相手に失礼のない立ち振る舞いや、上司への「報連相」は社会人の基本中の基本。そこを疎かにしたままでは、常識を疑われ、「この人は仕事ができない人なのかも」と悪い印象を与えてしまいます。社会人教育の専門家として「新入社員研修」「管理職研修」など年間200以上の研修で講師を務める田畑美絵さんに、「この人なら大丈夫」と信頼されるためのスキルを伺いました。連載第1回は「メール」編です。
1.相手の立場になってメールする
メールは相手の立場に立ち、意図をはっきり書くことが大事です。私の経験をひとつの例として考えてみましょう。
ある研修の講師を頼まれ、主催者側から事前に用意すべきものをメールで聞かれました。そこで私は「テーブル1つにペットボトルをひとつ」と頼んだのですが、それに対して先方から不思議なメールが返ってきたのです。「ペットボトルでよろしかったでしょうか」と。
いったいどういう意味かと送信済みのメールの文面を見て、自分が「ペットボトル」とすべきところを「ポットボトル」と打ち間違えていたことに気づきました。もちろん打ち間違えた私が悪いのですが、「ペットボトルでよろしかったでしょうか」では相手(今回の場合は私)が混乱するだけ。「『ポットボトル』とありますが、これは『ペットボトル』との認識でよろしいでしょうか」などと書くべきでしょう。「ペットボトル」と書いたつもりでいる相手に「ペットボトルでよろしかったでしょうか」では意図が伝わりません。思いやりにかけたメールと思われてしまいます。
また、「よろしかったでしょうか」という表現も気になります。本来は過去形ではなく「よろしいでしょうか」とすべきところ。ファミレスやコンビニなどで使われている文法的に誤った日本語を「ファミコン用語」と呼ぶことがありますが、「よろしかったでしょうか」はその典型的な例です。ほかには「~のほう」「(金額)になります」なども使わないようにしましょう。
最近は何でも婉曲的にいえば丁寧になると考える人が多いようですが、日本語としては間違っており、話し言葉ならまだしも、メールでは何度もその"失敗"を読み返されることになってしまいます。
2.メールは簡潔に、さりげなく気遣いを
ビジネスメールはいわば「電子化された手紙」ですが、投函する手紙との大きな違いはその即時性です。そのため、ビジネス文書やビジネスレターのように丁寧にきっちり書く必要はありません。また、そもそもメールが使われ始めたころは、今とは違い通信料が高く、1文字いくらで料金が計算(携帯電話の場合はバケット料金、パソコン等の場合はデータ量に応じた通信料)されたものです。受信側にも料金がかかったことから「メールは短めに」はマナーとして定着しています。簡潔さを第一に考えましょう。
とはいえ、要件のみではあまりに素っ気なく、特に社外の人との関係が深まりません。相手を気遣う文をさらっと入れてみてはどうでしょうか。「お世話になっております」の後に「先日はお時間をいただきましてありがとうございました」とお礼の言葉を入れる、リスケがあった場合には「その後おかげんいかがですか」と相手を気遣う。メールの最後を「暑い日が続いておりますが、どうぞご自愛ください」といった言葉で締めるのも印象アップに効果的です。
3.最初の2、3回は肩書を入れる
メールの最初には宛名として、相手の肩書や名前を書きますが、何度もやりとりをする相手なら、途中で名前のみに変えても問題ありません。肩書が必要なのは、目安として最初の2、3回のメールです。ただ、その後1年ほど連絡を取ってなかったというような場合には、改めて肩書を書いたほうが無難です。
なお、宛名を「様」とするか「さま」とするかで迷う人もいるようですが、あまり気にする必要はありません。メールの文面に関しては、漢字とひらがなを適度にミックスした方が読みやすいといわれています。たとえば「宜しく御願い致します」よりも「よろしくお願い致します」の方が読みやすく感じませんか。その考え方でいくなら、名前が漢字なら「さま」とひらがなにし、「のりこ」などひらがなの場合は「様」とするのもいいでしょう。
「さま」より「様」のほうが正式な感じがし、「さま」には親しみを感じるという意見もありますが、相手が「様」と書いてきたらこちらも「様」に、「さま」だったらこちらも「さま」にと、相手に合わせる気遣いが大切です。
4.ひとつのメールで話を完結させる
最近はスマホメールやLINEを使う機会が増えているため、ビジネスメールも同じ感覚で送ってしまう人が多いようです。前述の通り、ビジネスメールはだらだら長い文章を書いてはいけません。基本パソコンで見るものですから、適宜改行するなどして読みやすいように工夫しましょう。やむをえず電車の中からスマホでメールを打つときにも、パソコン画面で見やすいようにして送るようにしてください。
また、LINEのように細かくやり取りすることに慣れていることから、ひとつのメールで要件をすませることを意識しない人が増えています。「お時間いただけますか」だけでピコっと送信してしまうから、相手は「いいですよ」と返してくる。そのあとも「9月30日はどうですか」「その日はちょっと......」「では10月1日は?」と何度もやりとりすると、もはやメールではなくチャット状態に陥ってしまい、相手の時間を奪うことにもなってしまいます。
ビジネスの相手は友達ではありませんから、LINEとメールはしっかり使いわけましょう。打ち合わせの連絡であれば、「~について打ち合わせを行いたいのがいかがでしょうか」とした後に、日時をいくつか並べ「ご都合のよい時間はございますか」と尋ねれば、ひとつのメールに要件は収まります。
プロフィール
田畑 美絵(Tabata Mie)
短大卒業後、保険会社に入社し、1年目より数々のタイトルを受賞。保険会社退職後、大手通信会社に入社し、人事・教育部門にて、新入社員(新卒・中途・アルバイト)研修や階層別研修のカリキュラム作成、トレーナー実務、トレーナー育成に携わり、1万人以上の受講者を数える。その後、水道管理コンサルティング会社にて執行役員として勤務した後、2006年11月より企業研修・社員教育・人財育成トータルサポートをおこなうNewtyを創業。その後まもなく、社員教育をおこなう株式会社ディプレの執行役員として就任。2015年に株式会社Newtyを設立。同社代表取締役。株式会社ディプレ取締役。
現在、「新入社員研修」「管理職研修」「営業研修」「就業支援研修」「独立・起業支援研修」を中心に年間約200講座を担当している。