働き方改革法案が可決、<br>結局私たちの働き方はどうなるの?

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ついに可決された働き方改革基本法案。データの不備が指摘され安倍首相が謝罪に追い込まれるなど、成立前から様々な意見が飛び交ったのは記憶に新しいでしょう。未だに賛否の声は入り乱れていますが、成立した法案のポイントを解説していきます。
参考:働き方改革実現 会 議 決 定:働き方改革実行計画(概要)
http://www.kantei.go.jp/jp/headline/pdf/20170328/05.pdf

残業時間上限越えに罰則規定

残業時間に上限を設け、長時間労働を是正する、というのが今回の働き方改革法案の中でいわゆる"目玉"とされています。それでは実際に、どのような規制になったのでしょうか。

これまでは、使用者(会社)と労働者間で、残業を可能とする協定(いわゆる36協定)を結べば、原則として月45時間、年360時間以内にて労働時間を延長することができますが(平成10年12月28日厚生労働省告示第154号36協定の延長限度時間に関する基準)、罰則などによる強制力はなく、上記基準を超過する時間の残業を余儀なくされる労働者が多く、実質的には青天井状態であるともいえました。しかし、これでは過労死などの深刻な労働事故を招くおそれがあり、また女性の社会進出や男性の子育て参加を推進するため、今回、法律にて上限を規定し、上限超過に対する罰則を設けることになったのです。

上限は、上記基準と同様に、原則月45時間、年360時間までです。

ただ、繁忙期などは臨時に月45時間を超えることも認められています。その場合でも、月45時間を超えてもいいのは年に6か月までで、年間上限は720時間までと設定されています。

なお、これは休日出勤を含めない場合であり、休日出勤を含めた場合は、最大でも月100時間以上時間外労働(残業)させることはできず、2~6か月の平均も月80時間未満としなければなりません。上限を超えて従業員を働かせた企業には、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられます。

しかし、残業時間の上限を設けたといっても、繁盛期の1ヶ月だけを取り出すと上限制限がなく、そもそもその上限自体がいわゆる"過労死ライン"と大差がないため、この部分に関して批判の声も大きく、今後さらなる改善が必要になってくるでしょう。

ただ、これまでは残業代さえ払えば年中働かせ放題、しかも実際にはその残業代も払われていない、などの問題もありました。そういった状況から考えると、一定の効果は期待できると思います。特に、今回罰則が規定されたことで経営者の意識も、しばらくの内は改善されるでしょう。

しかし、どうしても時間が経つと意識が薄れていきますし、抜け道が発見されるおそれもありますから、何かが起こってから、ではなく先手先手で更なる改善が必要だと思います。

高プロ導入

高プロとは、結局誰の事なのでしょうか。

高プロとは、高度プロフェッショルの略称で、高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と、従事して得た成果との関連性が、通常高くないと認められる業務に従事している労働者を指します。

具体的な職種は、今後省令で定められて行く事になりますが、金融商品の開発や、研究開発業務などが想定されています。もしかすると、我々弁護士も対象となるかもしれません。

この中でさらに、一定の高年収の方が高プロ制度の対象になり得ます。今のところは年収1075万円と言われていますが、実は法律には明記されていないんです。言ってしまえば、今後引き下げられたり、範囲が拡大する可能性も十分にあり、注意が必要です。

この制度は、使用者側で一方的に導入できるものではありません。本人の同意と、労使による委員会での決議が必要です。また、使用者には、一定の健康確保策も義務付けられます。安易に同意せず、しっかりと吟味することが重要になります。

しかしながら、従業員の立場で考えた場合に、導入に強く反対できるかというとなかなか難しいのではないでしょうか。どうしても、企業と従業員では力関係に圧倒的な差があります。ですので、導入に関して、企業側にはより慎重な姿勢で臨んでいただきたいですね。

この高プロ制度に関しては賛否両論が入り乱れ、反対派は"働かせ放題プラン"と揶揄することもあります。

一定の制限は設けられていますが、高プロは上述した残業時間規制などの、労働時間規制の対象から完全に外されることになります。また、一定の制限として4週間で最低4日は休ませなければならない、となっていますが、この4日をどのように休ませるかは決まっておらず、最初に4日連続で休ませれば、その後は休みなく働かせることも可能性になってしまうのです。"働かせ放題"と揶揄されているのはそういった事情からでしょう。

高プロの対象者は、労働環境を自分自身でコントロールしていくことが求められますが、高度な専門知識を有するからこそ、周囲の期待に応えるために無理をするおそれもあります。全てを労働者の責任で終わらせるのではなく、公的機関でしっかりとサポートしていく体制を作るべきではないでしょうか。

同一労働同一賃金

正社員と同一の仕事をしているけども、雇用形態が契約社員など非正規であるため、さまざまな不合理な待遇差に悩まされてきた方も多いでしょう。

今回の法改正で一定の待遇差は違法とされ、使用者用には待遇差の内容やその理由を労働者に説明する義務が課されることになります。

具体的にどういった差が違法になるのか、といった線引きは、今後ガイドラインで詳細が決まりますが、通勤手当などの手当や、食堂や更衣室の利用などの福利厚生において待遇差を設けることは認められない予定です。もっとも、基本給やボーナスに関しては、経験や能力の差などに応じて違いを設けるは認められるでしょう。

以上の3つが、ニュース等でも大きく報道されていますが、働き方改法案は、それ以外にも多くの内容が含まれています。

他にもある、働き方改革!

・有給休暇を取らせる義務を企業に

これまで、使用者の中には、有給休暇を取らせないように不当な圧力をかけることも多かったように思います。今回の法改正で、年10日以上の有給休暇が与えられる労働者には、最低でも5日は消化させることが、来年4月から義務付けられることになりました。労働者が5日未満しか消化していない場合には、使用者側で日程を指定して消化させなければならず、違反した場合は罰則もあります。

・テレワークや副業など柔軟な働き方の促進

IT技術の急速な発展により、場所や時間を選ばずに仕事をできるようになってきました。これを子育てや介護との両立に活用し、ガイドラインも設けて積極的な導入を促すことになりました。

また副業・兼業もガイドラインを設けて認めていくことで、多様な働き方を促進することになりました。

・女性や若者が活躍しやすい社会の環境整備

就労を希望しつつも、これまで子育てなど家庭との両立が難しかった女性を支援していく環境を整えることとなりました。具体的には、子どもを保育園に預けながら受けられる教育訓練の拡大などが考えられています。

また、若者の就労を支援するため、高校中退者等の高卒資格取得の支援や、採用機会の促進をすることとなりました。

・病気の治療と仕事の両立

病気を抱えつつも働かれている方が、より生きがいをもって働ける社会を目指すため、専門家がさまざまな支援を検討していくことになりました。

・外国人材の受け入れ

従前から、労働移民受入れなどの議論が行われてきました。すぐに大量の外国人労働者を受け入れるというわけではなく、日本人の雇用への影響や治安などを考慮しつつ受入れを検討していくことになります。

また、高度な知識、技術力をもった外国人の人材に対しては、短期間の滞在でも永住許可を出す日本版グリーンカードの創設も検討されています。

・言葉だけが独り歩きしないよう

ニュースや新聞で「働き方改革」と連日のように耳にしていても、興味を持って調べなければ詳しいところまで分からない、という現実があります。特に、若い世代の声はあまり聞かれないように感じています。

現在、日本は空前の売り手市場とも言われており、以前よりも職を得ることが容易に なってきています。だからこそ、若い世代の方たちには、どのような条件で、どのような働き方をしたいのか、自分自身でしっかりと考え実行する力を身に着けてほしいと思います。

ライタープロフィール

時光祥大(ときみつしょうた)

弁護士(東京弁護士会所属)。立命館大学法学部卒業。立命館大学法科大学院修了。中学時代から、柔道・少林寺拳法・テコンドーなどの格闘技に親しみ、黒帯を取得するほどの腕前。
本人の性格は至って穏やかで、剛柔を併せ持つ弁護士。債務整理などの借金問題の解決を得意とする。

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