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DAY 2018.11.21 トレンド

カルロス・ゴーン容疑者逮捕で
日産と検察との間にあったらしい『司法取引』って何?

日本中に衝撃が走った日産自動車会長のカルロス・ゴーン容疑者の逮捕劇ですが、日本経済新聞などでは、東京地検特捜部と日産関係者との間で、捜査に協力する見返りに刑事処分を免除したり軽くしたりする司法取引があったと報じられています。では、「司法取引」とは、どんなものなのでしょうか。アディーレ法律事務所の山下汐里(やました しおり)弁護士に聞きました。

――そもそも日本版「司法取引」とはどのような制度なのでしょうか

"日本版"司法取引制度は、特定の犯罪について容疑をかけられた被疑者、被告人が検察官の取調べで他人の刑事事件について真実を話すなどすることによって、自己の刑事事件について不起訴処分など一定の有利な処分をしてもらうことを検察官と合意する制度です(刑事訴訟法350条の2第1項)。

司法取引という呼び方は通称で、正しくは、『協議・合意制度』といいます。法律上、どのような犯罪が合意制度の対象となるのか、合意制度において被疑者・被告人が何をすることが求められるのか、検察官がどのような処分をすることができるのか(被疑者、被告人にどのような恩恵を付与することができるのか)について細かく定められています。

このため、すべての犯罪について合意制度が適用されるわけではなく、たとえば、「AさんがBさんを殺すのを目撃したので捜査に協力します。だから、私がC店でした万引きを見逃してください」と被疑者が言っても、殺人罪は合意制度の対象とはされず、Aさんの殺人行為を証明するに足る供述をしたとしても、その被疑者に合意制度による恩恵が付与されることはありません。

また、法律上明記された犯罪に該当する場合でも、被疑者、被告人と協議をするなかで(協議には弁護人が常時関与します。)、検察官が提供される証拠の重要性や犯罪の重大性などを考慮して合意するかどうかを決めることができるので、法律上明記されている犯罪だからといって、検察官と被疑者、被告人との間で合意が成立するとは限りません。協議を経て、最終的に合意が成立した場合には、検察官、被疑者・被告人および弁護人が連署した合意書面が作成されることになります(刑事訴訟法350条の3第2項)。

――"日本版"司法取引と"アメリカ版"司法取引はどこが違うのでしょうか

海外ドラマで捜査官と薬の密売人が「爆弾がどこにあるか言え!」「今回の事件を罪に問わないと約束してくれれば、俺が隠した爆弾がどこにあるか教えてやるよ!」と言い合っているのを観たことがありませんか。アメリカでは自らの罪を告白することで自らの刑事処分を軽くする自己負罪型の取引が認められているので、このような会話がありえます。

これに対して、日本では自己負罪型の取引は認められておらず、自分の隠した爆弾のありかを話したとしても自らの刑事処分が軽くなることはありません。日本で導入されているのは、上記のとおり、他人の刑事事件に関して証拠を提供するなどする代わりに自らの刑事処分を軽くするいわゆる捜査公判協力型の司法取引で、自己負罪型の司法取引の導入は見送られました。つまり、多くの人が司法取引と聞いてイメージするであろうものは、"日本版"司法取引の内容とは異なります。

また、アメリカでは司法取引が適用される犯罪類型は限定されていませんが、日本では大きく分けて5つの類型の罪に限定されており、また、殺人罪のみならず現住建造物放火罪のように死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たるものには"日本版"司法取引が適用されません。

――トカゲのしっぽ切りではなく真の実行犯の適正な処罰を求めて

"日本版"司法取引制度に関して「冤罪が増えるのではないか」「他人を犠牲にして自らが犯した罪の処分を免れるのは不当ではないか」といった批判がなされることがあります。

こうした危険性については、検察官と合意した被疑者、被告人が虚偽の供述をした、あるいは偽造した証拠を提出した場合には、虚偽供述等処罰罪として5年以下の懲役に処せられますし(刑事訴訟法第350条の15第1項)、裁判所も合意した被疑者、被告人の供述の信用性を慎重に吟味するでしょうから、過度に強調されるべきではありません。

しかしながら、そうした危険性が完全に解消されるとまでいえないことも事実でありますから、絶えず制度の運用を見直していくことが求められます。場合によっては、制度の運用の見直しだけでは対処できず、法改正まで必要とされることになるかもしれません。

法曹関係者のみならず、国民全員が関心をもって制度の運用を見ていくことで、問題点がクロースアップされ、より危険性のない制度の構築が可能となるのではないかと思います。トカゲのしっぽ切りのように法人を守るために個人を斬り捨てるのではなく、これまでの捜査手法ではたどり着けなかった"真の実行犯"を適正に処罰できる制度となるように、今後の司法取引制度の運用状況を国民の1人として見守りたいところです。

プロフィール

アディーレ法律事務所
山下 汐里(やました しおり)

弁護士(東京弁護士会所属)。立命館大学法学部卒。
趣味が高じ、オリジナルシナリオを執筆する程の演劇好き。そうした創作活動に親しんだことから、難しい法律問題を、分かりやすくかみ砕いて説明する事が得意。
本来、身近な存在であるはずの法律が「理解するのが難しい」という理由で倦厭されがちな社会を変えたいという思いで、弁護士として日々奮闘している。