ドラマ『アンナチュラル』は、2018年を代表するドラマとして評価を得ることができましたが、その要因として米津玄師さんと石原さとみさんの"掛け合わせ"があったように思えます。では、二人の何の"掛け合わせ"が、ヒットを決定づけたのでしょうか。
米津玄師さんの『Lemon』、セルフプロデュースの形が多くのリスナーの胸に響く
12月7日、ビルボードジャパンが2018年『イヤーエンド・チャート全9部門の受賞楽曲・アーティスト』を発表しました。
2018年の総合ソング・チャート「Billboard JAPAN HOT100」では、米津玄師さんの『Lemon』が首位を獲得。本チャートはCDの売上枚数に加え、ダウンロード、ストリーミング、YouTube再生数など7つのデータを基に合算しており、『Lemon』はその中でダウンロード、ルックアップ(PCでのCD読み取り回数)、Twitter、動画再生の4つのデータで首位を獲得しています。
この『Lemon』は、2018年1月~3月期に放送されたドラマ『アンナチュラル』(TBS系)の主題歌として、米津さんが書き下ろした楽曲です。
「大切な人の死」をテーマとしたドラマの内容とクロスしている歌詞が多くのリスナーの心に響き、日本レコード協会より「史上最速100万DL達成作品」の認定も受けました。
もともとは「ハチ」という名義でボーカロイド楽曲をインターネット動画に投稿し続けていた米津さんが、本名名義で1stアルバム『diorama』を発表したのは2012年。その後、メジャーデビューを果たしてからの躍進は読者の皆さんもよく知るところでしょう。
宮沢賢治や三島由紀夫など、文学作品から影響を受けたと公言している歌詞の世界観に加え、「他人と同じことをしていてもしょうがない」という信念のもとに生み出されるメロディは比類なき音楽性に満ちており、その独創的な表現力についてはロック誌を中心に様々な音楽誌が称賛しています。
ある意味、米津さんのセルフプロデュースの形が、多くのリスナーの胸に響いている証拠と言えるのかもしれません。そして、その独創性あふれる『Lemon』のヒットと同様に、この曲を主題歌としたドラマ『アンナチュラル』も高評価を得ました。
ギャラクシー賞、放送文化基金賞、ザ・テレビジョンドラマアカデミー賞など数多くの賞を受賞し、2018年を代表するドラマとなりました。
石原さとみさんが『アンナチュラル』で見せた独創的な自己演出
『アンナチュラル』は、石原さとみさんが演じる法医解剖医・三澄ミコトが「不条理な死は許さない!」という信念のもと、運び込まれる死体の死因を究明していく物語。石原さんもこのドラマで数多くの主演女優賞を受賞しています。
石原さんと言えば、最近は自身を際立たせる『独創的なセルフプロデュース力』が話題になることが多くなりました。ドラマでは、プロのヘアメイクアーティストさんがヘアメイクを担当するのが通常ですが、石原さんの場合はセルフメイクが中心であるとのこと。
数々の美容サイトのインタビューの中で石原さんは、「自分の顔の特徴を捉えながら、どう見えるかを意識し、演じる役柄の女の子も自分でメイクをしているはずなので、キャラクターのライフスタイルや趣味趣向を思い描いてメイクをして役柄になりきる」と語っています。
『アンナチュラル』においても、主人公・ミコトが持つ柔らかさと意志の強さを表現するために、目と眉毛の間を狭め、毛流れを下に落とすように描き、色もグレイッシュな暗めのトーンを選んで引き締めたと明かしています。
また、リップの色も自然な感じにし、全話すべて一色のリップを使い続け、ナチュラルさを保ちながらも野暮ったくならないメイクを心がけたのだそうです。様々なドラマの中にいる石原さんのイメージが、登場人物のイメージそのもののように感じるのは、こうした彼女ならではの独創的な自己演出によるものなのかもしれません。
『アンナチュラル』のヒットは、米津さんの主題歌と石原さんのセルフプロデュースの掛け合わせ効果
こうして考えると、ドラマ『アンナチュラル』が今年、2018年を代表するドラマとして評価を得ることができたのは、米津玄師さんの独創性あふれる才能が開花した主題歌『Lemon』と、石原さとみさんが心がけた独創的なセルフプロデュースによる役作りとが上手に融合し、相乗効果を発揮したことが大きな要因であるように思います。
但し、独創的なプロデュースと言っても、一人よがりの自己満足に留まるレベルでは、多くの人たちの共感を得ることはできません。
実際、米津さんも『Billboard JAPAN HOT100 of the Year 2018 受賞記念インタビュー』の中で、普遍的な曲を作るために作詞作曲の面で大切にされていることは何かという問いに対し、「曲や詞を作る以前の、日常生活での話になりますが、人の話を聞くことと、対岸にあるものを侮らないことです」と答えており、外から入ってくる言葉や物事、現象を真摯に見つめ、しっかりと向き合う姿勢を大切にしているようです。
一方の石原さんもWebサイトのインタビューの中で、「私は20代になってから"人を知ろう"という気持ちで会話をするようにしました。その人のことを理解しようとする質問を通して気持ちが伝わると、最初は心にカギをかけていても、それを開けてくれて、また奥のドアも開けてくれる」と語っており、常にオープンマインドでいる姿勢について明かしています。
そんな『米津玄師×石原さとみ』による『独創性あふれる掛け合わせの効果』。
この相乗効果が、作品性の高いヒットドラマの誕生に繋がったと言えそうです。
果たして2019年はどのような掛け合わせの相乗効果現象が生み出されるのか...。
一視聴者として、そして表現の場に身を置く立場として学びを得つつ、来る年に期待を寄せているところです。
プロフィール
鈴木ともみ
経済キャスター・MC、ファイナンシャル・プランナー、日本記者クラブ会員記者
多様性キャリア研究所副所長。
語り部・平山八重、ヴォーカリスト・池田ゆいと共に組んだ音楽朗読劇ユニット『ELLE』(ピアノ・後藤里美)としても活動中。
来日する各国大統領や首相、閣僚、ハリウッドスター等を含む取材・インタビューは3000人を超える。
キャスターとしてTV、ラジオ、各種シンポジウムへの出演の他、雑誌やニュースサイトにてコラムを連載中。
主な著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。