映画『みんなの学校』はご存知でしょうか。大阪市にある公立の大空小学校の2012年度を撮影したドキュメンタリー映画です。同小学校では、上からの教育とは一線を画す、現場からの教育改革を実践し、「地域に開かれた学校」として、個性豊かな子供たちと大人がともに学び合い、「自分たちの学校」をつくっています。今回は、同小学校の初代校長の木村泰子氏と、NPO法人えじそんくらぶ代表の高山恵子氏の対談を書籍化した小学館新書『「みんなの学校」から社会を変える』を紹介します。学校関係者や親だけでなく、会社で後輩や部下を育成する人にも大変役立つ内容となっています。
まず、この本が問いかけるのは、学校関係者や親は、本当に子供のことを理解しているのか、という点です。子供を理解することができる、と思っている人は、大きな間違いを冒しているかもしれません。
子供に対して大人は、どうしても上から目線でものを言ったり、何か指導しなければ、という使命感を持って接したりすることが多いように思えます。
しかし、そのことが大きな間違いであることが、この対談では指摘されています。木村先生は、大空小学校で、まず「この意識から、ぶっ壊していきました」と話します。そして、「目の前にいる子供から学ぶ」ことを、同小学校の原点としていたと述べます。
実際に子供と長く接したことがある人はわかるかもしれませんが、子供は、自分なりの視点というものを必ず持っています。子供は、決して大人から一方的に学ばされる存在ではなく、大人は子供と「ともに学ぶ」必要があるのです。
では、子供が大人に期待するものは、何なのでしょうか。それは、「子供に寄り添う」ことです。高山氏は、「子供の傍らにただ、いるって、すごく難しいですよね」と話しています。ですが、子供の最も求めているのは、「子供の傍らにただ、いる」ことなのです。
さらに木村氏、高山氏が重要と指摘するのは、子供に「安心・安全」な場を提供することです。高山氏は、「安心・安全なくして、何かを学ぶことはできない」とし、学びの場に最も問われることは、「そこが安心して失敗できる環境かどうか」と話します。
最近は、児童虐待が深刻化するなど、家庭さえ、子供にとって「安心・安全」な場とは限りません。学校にもいじめなど深刻な問題があります。だからこそ、子供に「安心・安全」な場所を提供することが重要になってくるのです。「安心・安全」な場所を提供することができなければ、子供が自己を達成するための欲求である「自己実現」など、到底無理なのです。
ここまで本書の冒頭のさわりだけ簡単に紹介しましたが、いかがでしょうか。会社で後輩や部下に接する場合と、とても似ていると感じるのではないでしょうか。
先輩として、上司として、後輩や部下を分かったつもりになっていないでしょうか。また、一方的に何かを教える存在としてとらえていないでしょうか。
それは誤りである可能性を、この本は教えてくれます。
また、後輩や部下が、「安心・安全」な気持ちで仕事に取り組める環境を整えているといえますでしょうか。最近は生産性向上ということばかり言われますが、後輩や部下が本当に育つには、まずは「安心・安全」に仕事に取り組める環境を整え、多少の失敗を恐れずチャレンジすることを可能にすべきなのではないでしょうか。
どんな人にもいいところ、見るべきところはあり、そうした点を学びながら、ともに成長していくことこそ、本来の会社の在り方だと、この本が教えてくれているような気がします。
これ以外にも、会社生活においても参考になるヒントが、『「みんなの学校」から社会を変える』には詰まっています。関心がある方はぜひ、ご一読いただければと思います。