誰でも手軽に利用できる移動手段の一つの自転車。大都会でない限りは停車や保管場所にも困らず、かなり遠くまで移動ができるので、通勤や普段の生活での移動は自転車が一番! という人は多いはず。その自転車の利用に対して、自転車保険加入の義務化が全国の自治体で進んでいるのを知っていますか? 今回は、自転車保険の概要、その加入の方法について徹底解説します。
被害者と加害者を守る動きから自転車保険加入の義務化が進んでいる
日常的に自転車を利用している人なら、一度くらいは、歩行者と接触しかけて「ヒヤリ」としたことはないでしょうか。自転車で事故を起こしてしまっても、自動車とは違って大事にはならないと思いがちですが、過去には自転車の事故で被害者が死亡してしまったことも。実際に裁判所が下した賠償金額は1億円近くと自動車事故と同様に高額な金額になることもあります。
(自転車事故でも自動車事故同様に賠償額は大きくなる。国土交通省 自転車事故の損害賠償に係る現状について資料より)
もし、歩行者を巻き込んで事故を起こしたときに無保険だったら...。高額な賠償金は自分の資産から支払っていかなくてはならないのです。高額な賠償金が支払われなくなると当然ですが被害者への償いができないことになります。そういったことから、被害者、加害者双方を守るためにも、全国の自治体では、2015年10月に兵庫県で義務化が開始されて以降、自転車保険への加入義務化が進んできています。今年4月から東京都でも自転車利用者、保護者、自転車使用事業者及び自転車貸付業者による自転車損害賠償保険等への加入が義務化スタートされました。
どんな保険に加入すればいいの?
自分が住んでいる自治体で加入が義務化された場合、どんな保険に加入すればいいのでしょうか? 今年4月から義務化が決まった東京都では「自転車利用中の対人賠償事故に備える保険等(※)に加入する必要がある」としています。この対人賠償事故に備える保険にはいくつかの方法があります。
(※自転車の利用によって生じた損害を賠償するための保険・共済)
(参考:東京都自転車保険義務化チラシ)
まず一つ目は、損害保険会社などで加入できる単独の自転車保険に加入する方法。自転車保険は、「個人賠償責任補償」と「傷害補償」がセットになったものが一般的。個人賠償責任補償とは、日常で誤って人にケガをさせたり、人の物を壊してしまったりして、法律上の損害賠償責任を負担した場合の損害を補償するものをいいます。自治体での加入義務はこの個人賠償責任補償だけで果たすことができますが、自転車保険は自分自身のケガを補償する傷害補償がセットになっているのでより安心な保険と言えます。傷害補償は、自分自身が自転車事故でケガをして入院や死亡したときや個人賠償責任補償と同様に、自転車以外の事故、たとえば駅構内で転んでケガをした場合などでも補償されます。他にも事故を起こした時の示談交渉や壊れた自転車を搬送してくれるロードサービスなどの付帯サービスがあります。
●損害保険会社で加入する保険(一例)
保険会社名 | 商品例 | 特徴 |
---|---|---|
au損害保険(株) | 自転車向け保険Bycle | 保険料は月額340円~ブロンズ・シルバー・ゴールドの3つのコースがある。個人賠償責任補償額がすべてのコースで2億円以上 |
楽天損害保険(株) | サイクルアシスト | 保険料は月額250円~基本・安心・充実の3つのプランがある。保険料1%分の楽天ポイントが付与され、支払いもポイントでできる |
東京海上日動火災保険(株) | eサイクル保険 | 保険料は月額340円~A・B・Cと3つのプランがある。常駐専門医または看護士が24時間365日電話で対応してくれるメディカルサポートの無料付帯サービスがある |
(月額保険料は300円前後で加入はネットやスマホから簡単にできる)
(参考:サイクルアシスト)
(参考:eサイクル保険)
二つ目の方法は、自動車保険、火災保険などの特約で「個人賠償責任補償特約」を付けること。自転車保険のように傷害補償とセットではないので、自転車でのケガで自分が入院したとしても、補償の対象ではありませんが、すでに医療保険などに加入していればケガの備えはできますので、自動車保険や火災保険に加入している人は、検討すべき方法と言えます。また、クレジットカードや携帯電話のキャリアでの付帯保険などで自転車保険を取り扱っていることも。たとえば、ドコモのケータイ回線を持っている人に向けた「ドコモサイクル保険」では月額460円~加入ができます。楽天カードでは、カード会員が加入できる「楽天カード超簡単保険」の自転車プランでは月額270円~などもあります。
三つ目の方法は、自転車の車体に付帯された「TSマーク付帯保険」というもの。この保険は、自転車安全整備店で、自転車安全整備士が点検整備(有料)を受けると、第一種TSマーク(青色マーク)と第二種TSマーク(赤色マーク)のステッカーが車体に張り付けられ、障害保険と賠償責任保険、被害者見舞金(第二種TSマークのみ)が車体に付帯されます。
●TSマーク付帯保険補償内容
第一種TSマーク | 第二種TSマーク | ||
---|---|---|---|
賠償責任補償 | 死亡または重度後遺障害(1~7級) | 1000万円 | 1億円 |
傷害補償 | 死亡または重度後遺障害(1~4級) | 30万円 | 100万円 |
入院(15日以上) | 1万円 | 10万円 | |
被害者見舞金 | 入院(15日以上) | ― | 10万円 |
(損害保険で加入できる個人賠償責任補償と比べると補償額が少なめ)
保険の有効期限が1年間なので毎年自転車安全店での整備を受ける必要があります。一般的な損害保険とは違い、示談交渉などのサービスもついていません。個人ではなく、その自転車に対して補償され、他人が利用した場合でも対象となるので、会社での利用やレンタサイクルなど不特定多数の人が共有する場合に向いているといえます。
どんな保険に加入すればいいの?
自転車保険に加入するときに、なるべくなら出費はおさえたいもの。そのためには、補償の無駄がないかを事前に確認すること。自転車保険で備えるべきことは、「相手にケガをさせてしまったときの備え」と「自分がケガを負ったときの備え」です。
まず一番重要なものは、死亡事故や相手に高度障害を負わせてしまった場合高額な補償額をどのくらい準備すればいいのか? ということ。前述の過去の判例を参考にすると最低でも1億円以上の準備は必要になります。もし、加入している自動車保険や火災保険に個人賠償責任補償特約を付けているなら、補償金額がいくらなのかを確認。備えが十分にあれば、追加で加入する必要はありませんが、補償額が不足と感じるなら単独の自動車保険に加入して金額を補填するようにして。次に、自分がケガを負ったときの備えについて。これは、ケガの場合は、医療保険、死亡や高度傷害の場合は、死亡保険などで備えることもできるので、加入している保険があるなら保障額を確認して不足分を補填することで無駄を省くことができます。
まとめ
自転車保険は月額数百円からと少額な金額で加入できるものの、長い目で考えるとまとまった金額になります。自分が今どんな保険に加入していて、補償額や受けられるサービスを確認してから、必要な分だけ加入するようにしましょう。まったく保険に加入していないなら単独の自転車保険への加入が手軽なので、自分にあったものを検討してみるといいでしょう。
回遊舎(かいゆうしゃ)
回遊舎(かいゆうしゃ)
"金融"を専門とする編集・制作プロダクション。お金に関する記事を企画・取材から執筆、制作まで一手に引き受ける。マネー誌以外にも、育児雑誌や女性誌健康関連記事などのライフスタイル分野も幅広く手掛ける。
近著に「貯められない人のための手取り『10分の1』貯金術」、「J-REIT金メダル投資術」(株式会社秀和システム 著者酒井富士子)、「NISA120%活用術」(日本経済出版社)、「めちゃくちゃ売れてるマネー誌ZAiが作った世界で一番わかりやすいニッポンの論点10」(株式会社ダイヤモンド社)、「子育てで破産しないためのお金の本」(株式会社廣済堂出版)など。