「一番悪いのは、人がなんとかしてくれると思って生きることじゃ。」<br>ー広瀬すずさんら出演『なつぞら』など名言集

「一番悪いのは、人がなんとかしてくれると思って生きることじゃ。」<br>ー広瀬すずさんら出演『なつぞら』など名言集

新年度を迎え、社会人となって新たに働き始めた皆さん、新たな部署でリスタートを切った方々など、各々が心機一転の心持ちで前進し始めたことと思います。特に今年は、4月1日に新元号が発表となり、新たな時代への流れを感じながら、より希望を膨らませているビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。一方で、希望と表裏一体で湧きおこるのが不安な気持ちです。希望と不安が入り混じる季節こそが「始まりの春」なのかもしれません。

そうした中、あるドラマのある台詞が視聴者の間で「全ての働く人々に響く名言だった」「身にしみた名言」などと称賛され、注目を集めています。

NHK朝の連続テレビ小説『なつぞら』、泰樹からなつにメッセージ

その台詞は4月1日にスタートしたNHK朝の連続テレビ小説『なつぞら』のなかで登場しました。NHK連続テレビ小説100作目となる『なつぞら』の舞台は北海道・十勝。戦災孤児となった主人公・奥原なつを少女時代は粟野咲莉さんが演じ、10代後半からは広瀬すずさんが演じています。主人公・なつが引き取られた柴田家は酪農で暮らす一家であり、その農場のオーナー・泰樹を演じているのは草刈正雄さんです。ドラマの第一週では、なつが泰樹に認めてもらうために牛馬の世話や乳搾りなどを必死に手伝う健気な姿が描かれました。そうした中、なつは泰樹に連れられ菓子屋を訪問し、泰樹からあるメッセージを伝えられます。

アイスクリームを食べているなつに泰樹は、

うまいか。?それはお前が搾った牛乳から生まれたものだ。よく味わえ。ちゃんと働けば、必ずいつか報われる日が来る。報われなければ、働き方が悪いか、働かせる者が悪いんだ。そんなとこはとっとと逃げ出しゃいいんだ。だが一番悪いのは、人がなんとかしてくれると思って生きることじゃ。人は、人を当てにする者を助けたりはせん。逆に自分の力を信じて働いていれば、きっと誰かが助けてくれるものじゃ

と、語りかけます。

放送後、この台詞についてネット上ではすぐさま「背中を押してくれた言葉だ」「涙が出た」といった声であふれていました。特に「一番悪いのは、人がなんとかしてくれると思って生きることじゃ。人は、人を当てにする者を助けたりはせん。逆に自分の力を信じて働いていれば、きっと誰かが助けてくれるものじゃ」という語りかけは、多くのビジネスパーソンが共感し、力をもらえた言葉だったようです。このような考え方や価値観を持った上司や先輩の下で働きたい、そんな思いを抱いた方もいたことでしょう。このメッセージは、主人公よりもはるかに年上のオーナー、つまり社会人で言えば管理職クラスの上司からの言葉です。地位のある人物からの語りかけは、とても大きな刺激になりますが、同時に、若手の頃は、少し年上の先輩の言葉も大きな力になります。

「どんなに失敗しても、なりたいものになれなくても、人生はそこで終わりじゃない。」

先輩世代の名言は、他のドラマにも数多く存在します。なかでも、2013年に放送された『空飛ぶ広報室』(TBS系)に登場する主人公・稲葉リカの台詞は新人世代にダイレクトに響く力があるのではないでしょうか。

稲葉リカは報道記者から左遷されたテレビディレクターであり、新垣結衣さんが演じています。そしてそのリカと惹かれあう元戦闘機パイロットの広報官が空井大祐であり、綾野剛さんが演じました。人生の壁にぶち当たった2人が互いに理解を深め惹かれ合い、成長していく姿を描いた有川浩さん原作の物語です。この物語の中盤で、主人公のリカがこれから社会に出る若者たちの前で急遽スピーチを依頼されるシーンがあり、そこでリカは、25歳のビジネスパーソンらしい真っすぐな等身大の思いを伝えています。

どんな仕事でも、自分がやりたかった仕事でも、そうじゃない仕事でも、真正面から向き合えば何か得ることが出来るんじゃないでしょうか。思い通りにいかないことはたくさんあります。どんなに一生懸命やっても上手くいかないこともあります。夢があっても叶わないこともあります。悲しいけどあるんです、それは。でも、どんなに失敗しても、なりたいものになれなくても、人生はそこで終わりじゃない。どこからでもまた始めることが出来る。恐れずに飛び込んでみて下さい。一つ一つの出会いを大切にして下さい

そしてこの台詞は、記者からディレクターに左遷されてしまったという挫折感と不本意な思いを抱いていたリカが、29歳の空井から言われた次の台詞に裏打ちされたものでもありました。

稲葉さん。記者って職を失ったんじゃなくて、ディレクターって職を新たに得たと考えるのはどうですか?僕もね、パイロットだったことを生かせるなら、そんな広報官になれるとしたら、なんかワクワクするなって。前のことばっか振り返っていても、僕の人生って30手前でもう余生になっちゃうし。そんなのつまらないです!

「何度も怪我をすることで痛みを知るためだ。それで他人の痛みを理解できるようになる。」

このように、一定の社会人経験を積んだ30歳前後の先輩から教えられることは、新人世代の胸に響きやすいように思います。例えば、2017年に放送された人気ドラマ「コード・ブルー ~ドクターヘリ緊急救命~THE THIRD SEASON』(フジテレビ)でも胸を打つ台詞が登場します。

『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命』の舞台は翔陽大学附属北部病院救命救急センター。主な登場人物は、フライトドクターのフェロー(後期臨床研修医)課程を卒業後、同病院の脳外科でスキルアップしてきた藍沢耕作(山下智久)、救命救急センターのスタッフリーダーとして勤務している白石恵(新垣結衣)、青南周産期医療センターの産婦人科から再び救命救急センターに戻ってきた緋山美帆子(戸田恵梨香)、臆病な性格を克服しフライトドクターとして活躍する藤川一男(浅利陽介)、エースのフライトナースとして責務を全うする冴島はるか(比嘉愛未)ら5人となります。3rdシーズンからは、これらのメンバーに新人のフェロー3人と看護師が加わりました。

物語では、登場人物たちが自分自身の人生をみつめ、家族や恋人と真摯に向き合おうとする様子が各々の喜怒哀楽のなかで描かれていきます。

その登場人物の中でも特に私が惹きつけられたのは、産婦人科を専門とするフライトドクター・緋山美帆子であり、この役を戸田恵梨香さんが演じていました。

緋山先生は部下であるフェローに対し、クールさを装いながらも温かいまなざしで見守る心優しい一面をのぞかせるドクターです。特にフェローである名取颯馬(有岡大貴)のミスにより、緋山先生の指に伝染病患者の血液に接触した注射針が刺さってしまったエピソードは、視聴者の胸を打つものがありました。まもなく患者が死亡したことから、エボラ出血熱など伝染病の疑いがあるとして、死を意識せざるを得なくなった緋山先生は、一人、不安を抱えながら隔離病棟で検査の結果を待つことになります。その結果は陰性となりますが、隔離病棟から開放された緋山先生に対し、命を脅かす原因をつくってしまったフェローの名取は申し訳なさそうにしていました。その名取に向けて緋山先生は次のように語り、諭すのです。

小児科医がこんなことを言ってた。子供はよく怪我をするけど、治りも早い。それは何度も怪我をすることで痛みを知るためだ。それで他人の痛みを理解できるようになる。だから、治る怪我ならたくさんした方がいいって。あんたは駆け出しの医者。そして(私の)これ(指の刺し傷)は治る怪我。だから気にしなくていい

それを聞いた名取フェローは、いつもの生意気な態度から一変し、「緋山先生が死ななくてよかった...」と嗚咽します。

「絶対昔より今が良いと思いますし今より未来の方が絶対に良いと思いますよ。」

一般的に就職してから20代後半までの時期は雑務も多く、一見、今後の自分のキャリアにとってどんな意味を持つのか、不毛に感じる場面もあることでしょう。日々、無駄に思える業務の連続は閉塞感を生みがちです。ですが、そうしたなかで、信頼できる先輩から実感のこもったアドバイスやメッセージをもらうことにより、新境地が開けることも多々あるものです。

身になる言葉をかけてくれる上司や先輩の存在は、20代の頃は特に大きな意味を持ちます。そうした上司や先輩の多くは、その人自身の信念や哲学がしっかりと築かれているはずです。

最後に私自身が理想とするある上司の言葉を記したいと思います。
その上司とはドラマ『続・最後から二番目の恋』の主人公・吉野千明。小泉今日子さんが演じました。40代後半の千明は、テレビ局の副部長を務める独身女性。自身の価値観を信じながらも、時折、揺らぎそうになるその信念と向き合いつつ、周囲との折り合いをつけながら進み続けます。

その千明が部下をまとめる役割を担うなかで発する言葉が、

これが私の仕事だよ。あんた達を守ることが今の私の仕事

です。

そして、この言葉と信念の大本には、次の人生哲学が存在します。

絶対昔より今が良いと思いますし今より未来の方が絶対に良いと思いますよ。そういう風に大人が少なくとも思ってないとこの国はダメになるわけでしょ?

これから社会で活躍する若い世代の皆さんが、ぜひとも真っすぐな信念と哲学をもった尊敬できる上司や先輩と出会い、良い刺激を受けながら自分の力で前進していけるよう願っております。

プロフィール

鈴木ともみ

経済キャスター・MC。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所 招聘研究員。
ファイナンシャル・プランナー、日本記者クラブ会員記者、多様性キャリア研究所副所長
音楽朗読劇ユニット『ELLE』(語り部・平山八重、ヴォーカル・池田ゆい、ピアノ・後藤里美、津軽三味線・清水まなみ)のストーリーテラーとしても活動中。
来日する各国大統領や首相、閣僚、ハリウッドスター等を含む取材・インタビューは3000人を超える。
キャスターとしてTV、ラジオ、各種シンポジウムへの出演の他、雑誌やニュースサイトにてコラムを連載中。
主な著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。

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