「キャリアブレイク」は"空白期間"ではない。仕事を一旦手放すことで"いい転機"を作る方法とは?

連載・インタビュー

仕事に行き詰まり、すべてを投げ出したくなったことはありませんか。人間関係の疲れ、キャリアの停滞感、将来への不安ーー。そんな重圧から「一度すべてを手放して、自分を取り戻したい」という思いを抱く人は少なくないでしょう。しかし、多くの場合、現状維持という"安全な選択"に落ち着いてしまい、現在の鬱屈(うっくつ)した思いをそのままにしてしまいがちです。

そんな悩める方に、いま注目されているのが「キャリアブレイク」という選択肢です。一時的な離職や休職を通じて人生を見つめ直し、新たな可能性を探るこの方法は、欧州ではごく普通の文化として定着しているようです。キャリアブレイクによって、心身の回復はもちろん、自分らしい働き方の再発見、新たな視座の獲得など、予想以上の気づきをもたらしてくれる場合があります。

今回は、500人以上のキャリアブレイク経験者と対話を重ね、その可能性を研究し続けている北野貴大さんに、キャリアブレイクによって"いい転機"をつくるためのヒントを伺いました。仕事やキャリアに行き詰まりを感じている方は、ぜひ最後までお読みください。

【著者プロフィール】北野 貴大
一般社団法人キャリアブレイク研究所 代表。大阪公立大学大学院 経営学研究科 特別研究員。大阪市立大学(建築学)を卒業し、新卒でJR西日本グループに入社。「ルクア大阪」をはじめとするデパートプロデューサーとして従事。その時に、一時的な離職休職によって人生と社会を見つめ直す「キャリアブレイク」という文化を知り、2022年に退職後、キャリアブレイクを文化にする一般社団法人を設立。いい転機をつくるためのサードプレイスを集めた、キャリアブレイクのポータルサイトを運営し、社会リズムのアップデートを目指す。著書に『仕事のモヤモヤに効くキャリアブレイクという選択肢』(KADOKAWA)、『キャリアブレイク ー手放すことはブランクではないー』(千倉書房)。

1.キャリアブレイクという「文化」を広げるために活動を開始

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――「キャリアブレイク」という言葉は、日本ではあまり馴染みがないように感じます。どのようなことを指す言葉なのでしょうか。

キャリアブレイクとは、一時的な離職や休職など、仕事に就かない期間を持つことを指します。目的は子育てや介護などのライフイベント、病気、休息、勉強、資格取得、旅行など、人によってさまざまです。発祥は欧州で、第二次世界大戦後に登場した文化だと言われています。日本では2014年に初めてキャリアブレイクに関する論文が発表されましたが、その後、2022年に私が「キャリアブレイク研究所」を立ち上げ、認知が広まりました。

――そもそも北野さんがキャリアブレイクに注目した背景は?

妻が1年間、「無職」を選択したことがきっかけですね。当時は僕も妻も、キャリアブレイクの概念や文化はまったく知りませんでした。その頃は僕も会社員でしたので、自己成長のために研修や自己啓発などに取り組んでいましたが、まさか「働かない時間を持つ」ことが自らの可能性を広げる手段だとは思ってもいませんでした。

妻は1年間の無職を、自分自身に"投資"しました。傍(はた)から見ていると、悩みもあったと思いますが、有意義そうな時間でした。旅に出たり、会いたい人に会ったり、読みたい本を読んだり。仕事を辞める前よりも感性が磨かれ、新たな世界が広がっている様子がとても印象的でした。

そのようなことを自身のブログに綴(つづ)ったところ、現在の共同研究者である法政大学大学院の石山 恒貴教授と知り合いました。同時に、世の中からも想定以上に大きな反応があり、研究所を設立してキャリアブレイクを「文化」にしていく活動を始めました。

――キャリアブレイクを文化にするとは、具体的にどういうことでしょうか?

例えば、過労や病気による休職や、家族の事情やライフイベントなどで、自らの意思とは別にキャリアの中断を余儀なくされてきた方々もたくさんいるでしょう。ただ、研究を進めるうちに、スタートがネガティブな理由であってもポジティブな理由であっても、その後の選択にはあまり影響がないと分かりました。

仕事やキャリアを手放さざるを得ないことで生み出された時間を、エネルギーに変えていく。その際の道のりに「キャリアブレイク」という文化としての名前が付いていることで、安心感を得る材料になります。同時に、同じ境遇の人や参考になるエピソードに出会い、自分の可能性を広げられるメリットもあるでしょう。キャリアブレイクがプラスに働くメカニズムを解明し、社会に対して再現性を高めていくことが僕たちのミッションだと考えています。

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――キャリアブレイクのメリットは何だと思いますか?

ある一定期間「無」の時間を過ごすと、好奇心や感性が回復する効果が大きいと思います。自分自身のなかで自然と「リプレイス」が起きるのです。

また、自分と向き合うことで、価値観や仕事観を再確認する機会にもなります。キャリアブレイクを通じて新たな自分と出会えれば、その後の人生そのものを豊かにできると言えるでしょう。

【関連記事】「"ずるい攻撃"をする人には、勇気をもって反撃しよう。心理セラピスト大鶴和江さんインタビュー」

2.自分に適したサードプレイスを見つけることが「いい転機」と出会うカギ

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――北野さんは500人以上ものキャリアブレイク経験者と対話をしてきたとのことですが、その方たちからどのような印象を受けましたか?

一口にキャリアブレイクと言っても、当事者の方々のエピソードを聞いてみると、とんとん拍子に進んだ人はほとんどいません。今ある肩書きや収入を手放してゼロから始めるわけですから、渦中は「出口の見えない真っ暗闇」だとも言えます。

そのようななかで、多くの人たちに共通するプロセスに「サードプレイス」との出会いがあることが分かりました。"いい転機"に出会えた人の大半が、家や家族(ファーストプレイス)、職場や学校(セカンドプレイス)以外の場所を見つけているのです。

サードプレイスとは、街の公民館からシェアスペース、コミュニティ、旅行、スクール、ボランティア、メディアなど、多岐にわたります。家庭や職場の場合、どこかで利害関係が発生しがちですが、サードプレイスで出会う人たちとは何の肩書きもなく話せるため、とても良い友人になるケースが多いのです。

まさに、自身に適したサードプレイスを見つけられるかどうかが、いい転機を過ごすためのカギになるわけです。

――キャリアブレイク研究所では「むしょく大学」や「無職酒場」などの取り組みを行っていますが、これらもサードプレイスに位置づけられるのでしょうか?

そうですね。「むしょく大学」は「供養学部」と「自由研究学部」から成る、キャリアブレイク中の人たちの学びあいの場です。また、「無職酒場」は、キャリアブレイク中の人などが、お酒を飲みながら交流できるイベントです。

いずれもサードプレイスとして取り組みを開始したのですが、またたく間にたくさんの人たちから参加希望が集まりました。人によって最適なサードプレイスも異なり、企画のバリエーションも求められますので、私たちは入り口に徹し、さまざまなパートナーと連携をしながら網目で作り上げていく方法を選択しました。

post1461_img4.jpg(大阪で開催された無職酒場の様子)

「無職酒場」も現在は全国の居酒屋さんがのれん貸しをしてくれています。無職の人は無料で飲食でき、働いている人は有料で参加するシステムですが、キャリアブレイクを考えている人や、仕事に悩んでいる人がたくさん訪れます。そのような方々と、キャリアブレイク中の人たちとの間で情報交換をしてもらうことで、双方にwin-winの場を提供できればと考えています。

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3.キャリアブレイクの経験を堂々と伝えよう

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――キャリアブレイクが個々の人生に大きなメリットを与える一方で、転職活動においては「空白期間」がネガティブにとらえられるケースもあるのではないでしょうか。

たしかにその可能性は否定できません。企業や人事担当者の考え方によっては、空白期間を指摘される場面もあるでしょう。

その背景には、おそらく「いいキャリアブレイク」を見た経験がないことが影響しているのではないかと思います。僕自身も、かつてはキャリアブレイクという言葉自体知りませんでしたし、無職に対する良いイメージもありませんでした。知らないし、想像もつかないがゆえに、ぼんやりとネガティブな印象を持っている人が多いのかもしれないですね。

だからこそ、僕たちは「いい転機の人たちを増やしたい」と考えて活動しているんです。こちらから無理に人事担当者のイメージを変えようとは思っていません。いいキャリアブレイクを経験した人たちが採用されて活躍することで、世の中全体のイメージや雰囲気が変わっていくはずだからです。

僕は純粋に、キャリアブレイクで可能性が開かれていく人たちを見ていて「かっこいいな」と感じています。そして、自分の転機を信じてもらえた人は、人の転機を信じられるようになります。そのような人たちをひたむきに後押ししていった結果、「いい転機を社内に増やしたい」と考える人事の方が増えていけば嬉しいですね。

――面接や選考において、キャリアブレイクをポジティブに伝える方法はありますか?

テクニックというよりも、自分自身が納得するプロセスを辿(たど)れていれば、自ずと自信を持ってキャリアブレイクから得たものを伝えられるのではないかと思います。

いいキャリアブレイクを過ごした人は、自分のなかでキャリアブレイクの意味をしっかりと落とし込めています。だから、堂々としている。堂々と面接に行き、堂々と採用されているんです。逆に、キャリアブレイク期間を後ろめたい気持ちで過ごしたり、転機を信じてくれる人に出会えなかった人たちは、そのような雰囲気が相手にも伝わります。まずは胸を張って、自分にどんな変化があったかを伝える姿勢が大切だと思います。

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4.「人生の転機は自分で決める」意識を持ってほしい

――キャリアブレイクを含め、「いい転機」を作りたいと考える読者のみなさんへメッセージをお願いします。

まずは、自分が納得できる決断を行うことをおすすめします。実際に、乗り越えるべき苦労なのか、逃げるべき苦労なのか判断が難しく、新たな一歩を躊躇(ちゅうちょ)してしまうケースも多いでしょう。その際の1つの選択肢に、キャリアブレイクという考え方があることを頭の片隅に入れておいていただけると良いのではないでしょうか。

新しい場所に行ったり、普段会わない人と会ったりしながら選択肢を増やしていく。「選択肢を増やして、絞る」作業を繰り返すうちに、大きく振れていた振り子がだんだんと落ち着いていくはずです。エネルギーは必要ですが「人生の転機は自分で決める」ことを意識してもらえたらと思います。

(取材・執筆:金子 茉由/VALUE WORKS

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【書籍】仕事のモヤモヤに効くキャリアブレイクという選択肢 次決めずに辞めてもうまくいく人生戦略
転職・キャリア・生き方に迷うすべての人へ新しい選択肢を送る本

「キャリアブレイク」って何?
一時的に離職、休職するなどして、仕事に就かない期間を持つこと。目的は休息、子育てや介護などのライフイベント、勉強、資格取得、旅行など人によって様々。
元々欧州で使われ始めた言葉。

・本書のために40人以上の当事者に取材
実はキャリアは十人十色。離職から復職までの多様なホントの話を収録
・人事や転職エージェントに聞いた本音
「履歴書の空白は良くない」というのは本当か、ぶっちゃけ聞いてみた
・休職・離職中、お金はどうする?なんとかなる?
当事者にきいてみたキャリアブレイク中に使ったお金、もらったお金

『私が500人以上もの人に話を聞く中で、よく聞く言葉はこんな言葉です。
「これを選んだことを後悔していない」
「今に納得している」
「キャリアブレイクを選んでよかったと思ってる」
「意外と周りにもキャリアブレイクしてる人がいたし一人じゃなかった」
 そう思うまでには、どのような道のりがあったのでしょう。
 キャリアブレイクを選んだ人たちの経験やキャリアブレイクを社会や企業がどう見ているのかなどを知ってもらい、
人生やキャリアを考えるときに今まで想像もしていなかった第3の選択肢があるということをお伝えしたいと思っています。』(「はじめに」より)
(KADOKAWA書籍紹介より引用)

KADOKAWA刊

著者:北野 貴大
発行年月:2024年01月
定価:1,650円

キャリアブレイク研究所 オフィシャルサイト>
北野 貴大 X>

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