ビジネスの現場で、「コンプライアンス」という言葉が使われることが多くなりました。「弊社もコンプライアンス教育をしなければならない」、「このスキームはコンプライアンス的にNGではないのか?」、「コンプライアンスの関係で、お伝えすることができません」、などと使われます。
ところでコンプライアンスとは何でしょうか。実は、「法令遵守」とイコールではありません。コンプライアンスは、法令遵守よりも広い概念を含む言葉です。今回は、コンプライアンスの意味と、違反の主な事例、コンプライアンス違反が起きる原因と対策について、詳しく見ていきます。
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目次
1.コンプライアンスとは:"法令遵守"だけではない
2.なぜコンプライアンスが重要なのか
3.コンプライアンス違反の主な事例
4.コンプライアンス違反が起きる3つの原因と対策
5.コンプライアンス違反を起こさないためにやっておきたい5つの取り組み
6.コンプライアンスという言葉の使い方
7.コンプライアンスについて知識をつけることの重要性
1.コンプライアンスとは:"法令遵守"だけではない
コンプライアンスとは「法令遵守」と訳されることが多いようですが、これが誤解を生んでいます。なぜなら、「法令を守るのはあたりまえのことでしょう?」と考えてしまい、コンプライアンス意識が足りなかったり、コンプライアンス体制の構築が遅れてしまったりしてしまうからです。
コンプライアンス(Compliance)は、「命令や要求に従うこと」という意味ですが、企業においては、法律や社内規則だけではなく、世の中の倫理観や道徳観に従うことなども含まれます。
例えば、大規模な自然災害が発生した時に、品不足になっている自社の商品やサービスを普段の10倍の価格で販売することは、政府が政令により生活関連物資に指定しない限り、違法ではありません。しかし、被災者や市民からは大きな非難を浴びることになるでしょう。法令には違反していなくても、これもコンプライアンス違反と考えるべきなのです。
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2. なぜコンプラアインスが重要なのか
コンプライアンスが重要な理由ははっきりしています。法令違反をした場合は、処罰を受けることになり、社会通念に違反した場合は消費者から非難を浴びることになります。いずれにしても、経営に大きな打撃を被ることになるからです。
帝国データバンクが2020年4月に発表した「コンプライアンス違反企業の倒産動向調査(2019年度)」では、コンプライアンス違反による倒産は225件となり、8年連続で増加となっています。
コンプライアンス違反による倒産を内容別に見ると、最も多かったのが、決算数字を過大(過少)にに見せる粉飾決算が78件(構成比34.7%)、次に多いのが事業外での不祥事や悪質な不払いなどの「その他」(48件、構成比21.3%)、行政処分などの「業法違反」(31件、同13.8%)が続きました。
また業種別に見ると、サービス業(49件)、卸売業(48件)、建設業(48件)などが多くなっています。
コンプライアンス違反をすることは、業績を悪化させるだけでなく、最悪の「倒産」という事態も招きかねない、非常にリスクの大きな事象なのです。
3. コンプライアンス違反の主な事例
では、コンプライアンス違反には、具体的にどのような事例があるのでしょうか。主に4つのケースがあります。
(1)不正経理:粉飾決算や脱税など
2018年1月8日、振袖の販売レンタル業「はれのひ」が突如店舗を閉鎖し、成人式前であったことから大きな騒動になりました。その背景には、同社の粉飾決算の問題がありました。売上高を水増しした決算書類を使って、ある銀行から借入金を騙し取ったとされています。同社は破産手続きを開始し、社長は融資金搾取容疑で逮捕されるという事態になりました。
(2)製品の偽装:検査偽装、産地偽装など
2017年10月に、神戸製鋼所が自社製品の品質データを改竄していたことを公表しました。不正行為は1970年大から慢性的に行われていたことも発覚しました。会長兼社長は辞任、その後、不正競争防止法違反で、罰金1億円を課せられることになりました。
(3)情報管理の不徹底:個人情報流出など
2019年7月、キャッシュレス決済サービス「7Pay」で、攻撃者による不正アクセスが多発しました。約900人が被害に遭い、被害額は5500万円にのぼるとも推定されています。セブン&アイ・ホールディングズは、すべての被害者に対して、全額補償をすることを発表し、決済サービス「7Pay」は廃止となりました。経済的な損失だけでなく、消費者からの信頼も失うことになりました。
(4)不適切な労務管理:サービス残業など
2017年12月、野村不動産の男性社員の自殺が労災認定されました。過労死自殺だとされています。同社は裁量労働制を違法適用していたことから、厚労省東京労働局が同社の調査を行い、特別指導を行いました。また、メディアでも大きく報道され、国会でもこの問題が取り上げられ、同社は大きな批判を浴びることになりました。
4. コンプライアンス違反が起きる3つの原因と対策
コンプライアンス違反が起きる3つの原因と対策を以下に紹介します。
(1)意図的な違反:不正経理、製品偽装など
不正経理や製品偽装など、関係者がコンプライアンス違反であることの自覚を持っている場合です。しかし、それが業界や社内の慣習になっていたり、場合によっては「伝統」となっていたりして、担当者がコンプライアンス違反であることを指摘しづらい雰囲気が形成されていることが多いようです。担当者が良心の呵責に耐えながら業務遂行しなければならないという新たな労働問題に波及することもあります。
■対策
このような問題に対しては、社内研修などで社員のコンプライアンス意識を高めていくことが基本になりますが、社内に匿名で相談、通報ができる窓口を設けるなどの体制づくりも必要になってきます。
(2)不注意による違反:個人情報流出など
実は、多くの企業にとって、最も警戒しなければならないのが、この「不注意によるコンプライアンス違反」です。
例えば、次のような行為を行ったことはないでしょうか。
・仕事が終わって居酒屋で、同僚や友人と業務内容について話をする
・家族や友人に業務内容について、気軽に話をする
・自宅や出張先で仕事をするために、USBメモリなどで社内データを持ち出す
・新幹線や飛行機の中で、パソコンを開いて社内文書を表示し、仕事をする
・会社のPCやスマートフォンで、業務に関係ない私的なネット利用をする
このような行為を行う本人に悪気はありません。しかし、いずれも情報漏洩、個人情報流出につながりかねないリスクがあります。多くの人が「それぐらいいいじゃないか」「たいしたことではない」と考えてしまいがちで、それがかえってリスクを拡大させています。
■対策
対策は、社員研修によるコンプライアンス意識の啓蒙、社内ルールの徹底などですが、業務システム自体をコンプライアンス違反行為ができないものに改善していくことも必要です。また、「社外では社内ネットワークにアクセスさせない」という禁止型のシステムにすると、社員は私的なデバイスを使って、シャドーIT化が起こり、かえってリスクを拡大させることになります。むしろ、社外からでも安全にアクセスができるシステムづくりを目指さなければなりません。
このようなコンプライアンスを全体最適で考えるCCO(Chief Compliance Officer)などを任命して、コンプライアンスを担当する専任チームを設置することも重要になってきます。
(3)無自覚による違反:サービス残業など
残業は誰でもしたくはないものですが、問題なのは、社員自らの意思で残業してしまうケースです。業績をあげたい、仕事を期日に間に合わせたい、さらには会社に貢献したいという気持ちから、上司の了解を得ることなく、タイムカードを切らずに残業をしたり、あるいは休暇に自宅で業務をこなしてしまったりしてしまうことがあります。
その場合、労働基準法の違反となるばかりでなく、企業は残業代の未払いをしていることになります。また、大きな問題となれば、世間から「ブラック企業」と呼ばれかねません。
■対策
これも社員研修によるコンプライアンス意識の啓蒙が重要になりますが、ただ「やってはいけないことリスト」を伝えるだけでなく、なぜしてははいけないのか、企業や社員にどんなデメリットがあるのかまできちんと理解できる伝え方が重要になってきます。
5.コンプライアンス違反を起こさないためにやっておきたい5つの取り組み
コンプライアンス違反を起こさないためにやっておきたい取り組は、次の5つです。
(1)社内研修の開催
(2)相談、内部通報窓口の設置
(3)CCOを中心にしたコンプライアンス専門組織の設置
(4)就業規則、業務システムの改善
(5)CSR経営の一環に組み込む
この中で、特に重要なのが(5)のCSR経営です。CSR経営とは「企業の社会的責任」のことです。法令を守るだけでなく、企業は社会に対して責任があるという考え方です。その社会的責任を果たすためには、コンプライアンス遵守が大前提になります。
近年、多くの企業がCSR指針やCSRレポートを公開するようになっています。これは具体的にどのような社会的責任を果たしていくのかを広く示し、定期的にレポートを公表することでどの程度実行できたかを社会に報告するものです。
このようなCSR指針やレポートを作成する作業を通じて、経営陣、CCOチーム、社員が社会的責任を再認識して、コンプライアンス意識が高まるという効果もあります。
「うちの会社は小さくて、そこまで手が回らない」と感じる方もいるかもしれません。しかし、役員か人事担当のどなたかがCCOを兼任し、匿名の相談窓口となるだけでも大きく違ってきます。また、社員全員でコンプライアンスのeラーニングを受講するだけでも大きく違ってきます。コンプライアンスは、そういう小さな取り組みから始まっていくのです。
6. コンプライアンスという言葉の使い方
ここまで、コンプライアンスの意味や重要性を解説してきました。コンプライアンスは業種職種を問わず、ビジネスシーンで幅広く使われる可能性がある言葉です。
意味を理解するだけではなく、実際に使う際に誤った使い方をしないよう注意しましょう。
ここでは、例文を挙げてコンプライアンスという言葉の使い方を紹介します。
・当社はコンプライアンスを重視しています。
・全社員に向けてコンプライアンス教育を行います。
・コンプライアンスを社内で周知するためには、定期的な研修が必要です。
・取引先でコンプライアンス違反が報告されました。
7. コンプライアンスについて知識をつけることの重要性
前述の通り、コンプライアンス違反は不正経理や製品偽装などの意図的な違反だけではなく、少しのミスや気の緩みから無自覚で違反を起こしてしまう場合もあります。
コンプライアンス違反を起こした結果、損害賠償が発生したり企業イメージが損なわれたりします。
「知らなかった」では済まされない結果を招くため、業務に取り組む上でコンプライアンスについての知識をつけることはとても重要です。
また、全従業員に周知するために企業側も研修を定期的に行うことが大切です。