最近各メディアでも耳にすることが多くなったHSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)。90年代のはじめアメリカの心理学者エイレン・アーロン博士によってつけられた人の気質を表す名称です。日本では「繊細さん」という言葉でも広まっています。非常に感受性が強く敏感な気質を持った人を指し、約5人に1人が当てはまると考えられています。今回はこのHSPについて特徴とチェックリストについてご紹介します。
1.感受性は一人ひとり違う
HSPを理解する前にまずは感受性について知っておきましょう。私たちの感受性は、一人ひとり違います。例えば、見知らぬ人たちの中で生活することになったとします。あなたはどのような様子を示すでしょうか?ある人は、いつもと変わらずに振舞えるでしょう。
一方で、ある人はシャイになったり、慎重になったり、いつもとは違う振る舞いをするかもしれません。同じ環境に置かれても、そこでの行動は人によってさまざまです。
心理学では、「ある人は環境から影響を受けやすく、ある人は影響を受けにくいこと」を「環境感受性」という概念で研究します。より厳密にいうと「環境感受性」とは「ネガティブあるいはポジティブな環境刺激を処理する際の個人差」として定義されます。環境感受性は、誰もがもつ一般的な性質であり、低い人から高い人まで個人差があり、それは次の三つの要因によって確認されます。
第一に、遺伝子型です。感受性に関与する遺伝子型には、セロトニン系(5-HTTLPR s-allele)やドーパミン系(DRD4 7R)などがあります。最近のゲノムワイド研究によれば、これらの遺伝子型が累積的に感受性の形成に影響するようです。
第二に、神経生理システムです。環境感受性が高い人では、環境刺激を受けたとき、扁桃体(感情を司る)や海馬(記憶を司る)、島皮質(共感性などに関与する)が活性化しやすい傾向が示唆されています。
第三に、気質です。これは幼少期から行動レベルで観察できるもので、感受性の高い人は、深い認知的処理、刺激に対する圧倒されやすさ、情動的・共感的反応な高まり、ささいな刺激に対する気づき、といった特徴を示します。
つまり感受性の高い、低いについては、持って生まれたものと環境によって決まる部分が大きいと言えます。
2.HSPとは
HSP(Highly Sensitive Person)という言葉が、SNSやメディア、書籍などで取り上げられるようになりました。発信される情報は玉石混交で、HSPが拡大解釈されたり、科学的エビデンスにもとづかない情報も多く出回ったりしているようです。
では、HSPとは一体何を表すのでしょうか?それは上述のように「環境感受性が非常に高い人たち」を表すラベルを意味します。心理学では、この環境感受性の高さ上位30%程度にあたる人たちをHSPとしてカテゴリー化し、その特徴を研究することがあります。
多くの情報が発信される現在では、「生きづらい人」をHSPとしてラベリングする傾向がみられますが、それは適切な見方であるとはいえません。環境感受性は、生きづらさを表す概念ではなく、「良い環境からも悪い環境からも影響を受け取りやすいこと」を表すものだからです。HSPは「良くも悪くも影響を受けやすい人」です。
それを具体的に示したのが以下の図です。縦軸は「発達的なアウトカム」とありますが、ここでは「精神的健康」を考えます。プラスの方向ほど、良好な「精神的健康」の状態を表します。横軸は「環境の質」で、例えば「幼少期の家庭環境」を考えましょう。これもプラスの方向ほど、良好な「家庭環境」であることを意味します。点線は、環境感受性が高い人(HSP)の特徴です。実線は、低い人です。
環境感受性の低い人は、「家庭環境の質」が良くても悪くても影響を受けにくいことがわかります。一方で、環境感受性が高い人は、環境の質が良い場合は、感受性が低い人よりも良好な「精神的健康」を示し、環境の質が悪い場合は、「精神的健康」の状態が悪くなり、環境に影響を受けやすいことがわかります。ただ環境感受性が高い・低い、のどちらかが優れているわけでなく、その性質は環境次第で強みにも弱みにもなるというだけです。
3.自分の感受性を見つめてみよう
以下の10項目は、東京大学の飯村周平研究員の研究チームによって作成されたHSP尺度です(Iimura, Yano, & Ishii, 2020)。
項目は「はい・いいえ」ではなく、「まったくあてはまらない(1点)」、「ほとんどあてはまらない(2点)」、「あまりあてはまらない(3点)」、「どちらともいえない(4点)」、「ややあてはまる(5点)」、「かなりあてはまる(6点)」、「非常にあてはまる(7点)」のように自己評価します。
何点以上であれば「HSP」という基準はありません。自分自身にHSPというラベルを貼るためのツールではなく、あくまで自己理解を深めるための目安にするとよいでしょう。
1. 生活に変化があると混乱しますか?
2. 強い刺激に圧倒されやすいですか?
3. 他人の気分に左右されますか?
4. 短時間にしなければならないことが多いとオロオロしますか?
5. 競争場面や見られていると、緊張や動揺のあまり、いつもの力を発揮できなくなりますか?
6. 大きな音や雑然とした光景のような強い刺激がわずらわしいですか?
7. 大きな音で不快になりますか?
8. 明るい光や強いにおい,ごわごわした布地,近くのサイレンの音などにゾッとしやすいですか?
9. 微細で繊細な香り・味・音・芸術作品などを好みますか?
10. 美術や音楽に深く感動しますか?
4.まとめ
HSPは「繊細すぎて生きづらい人」ではなく「良くも悪くも環境から影響を受けやすい人」です。「色々なことに敏感に反応しすぎて疲れてしまう」と感じている人は、生活環境をうまく調整できるかどうかが、心の状態を大きく左右するでしょう。生活環境を快適にデザインするためにも、まずはHSPを適切に理解することが大事です。