ラグビーワールドカップ日本代表HC、<br>ジェイミー・ジョセフ氏の組織作りについて松崎泰弘教授に聞いた!

ラグビーワールドカップ日本代表HC、<br>ジェイミー・ジョセフ氏の組織作りについて松崎泰弘教授に聞いた!

いよいよ「ラグビーワールドカップ2019日本大会」(9月20日~11月2日)が始まります!日本代表メンバー 31人の内訳は、FW18人、BK13人。BKの中でも攻撃の起点となるSHには3人が選ばれ、FW18人ではプロップが5人、フッカーが3人を占め、強豪との対戦が続くW杯にあわせた配置となっています。このメンバー構成を始め、チームの組織作りについて、ジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)の指揮官ぶりに注目が集まっている中、そのジョセフHCが8月29日に日本記者クラブで会見し、W杯に向けた意気込みと戦略について語りました。

ジェイミー・ジョセフHCは、49歳のニュージーランド人。ラグビー王国の代表選手として95年の第3回W杯で準優勝し、その後、日本の社会人チームに加わり、第4回W杯は日本の代表選手として出場しています。日本を熟知した十分な経歴の持ち主であると言えるでしょう。

会見でジェイミー・ジョセフHCは、自身がHCに就任した2016年当時のチームの状態について、前年のW杯イングランド大会で史上最大の番狂わせと言われた南アフリカ戦で勝利し、3勝をあげたこともあり、実は2016年に残ったメンバーにはハングリー精神が欠けていたと明かしています。ここを打破するためには、選手やスタッフがどのような意識を持っているのかを確認し、課題があるのであればそれを乗り越える中で、選手の層を厚くしなければならないと考え、若い選手を発掘し、チーム力を高めていくことに重点を置いたのだそうです。最初の2年間はサンウルブズのスーパーラグビー参戦や、ティア1チームの全てと試合を行うなど、とにかくハードな練習、ハードな試合を選手に課し、きつい環境によってレベルを高めていく戦略を立てたと言います。

このジェイミー・ジョセフHCが選抜した日本チームの布陣、またチーム・組織作りの特徴について、大正大学表現学部教授でラグビー経験もあることからラグビー解説記事も担当されている松崎泰弘氏に分析していただきました。

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鈴木: ジェイミー・ジョセフコーチが選抜した今回のラグビーチームの布陣について、松崎教授はどのような印象をお持ちですか?

松崎教授:総合的な力は4年前の前回大会のチームを上回っていると思います。高いレベルときつい環境によってレベルを高めることを目的としたサンウルブズによるスーパーラグビー参戦を通じて、南半球のトップチームのレベルを肌で感じることができたのは大きいのではないでしょうか。

鈴木: 4年前の前回大会では、史上最大の番狂わせと言われた南アフリカ戦を含む3勝をあげたオーストラリア人指導者のエディー・ジョーンズ氏の組織作りが注目されました。ジェイミー・ジョセフHCの組織作りとの違いはどこにあるのでしょうか?

松崎教授: ジェイミー・ジョセフHCが率いるチームのスタイルは、攻撃力を重視した選手選考であると言えます。エディー・ジョーンズ氏が率いた前回大会のチームは、守備の面でも徹底的に鍛えられた選手が顔を揃えていました。対戦相手の足元へ低く突き刺さるようなタックルや、タックル後に起き上がる「リロード」の早さが印象的でした。選手に指示をしっかり伝えるジョーンズ氏と比べ、今回のジェイミー・ジョセフHCは、選手の自主性や判断力をより重んじているように思います。そのスタイルが正しいかどうかはW杯での結果次第と言えるでしょう。

鈴木:その選手の自主性に関連するエピソードとして、ジェイミー・ジョセフHCは、日本人選手は他国のように、プロ選手でないにも関わらず、家族との時間を犠牲にしてでも、チームのために練習に励み、戦っていると評価していました。この精神にはある種の自主性があると言えるのでしょうか?

松崎教授:海外のスポーツ選手や指導者からみれば、「自主性」と言えるのかもしれません。ただ、日本で本格的にスポーツに取り組む者は、当たり前のこととして受け入れている面が強いように思います。その当たり前のことが試合における自主性に繋がるかどうかは、今回の大会で明らかにされていくのではないでしょうか。
総合的な力は4年前の前回大会のチームを上回っているのですから、ぜひとも、ベスト8に進出してほしいと思っています。それが日本における「ラグビー文化」の普及に向けた第一歩になるはずです。

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このベスト8進出という目標については、ジェイミー・ジョセフHCも意識しているようです。会見でも、「18カ月前なら確信が持てなかっただろうが、今は持てる」と述べ、手ごたえを示していました。

私たちも一丸となって応援したい気持ちでいますが、他のスポーツと比べると、ラグビーはどうしても馴染みが薄いというのが正直なところです。ただ、ラグビーの世界に触れていくと、私たち日本人が惹かれる資質と精神が宿っているスポーツであることがわかります。

その点についても松崎教授にうかがいました。

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松崎教授:ラグビーは昔から紳士のスポーツと言われています。相手をリスペクトするという精神が根底にあるスポーツだからです。最近は変わってきてしまいましたが、トライしてもガッツポーズなどをしない、あるいは試合が終了しても勝利チームは決して大喜びしない、など相手チームを思いやることの大切さを私自身もラグビーから学びました。「ノーサイド」は日本独自の考え方とも言われていますが、公式戦終了後にビールを酌み交わしながら互いの健闘を称え合う「アフターマッチファンクション」などの習慣はラグビーならではのものなのです。

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仲間で助け合う気持ちを大切にするラグビー精神。このラグビー精神は、そもそも日本社会や組織に馴染みやすい和の精神であると言えるのかもしれません。

9月20日~11月2日の44日間に渡り、北海道から熊本まで全国12ヵ所で試合が行われるラグビーW杯。ワールドカップ公式HPによれば、大会開催における経済効果は4,372億円、スタジアムでの観戦者は最大180万人、訪日外国人数は40万人に達するとされています。訪日外国人の消費支出による直接効果は1,057億円に上るとのことです。

訪日客も増え、日本経済の活性化にも繋がるのであれば、社会全体の雰囲気にも良い影響がありそうです。令和元年に行われる最初のビッグイベントとも言えるラグビーW杯。日本での開催をぜひとも前向きに捉えつつ、新たな時代の幕開けを味わいたいものです。

プロフィール

鈴木ともみ

経済キャスター・MC。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所 招聘研究員。
ファイナンシャル・プランナー、日本記者クラブ会員記者、多様性キャリア研究所副所長
和洋サウンドシアターユニット『未来香音』(津軽三味線・清水まなみ、ピアノ・斎藤タカヤ、パーカッション・宮本仁、語り部・平山八重、ストーリーテラー・鈴木ともみ)として、ラジオやライブで活動中。
ラジオドラマにおけるデビュー作が「日本民間放送連盟賞」エンターテインメント部門出品作品となる。
来日する各国大統領や首相、閣僚、ハリウッドスター等を含む取材・インタビューは3000人を超える。
キャスターとしてTV、ラジオ、各種シンポジウムへの出演の他、雑誌やニュースサイトにてコラムを連載中。
主な著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。

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