「今日の飲み会、行きたくないけど休んだら印象が悪いし......」「みんなが残業してるのに1人だけ帰るのは微妙かな......」――同調圧力や周りからの視線に、モヤモヤした気持ちを抱えながら過ごしている人も多いのではないでしょうか。そんなみなさんにおすすめしたいのが、藤原 淳氏の著書『パリジェンヌはすっぴんがお好き』。
ルイ・ヴィトンのパリ本社でPRトップを務めた著者自身の経験をもとに、自分なりの生き方を貫く秘訣が紹介されています。今回は藤原氏にインタビューをし、日本人も参考にしたいパリジェンヌならではの価値観や、自分らしく生きるためのコツをうかがいました。
【著者プロフィール】藤原 淳
東京生まれ。3〜6歳の間イギリスで育ち、聖心女子学院に入学。1999年、歴代最年少のフランス政府給費留学生として、パリ政治学院に入学。卒業後、在仏日本国大使館勤務を経て、ルイ・ヴィトンのパリ本社にPRとして就職。2007年にPRマネージャーに抜擢された頃には「もっともパリジェンヌな日本人」と称されるようになる。2010年、PRディレクターに昇進。2021年に本来の夢を全うするべく退社。作家として、日本を紹介する本をフランス語で3冊出版。日本に憧れを持つフランス人向けのコンテンツをインスタグラムで発信する傍ら、ラグジュアリーブランド・マイスターとしてルイ・ヴィトンのみならず、あらゆるブランドの魅力を幅広く紹介する仕事をしている。
自分を変えたい人たちに、生き方のヒントを伝えたい
Photo:Amelie Marzouk
――『パリジェンヌはすっぴんがお好き』を書こうと思ったきっかけを教えていただけますか?
昔から作家の仕事に憧れがあって、「いつか自分の本を出版したい」と思っていたんです。大学卒業後にフランスに渡ったのですが、すぐに作家になることは難しく、まずは広報の仕事に就くことに。多忙な日々を送っているうちに、あっという間に20年が過ぎました。
その間、いろいろな変化がありましたが、作家になる夢は変わらず持ちつづけていました。「私に何が伝えられるのか」と思いを巡らせていたときに、脳裏に浮かんだのがフランス人の友人たちでした。フランス人って「日本はおしゃれでかっこいい」というイメージを持っていて、日本が大好きなんですよ。でも、もう一段深いところにある日本の精神世界や美的感覚については、知らない人が多くて。日本人の視点でそれらを伝えたいと思い、日本人の本質的な価値観などを紹介する本を書きました。
フランス語で著した3冊の本はありがたいことにいずれも好評で、日本語でも本を書きたいと思うようになりました。特にフランス人独自の生き方や考え方は、日本の人たちにも役に立つはず。そう考え、『パリジェンヌはすっぴんがお好き』を書くに至りました。
――本書に描かれている「パリジェンヌ」たちは、私たちが想像するような、華やかでキラキラしたイメージのパリジェンヌとは異なります。
そうなんです。実際のパリジェンヌたちは、意外にもとっつきにくく、冷たい感じの人が多いんですよ。でも、実はものすごく情が深くて、自分自身をとても大切にしているんです。母親でも妻でも上司でも、それらの役割を取り払った「自分」をあえて優先して生きる姿がかっこいいですし、日本人にもお手本になる印象がありました。
――本書を執筆するうえで特に意識したポイントを教えてください。
本書に盛り込んだのは私のリアルな実体験です。それも成功体験ばかりではなく、失敗をベースにした気づきや、さまざまな経験を糧に徐々に自分自身が成長していく様子を描いています。
日本とフランスはともに歴史や伝統を守りつつも、それを揺さぶる革新的な考え方や美的センスに優れていて、共通するポイントがたくさんあるんです。どちらが良い、悪いではなく、それぞれのいいところを伝える思いで執筆しました。
単にパリジェンヌの生き方を称賛するのでなく、「誰でもパリジェンヌらしい生き方ができる」というメッセージを込めています。「今の状況をどうにかしたい」「自分を変えたい」と思っている人たちに、すぐに取り入れられる生き方のヒントを伝えていく。結果として読者のみなさんが楽になったり、肩の力が抜けたりするきっかけを作れたらいいなと考えていました。
――たしかに、読者に近い視点でストーリーが進んでいく点に親しみやすさを感じました。
自身の経験を振り返ってみても、若い頃は特に将来のキャリアにモヤモヤしていました。「フランスに行きたい」と人に相談したときに、「フランスよりもアメリカに行ってMBAを取ったほうが将来の役に立つんじゃない」と言われたこともありました。自分の素直な気持ちをもっと相談できる相手や、ロールモデルがほしいと思うことが多かったのです。本書を書いた背景には、私と同じような悩みを抱えている人たちに、少しでも力になりたいという気持ちもありました。
自分を「持ち上げる」習慣が、自己肯定感の高さに
――そもそも、なぜフランスで暮らそうと考えたのでしょうか。
学生時代にフランス語の音色の美しさに魅了されたからです。その当時から、「自分は絶対パリに住む」という確信のようなものがあった気がします。
大学生のとき、交換留学でフランスを訪れた際にとても驚いた出来事がありました。それは、何かを発言をすると、必ず「No」と返ってくることです。相手が学生でも家族でも、フランス人は批判の精神を持っていて、まずは議論からコミュニケーションが始まるんです。
日本人とは対極にあるコミュニケーションに素直に驚きましたし、当時の私は自分の意見もあまりなかったので、「消極的な人」「変な人」と見られてしまったことが今でも記憶に残っています。同時に、そのときの経験が、フランスやフランス人のことをもっと知りたいと強く思うきっかけにもなりました。
――「批判の精神」というお話がありましたが、そのほかにフランスと日本のギャップを感じたエピソードはありますか?
特に「キャリア」に対する考え方のギャップが大きかったですね。フランスは中途採用が一般的で、年功序列がありません。それゆえに、周りの評価を待っているだけでは出世できず、自己PRが求められます。
私もルイ・ヴィトン本社に就職して間もない頃に、上司から褒められて「私は大したことはしていません」「まだまだ無力です」などとつい謙遜してしまったんです。「そんなことないよ、君は頑張ったよ」と日本的な返しを期待していたのに、上司からの一言は「そうか、君は大したことないんだね」と(笑)。それだけでなく、そうこうしているうちに自分の成果を他者が持って行ってしまうんですよ。
――それはびっくりですね......!
しかも、自分だけの問題ならまだしも、リーダー的なポジションに就いた際に同じことをしてしまうと、チーム全体の評価が下がってしまいます。成果に至るまでのプロセスを、きちんと言葉で説明する力が求められることに気づきました。
そして、自己PRの技術と同時に学んだのが「自分を持ち上げるスキル」です。つまり、自分で自分を褒めること。「私ってすごいな」と言っているうちに、不思議と自己肯定感も高まっていくんですよ。自己肯定感の高さがパリジェンヌの特徴とも言えますが、これは生まれつきのものではなく、日々の積み重ねで習慣化しているのではないかと思います。
自分を解放するコツは「どう思われてもいい」と割り切ること
―日本人は周囲と自分を比較しがちと言われます。
おそらく自分の意見を飲み込んででも、社会の調和を好む気質があるのではないでしょうか。もちろん素晴らしい性質ですし、そのほうが楽な人もいると思いますが、行きすぎてしまうと苦しむのは自分なんですよね。
特に昨今の女性はキャリアを持ち、かつ母親や妻の役割もこなすなど、かつてよりもやるべきことが増えています。「自分さえ我慢すれば」と無理をしてしまい、知らず知らずのうちに疲れをため込んでしまうこともあるでしょう。そうならないためにも、自分のケアは自分でするしかないと思うんです。
自分を押し通すのではなく、「自分を優先する」。例えば、「週末家族と離れて友達と旅行に行く」「母親らしくないと言われても、肩出しのワンピースを着る」など、どんな小さなことでも構いません。まずは自分らしくいられる時間を作ることが大切であると、私自身もパリジェンヌの生き方を通して学びました。
――一方で、「嫌われたくない」「人と違うことをしたくない」と感じてしまう人もいると思うのですが、どうしたらよいでしょうか。
コツは1つ、「どう思われてもいい」と割り切ることです。実際、相手はそう思っていないのに、「こんなことをしたら失礼なんじゃないか」と思い込んでしまうことってありますよね。
フランスでも日本でも、"何か言う人"は必ずいるんですよ。しかし、いろいろな世代、価値観を持った人がいるので、それは当然です。何を言われても気にしない姿勢を持つことが、自分を解放するポイントだと思います。
例えば、みんなが参加する飲み会に行きたくないのであれば、一度断ってみる。他のメンバーは残業しているけど、今日は定時で帰って自分の時間を楽しむ、など。とにかく自分がやりやすいことから、一度行動に移してみてください。一歩踏み出してみると、意外と吹っ切れると思いますよ。案外誰も自分のことなんて見てなかったんだな、と拍子抜けするかもしれませんね。
――『パリジェンヌはすっぴんがお好き』でも「自分なりの生き方を貫く7つの秘訣」が紹介されていました。秘訣の1つである「肩書きや責任、義務を忘れて心をからっぽにする」などは、今のお話にも通じますね。
そうですね。今回、タイトルを『パリジェンヌはすっぴんがお好き』とした背景にも、肩書きや役割などの仮面をすべて取った「素顔の自分」は唯一無二の存在であり、ぜひ「すっぴんの自分と向き合ってほしい」という思いがありました。
"すっぴん"をさらけ出すには勇気が必要ですが、いざやってみると「自分のいいところ」に目が向くようになります。さまざまなものを取り払った自分と向き合う時間を増やせば増やすほど、自分のありのままを認められるようになり、自己肯定感も高まるのではないでしょうか。パリジェンヌたちが毎日「ゴールデンタイム」を確保して自分自身をケアするように、1日5分でも構いませんので、素の自分と向き合う時間を意識的に作ってみてはいかがでしょうか。
パズルのようなキャリアを気負わず楽しもう
――仕事や今後のキャリアに悩む方へお伝えしたいことはありますか?
20~30代くらいですと、自分のやりたいことが見つからなかったり、キャリアに迷うのは当たり前だと思います。周りの活躍が輝いて見えて、焦りを感じることもあるでしょう。
私自身も、若い頃はキャリアは「一直線」だと考えていました。まさに出世の階段をのぼっていくイメージです。でも、いろいろな経験をして気づいたのは、キャリアは「パズル」みたいなものだということです。それもとても大きなパズルで、どこから始めればよいかわからないようなものです。私もこの歳になってようやく、少しずつパズルが埋まってきたなと感じているんですよ。
ですから今みなさんが取り組んでいる仕事は、必ず将来につながるはずです。私も広報の仕事は向いていないと思っていたのですが、そこで培った視点は今の自分のキャリアにとても役立ちました。一生懸命頑張っていることは必ず今後に活かされますし、今の自分と真剣に向き合っていればだんだん本当にやりたい事柄が見えてくると思います。
――広報の仕事が向いていないと感じていたとは、意外でした......!
特にファッション業界のPR職は、メディアの方々との密な付き合いが日常的に求められるため、社交的な人に向いている仕事なんですよね。パーティで、誰とでも友達になれるような人のイメージです。
私は根っからの東京人で、実はドライなんです(笑)。ですから、最初はそのような付き合い方が本当に嫌でした。ただ、仕事だからと続けているうちに、あるとき「ゲームみたいに楽しんでしまえばよいのでは」と吹っ切れたんですよね。好き嫌いではなく、割り切ってしまうと楽になるものです。
おそらく、どんな仕事でも「自分に合わないのでは」「才能がないのでは」と感じたり、頑張っているのになかなか評価されないことも多いと思います。でも、自分の人格や個性を否定されているわけではありません。"ただの仕事"ですから、「ダメならいいか」くらいの心意気で、難しく考えないことが大切かもしれませんね。
――なるほど、割り切る姿勢も大切ですね。最近は日本でも「個」を尊重する動きが高まったり、キャリア自律を促す風潮も現れました。パリジェンヌ的な生き方が徐々に浸透していくかもしれないですね。
そうですね。とてもいい流れだと思います。同じような意見や考えを持つ人たちとネットワークを作ったり、情報交換をしたりしながら、新しい潮流を作っていけるといいですね。
世界的に見ても、日本人は真面目で勤勉で努力家だと言われます。いろいろなものを抱え込みがちで、それでも回ってしまうわけですから、ときどき苦労を分かち合えたらもっと楽に生きられるのではないかと思います。
パリジェンヌたちは、それはもう「ため込まない」ことを実践していますよ。日本よりも女性管理職が多い社会ですが、やはり家事や子育ての負担は女性のほうが大きい状況のなかで、アウトソースなどを上手に活用しています。そして、彼女たちは愚痴を吐く場も大好きですね(笑)。そんなパリジェンヌたちの鮮やかな生き方は、自分らしく生きるためのヒントになるでしょう。
(取材・執筆:金子 茉由/VALUE WORKS)
【書籍】パリジェンヌはすっぴんがお好き
ルイ・ヴィトン本社に17年間勤務しPRトップをつとめた「もっともパリジェンヌな日本人」が、どうすれば自分なりの生き方を貫くことが出来るのかを提案する本。悩みも愚痴もため込まないパリジェンヌの生き方、恋愛、仕事術を学び、日々の生活で簡単に実践できる本です。(ダイヤモンド社書籍紹介より引用)
ダイヤモンド社刊
著者:藤原 淳
発行年月:2024年05月
定価:1540円
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