ビジネスの世界を見渡すと、ここ数年で、「意識高い系」という言葉が当たり前のように使われ始めてきました。「意識高い系」とは、ウィキペディアによれば『自分を過剰に演出するが、中身が伴っていない若者、前を向きすぎて空回りしている若者、インターネットにおいて自分の経歴・人脈を演出し自己アピールを絶やさない人などを意味する俗称である。大学生に対して使用されることが多いが、ビジネスマンや主婦など若者・学生以外の層に対して使用される場合もある。「意識高い系」の特徴として、自己啓発(ボランティア・政治)活動や人脈のアピール、あえて流行のカタカナ語を使うなどが挙げられる。嘲笑の対象として「意識高い系(笑)」と表記されることもある』となっています。
この「意識高い系」という言葉は、2015年にNHK BSプレミアムで放送された『その男、意識高い系』といったドラマのタイトルになるほどまでに、世の中に浸透してきました。
そもそも、高い意識を持つことは悪いことではありません。実際、2000年代半ば当時は、就職活動の場面において使われ出した「意識が高い学生」という言葉は「能力が高く、知識も経験も豊富で優秀な人材」という意味を持ち、ネガティブなイメージはありませんでした。ですが、SNSが浸透し始めた2010年頃から「意識高い系」は、その行動力が空回りしポイントがズレているにも関わらず、自己顕示欲の高さばかりが目立つという意味で、揶揄される対象へと変化してきました。
では、もともと肯定的に捉えられていた「意識が高い人」と、その後、揶揄される対象となった「意識高い系」との間には、いったいどのような違いがあるのでしょうか?
その違いについて、大手損害保険会社で組織改革を実現し、現在は人材開発コンサルタントとして活動されている細谷知司さんにうかがいました。
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ーー意識が高い人と意識高い系には、どのような違いがあるのでしょうか?
細谷:やや観念的な言い方になりますが、意識も行動力も高い人と意識だけが高い人の違いのように感じています。本来「意識(が)高い」とは前者を表す言葉ですが、そこに行動力が伴っていないため、「系」という文字がくっついてしまう。努力し意識を変えていく行動力の欠如を端的に表現しているのが「意識高い系」なのだと思います。
ーー細谷さんは若者に向けたメッセージ本、古今東西の偉人たちの名言を集約した『自分らしく幸せに生きるための100の言葉』の著者でもいらっしゃいます。意識が高い人と意識高い系の違いがわかる偉人の名言はありますか?
細谷:「人生において重要なのは、生きることであって、生きた結果ではない。」
-ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
生きた結果ばかりを気にするから行動できない。意識高い系の人にはそのような特徴があると考えています。本当に意識が高い人は、結果を気にする以前に、まず自らしっかりと生きようとする。それが結果的に大きな違いとなって現れるのだと思います。
ーー意識高い系という言葉は若者中心に使われているように思いますが、世代によってバラつきはありますか?
細谷:正社員として長く勤めてきた経験も踏まえて言うと、どの年代にも同じような傾向を示す人はいます。割合もそれほど多くは変わらないのかもしれません。私たち40代半ばを中心とした世代は、そうした人を「評論家」と呼んで(心の中で)揶揄してきましたが、使う言葉にカタカナが増えると「意識高い系」に変容するのかもしれません。
その前提に立てば、「意識高い系」は圧倒的に、若者に多いと言えるでしょう。
ーー上司や同僚から残念だ、惜しいと思われてしまうのは、どのようなタイプでしょうか?何を改善すれば意識高い系から抜け出せますか?
細谷:上司や同僚から残念だ、惜しいと評価されてしまう理由は次の3点であると分析しています。
(1)両者に共通する要素
→言葉の質(低)・量(多)がアンバランス
(2)残念
→言葉の量(多)と行動の質・量(ともに低)がアンバランス
(3)惜しい
→言葉の量(多)と行動の質・量(ともにやや高い)がアンバランス
要はアンバランスを解消することが改善の方法となるわけですが、言葉の量を少なくするとリアルに使えない人になってしまうので、言葉の質を高め、行動の質を高める、つまりは地道に努力を重ねる以外に方法はないのだと思います。
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細谷さんの指摘するアンバランスの解消をシンプルに解釈すると、質の高い「有言実行」ができていれば、周りから「残念な人である」「惜しい人である」といった烙印を押されることなく、自分自身が成長していくなかで正当な評価を得られるようになるのでしょう。いずれにしろ、肝心なのは行動しているかどうか、その行動も良質な言葉に伴う形で良質な実行になっているかどうか、ということになります。
自身の行動力を見つめることで、「意識高い系」を脱し「意識が高い」人物としての途が拓けていくと言えるのかもしれません。
プロフィール
鈴木ともみ
経済キャスター・MC。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所 招聘研究員。
ファイナンシャル・プランナー、日本記者クラブ会員記者、多様性キャリア研究所副所長
和洋サウンドシアターユニット『未来香音』(津軽三味線・清水まなみ、ピアノ・斎藤タカヤ、パーカッション・宮本仁、語り部・平山八重、ストーリーテラー・鈴木ともみ)として、ラジオやライブで活動中。
ラジオドラマにおけるデビュー作が「日本民間放送連盟賞」エンターテインメント部門出品作品となる。
来日する各国大統領や首相、閣僚、ハリウッドスター等を含む取材・インタビューは3000人を超える。
キャスターとしてTV、ラジオ、各種シンポジウムへの出演の他、雑誌やニュースサイトにてコラムを連載中。
主な著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。