「宣言解除でテレワーク打ち切り」企業から、「テレワーク可」IT企業への転職希望者が増加!?--甘くない現実も

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新型コロナウイルス感染拡大を受けた緊急事態宣言が解除され、企業活動が通常に戻りつつありますが、同宣言をきっかけに多くの企業で導入された「テレワーク」をきっかけに、働き方に関する大きな変化が出てきています。今回の記事では転職市場、特にIT業界への影響について見ていきます。

1.テレワークを積極的に取り入れてきたIT企業が人気

転職シーンに異変が起きているかもしれません。まだ統計などにはっきりと現れているわけではありませんが、多くの関係者が「緊急事態宣言が解除されて、IT業界への転職希望者が増えている」と口を揃えます。元々、IT業界は高給の傾向があるために転職希望者の間では人気がありましたが、収束後、さらに人気が高まっているようです。

その理由は、(もちろん冗談が半分ですが)テレワークが普及しているからだと言うのです。コロナ禍により、多くの企業が緊急避難的に在宅テレワーク制度を導入しました。しかし、急造りのテレワーク制度では、「在宅勤務という名の休業」になってしまった企業も少なくありません。また、WEB会議なども基本操作のレベルから混乱が生じ、会議ではなく、WEB会議ツールの使い方講習会になってしまったケースも多いと言います。

一方、IT業界では、以前からテレワークを積極的に取り入れているため、大きな混乱はありませんでした。

収束後、経済の再開が始まり、多くの企業でテレワークから出社へ移行しています。満員電車で通勤しなければならない、自分のペースで仕事ができなくなるなどから、テレワークができるIT業界への転職希望が増えているのだと言います。

「テレワークがしたいからIT業界に転職する」と言うと安直すぎる理由に思えるかもしれません。しかし、この「テレワーク制度がある」ということが、その企業の働き方を示すバロメーターになっているのです。

2.テレワークが当たり前の働き方になっている企業の特長は?

テレワークが当たり前の働き方になっている企業とは、次のような特長を持っていることが考えられます。

2.1.自由な働き方ができる

オフィスに出社をして働くことも、自宅やカフェで働くこともできます。自分の都合のいい場所、快適に仕事ができる場所で業務をすることができます。会社は、従業員に快適な作業環境で仕事をしてもらい、生産性を上げることによって、会社に貢献してほしいと考えています。

2.2.風通しがいい

テレワークが当たり前になっているということは、コミュニケーションはメッセージやメール、社内文書が主体になります。これは一見、小さな打ち合わせでもメモを作る、記録を残すということをしなければならず、面倒に感じることもありますが、それに勝る大きなメリットがあります。それは、どこにいても、このようなメッセージなどの履歴を読めば、社内でどんな議論が進んでいるのかが分かるということです。全員が同じ情報を共有することができます。

一方、テレワークをせず、対面だけで業務を進める会社では、ごく一部のメンバーの打ち合わせだけで方針が決定されてしまうことがあり、その内容が全員にじゅうぶんに共有されません。そのため、つまらないミスが生じたり、疎外感を感じてモチベーションが低下したりするなどの事態が生じます。

2.3.成果に対して報酬が決まる

テレワークに消極的な会社は、時間ベースで仕事をしています。1日8時間仕事をしてもらうことが最も重要なことになっています。そのため、テレワークでは労務管理がしづらいと感じるのです。時間ベースの会社では、仕事がなくても毎日8時間は仕事をしているフリをしなければなりません。

これが必要のない仕事が生まれる原因になっています。必要のない仕事が生まれるということは、それに連動する人の仕事量も増えることになり、生産性はどんどん落ち、意味のない仕事をしなければならない従業員のモチベーションはどんどん低下をしていきます。
一方、テレワークを積極的に導入する企業では、時間ではなく、成果で仕事をしています。求められている成果を達成したのであれば、在宅テレワークを終えて、子どもと遊びに出かけてもかまいません。また、仕事量が少ないのであれば、さらに別の業務を担当することもでき、それに伴い報酬も増えていくことになります。

このような企業では報酬も時間ではなく成果に対して支払う考え方なので、効率よく働ける人、成果を出せる人の報酬はどんどん上がっていくことになります。

2.4.新鮮さを感じられる環境

今回のコロナ禍で、IT企業がすぐに在宅テレワークに対応ができたのは、ずっと以前からテレワークに対するトライアルを行なってきたからです。

IT企業は常に変化を求めているため、新しいものが登場すると、すぐに小さなトライアルを行い、メリットとデメリットの分析を行います。そうやって進化をしていかないと競争に負けてしまうからです。現在でも、さまざまなことに挑戦をしています。

従業員にとっては、常に変化のある職場環境となります。小さなリセットが常に起きているので、若くて経験のない従業員にもチャンスが生まれます。

この他にも、「在宅テレワーク可」というひとつのことから、さまざまな労働環境上のメリットが考えられます。コロナ収束後に、IT業界に転職を考えている人は、テレワークの向こう側にこのようなIT企業のよさを感じ取っているのです。

3.IT企業の「良さ」は、そのまま厳しさにもつながる

ただし、このような「良さ」は、そのまま厳しさにもつながります。自由な働き方ができるということは、楽ができるということではなく、自己管理ができなければなりません。成果で報酬が決まるということは成果が出せなければ報酬は低いままで、社内の報酬格差が大きいということです。常に変化をするということは、常に新しいことを学ばなければならず、それについていけなければ成果に結びつかなくなるということです。

「IT企業は自由に働けて魅力を感じるけど、その反面厳しさもあり、だいじょうぶだろうか?」と不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

そのような方は、「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」(経済産業省)の一読をお勧めします。

IT人材の待遇に関する初めての公的調査で、生々しい実態が明らかにされています。これを読むと、IT企業のよさと厳しさの関係が把握できるようになります。

4.職種によって大きな給与格差

まず明らかにされているのが、職種によって大きな給与格差があることです。上位はコンサルタント、プロジェクトマネージャーなどの平均年収900万円前後ですが、下位はコンテンツクリエイター/デザイナー、顧客サポート/ヘルプデスクの400万円前後になります。

「民間給与実態統計調査」(国税庁)によると、440.7万円(平成30年)となっているので、同じIT企業といっても職種やスキルレベルによっては、平均給与以下になってしまうこともありえるわけです。

(職種別の平均年収。IT企業だからといって必ずしも給与が高いわけではない。職種によって格差が大きい。「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」(経済産業省)より引用)

また、ぜひ頭に入れておきたいのが、IT企業は年功序列の感覚は少なく、スキルレベルに比例をして給与も上がっていくことです。しかも、きれいに比例はしません。この調査では、スキルレベルを7段階に分類し、レベルごとの平均年収を求めています。初心者レベルであるレベル1から中堅人材であるレベル3までは、ほぼ比例をするように平均年収が上がっていきます。しかし、レベル4からレベル7までは、急傾斜で平均年収が上がっていくという不連続さを持っています。

つまり、簡単に言えば、IT企業に入ってもスキルレベルが低いままでは給与はさほど上がらず、高いスキルレベルに到達して、ようやく高い給与が得られるということです。
このような能力、成果を重視する評価制度が導入されているため、年齢が高くなれば高くなるほど、給与格差は大きくなっていきます。55歳時の報酬では約1.6倍の格差が生まれています(最低水準で年収500万円、最高水準で年収830万円前後)。

(スキルレベル別の平均年収。レベル3までは緩やかに増えていくが、レベル4以上で急激に増える。IT企業で高い給与を得るには、高いスキルレベルを身に付ける必要がある。「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」(経済産業省)より引用)

また、残業時間と自主的な勉強時間を見ると、いずれもレベル1からレベル3まではあまり変わらないものの、レベル5以上で急激に増えます。つまり、高いスキルレベルを持つ人はたくさん働き、なおかつ自主的な勉強時間も多くとっているということです。だからこそ高い報酬が得られています。

最高レベルのレベル6/7では、1週間あたりの勉強時間が4.3時間にも及んでいます。これは週末も含めて、1日37分もの勉強時間をとっているということです。業務時間以外での勉強時間ですから、簡単には確保できません。

(スキルレベル別の残業時間と勉強時間。残業時間はほぼ比例して増えるが、勉強時間は高いレベルで急激に増える。IT企業では、勉強することが重要であることがわかる。「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」(経済産業省)より引用)

5.転職希望者は、IT業界の良さと厳しさについて理解を深める必要性

IT企業は、一般企業と比べて、さまざまな働きやすさを備えています。しかし、企業が快適な労働環境を提供するのは、慈善活動ではなく、従業員の能力を引き出して会社に最高の貢献をしてもらうためです。

IT人材は2025年に約43万人が不足すると予測されているだけでなく、すでにどのIT企業でも慢性的な人材不足に頭を悩ませています。そのため、新卒採用だけでなく、中途採用もごく一般的なものになっています。その点では、転職しやすい業界のひとつです。

今回のコロナ禍により、テレワークを含む働き方に疑問を感じ、IT業界への転職をお考えの方は、ぜひこの「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」を読み、IT業界の良さと厳しさについて理解を深めてください。業種別、従業員規模別に企業が中途採用の状況をどのように感じているかなどの貴重なデータも掲載されています。

IT業界では、WEB採用面接なども一般的になっているため、転職のチャンスはものすごくたくさんあるはずです。

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プロフィール

原稿:牧野武文(まきの・たけふみ)

テクノロジーと生活の関係を考えるITジャーナリスト。著書に「Macの知恵の実」「ゼロからわかるインドの数学」「Googleの正体」「論語なう」「街角スローガンから見た中国人民の常識」「レトロハッカーズ」「横井軍平伝」など。

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