初対面で「この人仕事ができそう」と思われる人がいる一方で、ほんの短い時間で「この人と仕事しても大丈夫かな」と不安がられる人もいます。「仕事ができない人」とレッテルを張られないためにはどうしたらいいのでしょう。社会人教育の専門家として「新入社員研修」「管理職研修」など年間200以上の研修で講師を務める田畑美絵さんにビジネスシーンの立ち振る舞いについて伺う連載の第2回。相手から信頼を得られる応対のコツを教えていただきました。
1.相手の名前を呼ぶ
応対のコツで、一番簡単かつ効果的なのが話している相手の名前を呼ぶことです。面接でもそうですし、新しい会社や配属先での初日でもぜひ心がけてください。誰にとっても自分の名前には特別な響きがあります。自分の名前を呼んでもらうことで呼ばれた方は「自分はここにいていいんだ」という自信を持つことができ、自分の名前を呼んでくれる相手に好印象を持つからです。
新しい職場や配属先では、先輩や上司に仕事のやり方などを聞かなければならない場面が多くあります。そのときにも「あの、すみません」ではなく「〇〇部長」「〇〇さん」と名前で呼びかけたうえで、「ちょっと質問があるのですが、今よろしいですか」と聞くようにしましょう。
面接の場でもこれは有効です。面接のはじめに「本日面接を担当する××会社の人事部の〇〇です」とあいさつがあるはずですから、そのときにしっかり覚えておきましょう。面接官から「何か質問はありませんか」と聞かれたときに「〇〇さま、きょうは面接のお時間をいただいてありがとうございました」というだけで印象は大幅アップするはずです。
2.あいさつは効率ではなく効果
あいさつで考えると、仕事ができないと思われる人というのは、「誰もあいさつしていないから」「今ここであいさつするのは変かも」といった理由で、あいさつをするかしないかと悩んだときに「しない」を選択する人です。仕事ができる人は、するかしないかと悩んだときに「する」を選択します。周りがしていなくても、自分で考えて判断ができるということです。
あいさつされて気持ちが悪い人は基本的にはいませんし、あいさつできる人をみて、「なんだこいつ」と思う人はいません。できない人に見られないようにするにはあいさつを「する」を選択するようにしましょう。そこで「しない」を選択し続ければ、できないと思われる方にまっしぐらです。
たとえば社内の廊下で誰かとすれ違って、あいさつしたけど、またその人と会ってしまったというシチュエーションを経験したことが1度はあるのではないでしょうか。1回目は「お疲れ様です」とふつうに言うと思いますが、2回目も、アイコンタクトを取りちょっと苦笑いしながらでもまた「お疲れ様です」と言っておきましょう。「さっきしたから」と素通りしてはいけません。「めんどくさい」と思う人もいるかもしれませんが、あいさつは効率ではなく効果です。「何度もするから効率が悪い」という考え方は当てはまりませんし、相手に与える印象も悪くなってしまいます。
3.わからないことを聞かれても固まらない
たとえば量販店に入ったときに、いかにも新入社員といった感じの店員が立っていることがありますが、彼らに「~はどこにありますか」「これ持ってきたけどどうしたらいいですか」と尋ねると、フリーズされることがあります。わからないことに対して固まって止まってしまうのです。おそらく「間違ったことを言ってはいけない」「正答がわからないからどうしたらいいのかわからない」との思いからそうなるのでしょうが、その瞬間にお客さんは「この人に聞いたらダメだな」「この人が担当だったら嫌だな」「この人は時間がかかる」といった印象を持ってしまいます。
自分がわからないことを聞かれたときでも、一旦「かしこまりました」「承知しました」と受け、そのあとに続けて相手の言ったことを復唱しましょう。たとえば量販店で「スマートフォンの新機種○○見に来たんですけど」といわれたら「かしこまりました、スマートフォンの新機種○○でございますね」と言えばいいのです。相手の言ったキーワードを拾って返しているその間に、どう対応するかを考えることもできます。相手が言った言葉をそのまま返すというのはコミュニケーションスキルの基本です。それによって、相手は自分の話をちゃんと聞いてもらっているなと感じることができ、相手に信頼感を持ちます。
なお、復唱するときには、相手が使った言葉を使うようにしましょう。たとえばファミレスでハンバーグランチを頼むお客さんがいたとします。「ライスとパン、どちらにしますか」と聞いて「ごはんにします」と言われたら、復唱するときも「ごはんでよろしいですか」と言う。そこで「ライスでよろしいですか」と"こっち"の言葉に言い換えることは、相手にとって気分がいいものではないからです。
4.パニックになりそうなら「グー、パー」で落ち着く
困ったときに、うまく対処できず、パニックになるという人もいるでしょう。心理学的には、パニックには、静のパニックと動のパニックの2つのタイプがあります。静のパニック型の人は先ほどの例のように固まって動けなくなり、動のパニック型の人はとりあえず手を動かしたり、ことばを余計に発したりします。暴力、暴言、暴飲暴食、暴走など「暴」のつくパニックと言い換えることもできるでしょう。
仕事ができるように見せたいなら、どちらのパニックもできるだけ抑える必要があります。
動のパニックの方もお客さんの前では一旦「~ですね」と受け止めるなどの対処をし、それから深呼吸をすると効果があります。そして、これは静と動、両方のパニックに効果があるのですが、「グー、パー」と口で言いながら、それに合わせて両手でグーと握ったり、パーと開いたりすると、自分で自分がコントロールできているなと実感することができます。
深呼吸も同じで、人は「心臓を止めて」と思ってもコントロールできませんが、呼吸器官は唯一自分でコントロールできるところです。少しだけなら息を止められますし、深く息を吸ってといえばそれもできます。人間の頭はそうやって自分の身体をコントロールすることで、自分の感情の感情もコントロールできるのではないかと脳が勘違いしてくれるのです。深呼吸すると気持ちが落ち着くといわれるのは、そういうことなのです。面接や大事な商談の前にもぜひ試してみてください。
5.場を読み、気遣いを心がける
謙虚な気持ちは大事ですが、その気持ちを出しすぎたり、相手に押し付けてしまったりしては意味がありません。たとえば自分が案内されている立場なのに、いつまでもエレベーターに先に乗ろうとしなければ、何も先に進みません。そこで「お先に失礼いたします」と気づいて動く立ち振る舞いができるかどうかが大事です。自分が先に行くべきなのか、後についていくべきなのか、その場に合った適切な判断ができるようになりましょう。
また、気遣いでいえば「最近の若い社員は言われたことはするけど、言われたことしかしない」という声もよく耳にします。たとえば、会議室のレイアウトを頼まれ、「ホワイトボードをあっちに持っていって」と言われたら、移動するだけで終わってはいけません。そこで人が通りやすいように少しずらすとか、使いやすいように向きを変えることまで考える...そのように想像力を発揮しないと、「言われたことしかできない」という評価で終わってしまいます。
ライタープロフィール
田畑 美絵(Tabata Mie)
短大卒業後、保険会社に入社し、1年目より数々のタイトルを受賞。保険会社退職後、大手通信会社に入社し、人事・教育部門にて、新入社員(新卒・中途・アルバイト)研修や階層別研修のカリキュラム作成、トレーナー実務、トレーナー育成に携わり、1万人以上の受講者を数える。その後、水道管理コンサルティング会社にて執行役員として勤務した後、2006年11月より企業研修・社員教育・人財育成トータルサポートをおこなうNewtyを創業。その後まもなく、社員教育をおこなう株式会社ディプレの執行役員として就任。2015年に株式会社Newtyを設立。同社代表取締役。株式会社ディプレ取締役。
現在、「新入社員研修」「管理職研修」「営業研修」「就業支援研修」「独立・起業支援研修」を中心に年間約200講座を担当している。