【顔認証とは】マスク付きでも顔認証ができる仕組みはどんなもの?
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【顔認証とは】マスク付きでも顔認証ができる仕組みはどんなもの?
牧野武文(まきの・たけふみ)
2021.08.25

新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、外出する際にマスクをつけるのは、日本では常識となっています。では、マスク付きで顔認証する仕組みはどんなものなのでしょうか。今回は、顔認証のメリットなども併せてみていきます。

顔認証とは

顔認証とは、あらかじめデバイスやシステムに顔のデータを登録しておき、顔を撮影することで本人確認をする仕組みです。最も身近な顔認証は、アップルのiPhoneに搭載されているFaceIDでしょう。本人の顔を登録しておけば、ロック解除が顔だけでできるだけでなく、ApplePayでの決済の時に必要な本人確認も顔認証で行えます。

顔認証は、顔検出、顔認識と言葉が似ているために混同されることがありますが、目的や用途が異なります。

顔検出

画像の中から顔を検出する機能。デジタルカメラなどで顔を検出し、顔に自動でピントを合わせるのに使われます。

顔認識

顔を認識し、顔情報から個人情報以外のデータを取得します。例えば、施設に設置されている装置で、顔を映し出すと、顔表面から体温を測定するなどです。また、自動販売機などで購入者の顔を認識し、性別や年代を推測し、マーケティングデータを収集するものもあります。

顔認証

認識した顔が登録されている顔と同一人物であるかどうかを判定し、本人確認を行います。FaceIDのように登録している1人と同じ顔であるかどうかを判定する1:1認証、企業の出退勤管理のように、複数の人を登録しておき、認識した顔がそのうちの誰であるかを判定する1:N認証があります。

顔認証のメリット

生体認証のメリット

認証をするには、記憶、所有、生体の3種類の方法があります。パスワードなどが記憶、IDカードなどが所有、顔認証が生体です。このうち、記憶と所有は、そのアイテムが盗難にあった場合、容易に他人がなりすましができてしまうという大きな欠点があります。また、記憶では忘れる、所有では紛失、破損というデメリットがあります。生体認証はこのようなデメリットがありません。

ただし、歴史的に犯罪捜査や政治的弾圧で、指紋などの生体要素が本人確認の手段として使われてきた経緯があり、生体情報は行動なプライバシー情報として慎重に扱う必要があります。

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認証に使われる要素の比較。導入コストは高くなるが、リスクや扱いやすさを考えると、指紋や顔、虹彩、静脈といった生体認証が最も優れている

顔認証のメリット

生体認証の中でも顔認証は、最も受け入れやすく、メリットの多い認証要素です。顔そのものは多くの人が隠すことなく、多くの身分証でも顔写真が使われています。顔認証システムは、このような身分証の顔写真を係員が同一人物であるかどうかを判断しているところを、機械学習などのアルゴリズムを使って自動化しただけと考えることもできるからです。実際、日本の空港などでは、システムが顔データを保有せず、パスポートの顔写真を読み込んで、本人の顔と比較することで本人確認するというプライバシーに配慮した仕組みも使われています。

また、スマートフォンの顔認証のような1:1認証では、顔データはスマホの中にだけ保存され、認証プロセスもスマホ中で行われます。相手側には「顔認証により本人確認が完了した」という情報だけが行われます。このため、顔データ情報の流失がきわめて起こりにくくなっています。

また、顔認証は、指紋認証や虹彩認証など他の生体認証と異なり、認証プロセスが手軽です。例えば、iPhoneのFaceIDで、ロック解除をするときは、わざわざロック解除という手順を取らなくても、iPhoneをただ見るだけで自動的に顔認証が行われ、ロック解除されます。快適さと安全性を両立することができます。

企業の出退勤管理などでも、わざわざカメラの前で立ち止まって顔を見せなくても、廊下を普通に歩いているだけで、高精細カメラで顔を撮影し、認証するというシステムも登場しています。

マスク付き顔認証の仕組み

顔認証は、実用面を考えると最も有力な認証方式で、急激な広がりを見せ始めていました。しかし、コロナ禍でマスクを着用することになり、一気に顔認証が利用できなくなってしまいました。

そこで顔認証システムを開発している企業では、マスクをしていても顔認証ができるシステムへの改善を始めています。

しかし、それには時間がかかります。なぜなら、修正というよりは作り直しに近いからです。

マスク付き顔認証のシステム開発は、企業によっても考え方は異なりますが、一般には3つのユニットを開発します。ひとつは、撮影した顔がマスクをしているかどうかを判定するユニット。もうひとつは、マスクをしている状態で目の周りの情報だけで本人確認をするユニット。そして最後がマスクなしでの判定ユニットで、これは開発済みのものが流用できます。それぞれにサンプル画像を大量に用意して、機械学習をして、システムを学習させておく必要があります。

特にマスクの認識が意外にも難関のようです。マスクは白だけでなく、さまざまな色があり、柄がついているものもあります。形も微妙に異なっています。また、状況によってはマスクを顎にかけていたり、鼻が出ていたりすることもあります。人間の目にはマスクだとわかりますが、機械に学習させるにはさまざまなパターンの画像を大量に用意する必要があります。

そこで、人工知能を使って、素顔にさまざまなマスクを合成するシステムを開発し、これで生成した画像を使って学習をさせたりします。

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機械学習は、大量の画像を読み込ませれば終わりというものではなく、学習過程のさまざまな段階で学習効果を測定し、学習カリキュラムを変えていく必要があります。人間の学習と同じで、適切な順番で学習をすると学習が早く高い精度を出すことができますが、不適切な順番で学習をすると、まったく学習が進まないということが起こります。

それでも精度99%以上にならないと実用には向きません。ましてや、決済などの重要な認証ではより高い精度が要求されます。現在のところ、各社とも開発中で、マスク付きでも98%、99%の精度を達成という発表は珍しくなくなっています。あと少しで、マスクをしたまま顔認証が利用できるようになりそうです。

身近に広がる顔が鍵になるスマートキー

顔認証というと、身分証代わりに使われる1:N認証がすぐにイメージされます。中国では、コンビニなどで顔認証だけで決済ができる顔認証決済システムも広く使われるようになっています。

しかし、1:N認証では、自分の顔データをシステムに預ける必要があるため、プライバシーに対する不安や情報流出などのリスクが付きまとい、企業の出退勤管理やオフィスへの入室管理など、顔データを管理する組織がわかっていて、特定の集団の顔データのみを管理する、つまりは企業での利用が主体になると思われます。中国のような大規模な顔認証決済システムは、普及するまでに、顔認証の実績を積んで、不安感を払拭する段階を経ることが必要です。

一方、FaceIDのような1:1認証は、多くのところで使われていくことになります。顔データはデバイスに登録するだけ、外に出ることはないので、流出のリスクはほとんどありません。

1:1認証の用途は「自分の所有物を他人に使われないこと」が目的です。iPhoneのFaceIDの場合、他人がiPhoneを使おうとしてもロック解除ができません。さらに、顔認証をしなければ自動車のエンジンがかけられない、住宅のドアが開かない、自転車の鍵が開かないなどの用途も見込まれます。

すでにリモートキーが普及をし始めている分野ですが、リモートキーを紛失した場合、盗難にあった場合のリスクがあります。顔認証キーであれば、盗難や紛失の不安もなくなります。

このような顔認証ユニットを設置するのはコストの問題があるので、当面は、スマートフォンの顔認証を利用することになるでしょう。スマートフォンのアプリから解錠できる仕組みにするだけで、スマートフォンそのものが顔認証をしなければロック解除できないのですから、他人に利用されることがなくなります。

顔認証は、まずは身近な防犯の分野で活躍することになります。マスクという思わぬ障壁に直面した顔認証技術ですが、それを乗り越え、普及が始まろうとしています。

まとめ

顔認証はあらかじめ登録してある顔データと撮影した顔を比較して、本人であるかどうかを確認する技術です。急速に広がりを見せ始めていますが、コロナ禍でマスクを着用するようになり、顔認証システムが利用できなくなくってしまいました。そこで、各社ともマスクをしていても顔認証が可能になるシステムの開発を行なっています。

まずは1:1認証を使い、顔認証対応のスマートフォンをスマートキーにする仕組みから普及をしていくことになります。

ライター

牧野武文(まきの・たけふみ)
テクノロジーと生活の関係を考えるITジャーナリスト。著書に「Macの知恵の実」「ゼロからわかるインドの数学」「Googleの正体」「論語なう」「街角スローガンから見た中国人民の常識」「レトロハッカーズ」「横井軍平伝」など。
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