普通の人もきちんと評価される魔法の制度、『企業通貨』って何!?--(1)現金報酬では難しかった「普通の部下」を褒める仕組み

連載・インタビュー

1.これまで企業は「優秀な社員に多くの報酬を払いたい」と思っていた

バブル崩壊後の平成の約30年間は、不況、デフレ、規制緩和、過当競争などで企業は大変厳しい環境下におかれました。その過程で「年功序列は崩壊した」「終身雇用は維持できなくなった」などと言われるようになり、企業は限られた人件費を有効に活用しようと、成果主義を標榜するようになりました。つまり「みんなの報酬を上げられないので、優秀な人には多く払おう。他の人は我慢してね」という考え方です。

ただ、優秀かどうかを判断するのは簡単ではありません。

半年、1年をかけて部下のパフォーマンスを上司が評価して、優劣をつけるのが「人事評価」ですが、営業成績が良いとか、企画が採用されたとか、目に見える成果を出している人が評価される傾向が否めません。

営業担当者が活躍できるように、サポートしている事務担当者だとか、同僚のために自分の持っているノウハウを惜しみなく提供してくれる人だとか、縁の下の力持ちのような社員は、なかなか評価されにくいのが実情です(評価されないまま放置されることはありませんが)。

2.上司は「優秀な部下」より「普通の部下」の成長を願っている

会社としては優秀な社員を多く輩出したいと思っていますが、組織の末端で働く社員を束ねている上司は少し考えが異なります。

会社組織には「2:6:2」の法則が働くと言われています。

社員の上位2割が、リーダー的立場だったり、高い成果を上げたりするいわゆるハイパフォーマーと言われる人たちです。次の6割が普通の人々で、凄い成果は出せないがきちんと仕事はこなす標準層です。残りの下位2割は貢献度の低い人たちで、能力不足だったり、モチベーションが低かったり、理由はさまざまですが、なかなか成果を上げられない残念な層です。自然にこういう比率で組織が構成されるというのです。

ここでいう上位2割の優秀層は、自分で成長しようという志向性があるので、機会さえ与えれば勝手にやっていく人たちです(暴走しないように気をつける必要はありますが)。性格的にちょっと嫌な部下でも、上司としては評価を高くせざるを得ません。

ですが上司というものは、ひと握りの優秀な部下よりも、多数の普通の人たちを評価(褒める)し、動機づけし、成長させたいと思っているものです。優秀者といっても他人の2倍も3倍も成果を出す訳ではありません。より多くの普通の人たちが少しずつ成果を出してくれるほうが上司としてはありがたいのです(優秀な部下が急に辞めると言い出したら困りますし)。

3. 普通の部下を評価する仕組みが「企業通貨」

ところが会社が取り入れている通常の評価制度は、優秀な人に報いる仕組みのため、普通の人たちは「標準」と評価されるだけで、余程のコミュニケーション力がある上司でない限り、「普通の部下」が褒められる(と本人が思える)機会が少なかったのです。

そこに、登場したのが「企業通貨」です。

一般的な買い物のポイントカードとほぼ同じ仕組みです。我々が買物をしてお店からポイントを貰うように、会社が推奨する行動や、組織のためになる行動を社員が取ったりしたら、ポイントが与えられます。ポイントカードと異なるのは、自分が保有しているポイントを同僚や後輩にあげることもできるのです。つまり企業内通貨として流通することが可能になるのです。例えば何か普段の活動が評価されて、上司から「いつも献身的にサポートしてくれて、ありがとう。2,000ポイントとっといて」と貰ったら、それは同僚のAさんが、いつも困ったときに私を助けてくれるお陰だとして、Aさんに1,000ポイント提供することもできます。「お客様からのクレームをBさんが、うまくさばいてくれて大事に至らかなったので、少ないですが●●ポイント受け取ってください」なんていうのもありそうです。スマホのアプリでいつでも気軽にそういうやり取りができるのです。

4.現金で少額もらうより、ポイントのほうが面白い

そうして溜まったポイントはあらかじめ用意されたカタログ商品や旅行会社のクーポン、フィットネスクラブの利用などに仕えます。最近ではAmazonギフトやWAONポイントといった電子マネーなどに交換できる仕組みが登場し、少額の投資信託にポイントを転換することもできるのでまさに通貨といえます。

「いいこと教えてくれたから500円あげる」と言って、財布から100円玉を5枚取り出してあげるのは違和感がありますが、「スマホで500ポイント転送」なら、ゲーム感覚があって違和感なく社員同士のポイント交換が可能です。

会社としても現金支給だといろいろと法律的なことが絡んで、面倒なことが多いのですが、会社の福利厚生施策の一環なので、制度設計の自由度が高いという使い勝手がいいのです。

執筆者プロフィール

麻野 進(あさの・すすむ)

株式会社パルトネール代表。大企業から中小・零細企業まで企業規模、業種を問わず組織・人事マネジメントに関するコンサルティング、講演・執筆活動を行う。
専門は「マネジメント」「出世」「管理職」「リストラ」「中高年」「労働時間マネジメント」「働き方改革」など。
人事制度構築の実績は100社を超え、年間1,000人超の管理職に組織マネジメントの方法論を指導し、企業の組織・人事変革を支援している。
著書に「イマドキ部下のトリセツ」(ぱる出版)、「課長の仕事術」(明日香出版社)、「最高のリーダーが実践している『任せる技術』」(ぱる出版)などがある。

書誌情報

『イマドキ部下のトリセツ』

著者:麻野 進
価格:1540円(税込)
人事のプロが教える、部下を動かす「しくみづくり」の教科書。本記事で紹介した「仮想通貨インセンティブ」の導入をはじめ、世代ごとに異なる部下とのコミュニケーション術、キャリア・コーチング術など実践的なテクニックが満載。初めて部下を持つ人、上司や先輩が何を望んでいるのか知りたい人に最適な一冊。
商品URLはこちら

この記事をシェア

  • facebook
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • X(旧Twitter)

同じカテゴリから
記事を探す

連載・インタビュー

同じキーワードから
記事を探す

求人情報

TOPへ