初対面で「この人仕事ができそう」と思われる人がいる一方で、ほんの短い時間で「この人と仕事しても大丈夫かな」と不安がられる人もいます。「仕事ができない人」とレッテルを張られないためにはどうしたらいいのでしょう。社会人教育の専門家として「新入社員研修」「管理職研修」など年間200以上の研修で講師を務める田畑美絵さんにビジネスシーンの立ち振る舞いについて伺う連載の第1回。まずは第一印象UPの秘訣を伺いました。
1.相手に合わせた身だしなみを
最近の若い男性の中には髪が長かったり、こだわりのあるヘアスタイルをしていたりする人が多いですが、ビジネスシーンで心がけたいのはスーツにフィット感のある髪形であり、女性ならスーツにフィット感のあるメイクです。学生服にハイヒールが合わないのと同じように、かっちりしたスーツに茶髪やジャニーズ風の髪形は合いません。「どうかなあ」と思ったら、スーツに合っているかどうかで考えましょう。おしゃれは飾ること、身だしなみは相手に合わせること。休日なら好きにしていいですが、仕事ではその場にふさわしい自分を演出することがマナーです。
転職活動などで初めての会社を訪問するときには緊張するものです。早めの到着を心がけ、トイレで身だしなみをチェックするといいでしょう。夏場なら汗をひかせることもできます。忘れずにチェックしておきたいのは男性ならネクタイの結び目の緩み、女性ならメイク崩れ。夏場は上着を脱ぐこともありますから、上着を脱いだときにズボンからシャツが出ていることがないように気をつけましょう。
仕事ができる人は事前準備ができる人なので、余裕を持って訪問先に到着しておくものですし、トイレの鏡で自分の姿を見ることで、緊張を自己認知でき、自分を俯瞰することで気持ちが落ち着くこともあります。余裕があるなら、緊張がほぐれるよう体をリラックスさせる動きもしておくといいでしょう。
2.第一印象の鍵は表情筋
第一印象UPのために特に大事なのが明るい表情です。コツは口角を上げる意識をすることです。「口角なんてそう簡単に上がらない」という声も聞こえてきそうですが、表情筋も筋肉。お腹にシックスパックをつくのと同じように、筋トレすることで鍛えることができます。逆にいえば、口角が上がらない(表情筋が動きにくい)人は、日ごろからあまり表情筋を使わずに話していることが多いのではないでしょうか。
表情筋の筋トレを2つ紹介しておきましょう。1つは、目を上、下、上、下と動かすトレーニング。目の周りの筋肉が鍛えられます。口周りの表情筋を鍛えるには、口を大きく開けてゆっくり「あー、いー、うー」と言って、最後に「べー」と舌を思い切り下に出します。これは、「健康」とう側面でも効果が認められているもので、一石二鳥です。車の中など、ちょっとした時間にやってみましょう。
ただ、何より筋トレ効果が高いのは、ふだんからはっきり口を動かし、はっきり話そうとすることです。自然に口が動き、それ自体が表情筋のトレーニングになります。口角だけでなく頬骨を上げるようにすると、笑ったような表情がつくりやすくなります。雑誌のモデルさんを見ているとデビューから3年くらいで一番変化が見られるのは表情筋です。最初は口角が下がっていたのに、2年目、3年目と口元が明るくなり、より美しくなっていく。これは生まれつきのものではなく、訓練のたまものではないでしょうか。
3.視線を合わせないと自信がない印象に
「目は口ほどにものを言う」と言いますが、相手と視線を合わせて話すことができない人や目が泳いでしまう人には仕事ができないイメージが付きまといます。話をするときは相手と視線を合わせることを心がけましょう。第一印象でいえば「はじめまして」「お待たせしました」という最初のコンタクトの際にしっかり視線を合わせることです。商談などの最後の「ありがとうございました」のシーンもそうですが、日本人はついお辞儀することばかりに意識がいくので、視線がおろそかになりがちです。一旦顔を見て「はじめまして」などあいさつの言葉をしっかり伝えてから、頭を下げるようにしましょう。
また、何度もぺこぺこ何度も頭を下げるのも印象の良いものではありません。相手に敬意は伝わりますが、仕事ができそうには見えません。お辞儀はするときはきちんとするけれども、それ以外のときはきちんとした姿勢でいることが大事です。
4.立ち居振る舞いはスマホ撮影でチェック
自分の立ち居振る舞いが相手からどう見えているかをチェックするためには、スマホなどでビデオ撮影するといいでしょう。目をぱちぱちする、相手に正対せず、斜に構えて話してしまうなど、思わぬ自分の癖も見つかるものです。左右で肩の高さが違うなど体の歪みがある人は、直るものであるなら骨盤矯正などをした方がいいでしょう。
体のバランスが悪かったり、猫背だったりすると仕事ができるようには見えません。現代人はスマホやパソコン仕事で肩がどうしても前に入り、姿勢が悪くなりやすい環境にあります。肩甲骨を縮めたり、広げたりする動きを積極的に行いましょう。
そのほか、立ち居振る舞いで気をつけたいのは、歩き方です。足を引きずって歩いたり、歩幅が広すぎたり、狭すぎたり、あとは極端なガニ股や内股も周りから見ると気になります。
5.TPOに合わせて声を調節する
声も表情と同じで明るい方がいいです。キンキン声になりすぎない程度の明るい声を心がけ、特に初対面ではワントーン高めに話しましょう。話すスピードは相手が話すスピードに合わせるのが基本ですが、注意したいのは固有名詞です。個人名や会社名はゆっくりと相手に確実に伝わるように話してください。「~駅で待ち合わせしましょう」などの際の「~駅」も重要な情報です。いい加減に伝えたことで仕事に支障をきたすこともあり得るのです。
音量もTPOに合わせて調整するのが基本ですが、小さいよりは大きい方がいいでしょう。ただし、周りの状況も見極め、静かな場所では声を少し落とし、声が通りにくいところでは大きめに、など状況に合わせてボリュームを調整しましょう。その場にそぐわない声を出していると、仕事ができないと思われてしまいます。
6.正しい敬語を身につける
敬語が苦手な人は多いですし、日本語の敬語は複雑ですから、きちんと学ぶ必要があります。世の中には間違った敬語が氾濫していますし、アナウンサーでも正しい敬語が話せているとは限りません。自分で本を買ってみるとか、国語の教科書を読み返すとかして、正しい言葉遣いに積極的にアプローチしてください。
「お話になられる」などの二重敬語もよく耳にします。間違った敬語を使うくらいなら、「~です」「~ます」といった丁寧体だけで話すほうが、よほど耳ざわりがいいように感じます。また、最近よく言われるのが「ご担当させていただいておりました」「実施させていただきます」といった表現の誤用や多用です。メールであれば一通に1回だけで、それ以上は使わないようにしましょう。「させていただく」「させていただきます」は、本来、相手から「許可」や「恩恵」を受ける場合に使う表現であって、それ以外では「いたします」、あるいは他の言葉を使うべきです。
ライタープロフィール
田畑 美絵(Tabata Mie)
短大卒業後、保険会社に入社し、1年目より数々のタイトルを受賞。保険会社退職後、大手通信会社に入社し、人事・教育部門にて、新入社員(新卒・中途・アルバイト)研修や階層別研修のカリキュラム作成、トレーナー実務、トレーナー育成に携わり、1万人以上の受講者を数える。その後、水道管理コンサルティング会社にて執行役員として勤務した後、2006年11月より企業研修・社員教育・人財育成トータルサポートをおこなうNewtyを創業。その後まもなく、社員教育をおこなう株式会社ディプレの執行役員として就任。2015年に株式会社Newtyを設立。同社代表取締役。株式会社ディプレ取締役。
現在、「新入社員研修」「管理職研修」「営業研修」「就業支援研修」「独立・起業支援研修」を中心に年間約200講座を担当している。