンティブ」の導入をはじめ、世代ごとに異なる部下とのコミュニケーション術、キャリア・コーチング術など実践的なテクニックが満載。初めて部下を持つ人、上司や先輩が何を望んでいるのか知りたい人に最適な一冊。
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