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アプリの時代が終わる? 中国で拡大するミニプログラム--App Clipsにも注目
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アプリの時代が終わる? 中国で拡大するミニプログラム--App Clipsにも注目

アプリが歴史的な役割を終え、次の時代に進み始めている!?

2007年に登場したiPhoneが、テック業界を変え、ビジネスを変え、生活を様変わりさせてきたという点に異論がある人はいないだろう。その中心にあるのはアプリだ。アプリの登場により、デジタルリテラリシーが高くない普通の人でも、場所を選ばずにサービスを利用できるようになった。

しかし、アプリが登場して14年。そろそろアプリが歴史的な役割を終え、次の時代に進み始めているかもしれない。

「WeChat」に、2017年1月から「ミニプログラム」と呼ばれる機能を搭載

中国のテンセントは、自社のSNSアプリ「WeChat」に、2017年1月から「ミニプログラム」と呼ばれる機能を搭載している。これはWeChatの中から利用できる小さなアプリのようなものだ。アプリと言うより、正確にはWeChatの中からアクセスできるウェブアプリだ。WeChatの外からアクセスすることはできない。

開発言語は、WXML/WXSS/Javascriptの3言語だが、これはWeChat(中国名WeiXin)用にカスタマイズをされたHTML/CSS/Javascript。つまり、実態はWeChat専用のウェブアプリだ。

ウェブエンジニアであれば、少し学ぶだけでミニプログラム開発ができ、アプリ開発に比べて開発期間や開発費用は半分程度になるという。

これが飲食業や小売業で歓迎をされ、委託開発サービス企業「即速応用」の調査によると、2019年末の時点で、WeChatミニプログラムは236万件を超えており、その成功を見て、スマホ決済「アリペイ」、検索アプリ「百度」、中国版Tik Tokなどもミニプログラムに対応をしている。日本でも、LINEが同様の仕組みであるLINE Miniアプリを始めている。


アプリの時代が終わる?

(WeChatミニプログラムの一例。中国で人気のある中国茶カフェ「喜茶」のもの。ミニプログラムを起動すると、位置情報が参照されて、自動的に最も近い店舗のページが表示される。ここからモバイルオーダーやデリバリーの注文ができる)

さらに、アップルのiOS14でも、実装方法は異なるものの、同様のコンセプトであるApp Clipsが搭載(App Clipsの開発言語はSwift)。

ミニプログラムが歓迎された理由とは?

このミニプログラムのどこが歓迎をされたのか。ポイントは3つある。

1つは、インストール不要であるということ。ウェブアプリなのだから、起動するたびに読み込み実行される。アプリのような事前ダウンロードは必要ない。

2つ目は、アカウント登録が不要であること。WeChatアカウントが流用されて使われるので、サービスごとにアカウントを登録する作業をせずに、すぐに利用することができる。アップルのApp Clipsでは、Apple IDに紐づいた識別子を使ってアクセスする仕組みのようだ。

3つ目は、決済方法の設定が不要であること。WeChatは、スマホ決済「WeChatペイ」を内蔵しているので、決済が必要な時は、自動的にWeChatペイで決済される。App ClipsではApple Payで決済をされる。アプリのようにあらかじめクレジットカードを登録しておくなどの煩わしさはない。

つまり、初めて利用するサービスであっても、アカウントや決済方法を設定することなく、すぐに利用することができるのが魅力だ。これを飲食店や小売店から見れば、新規顧客を獲得するツールとして活用することができる。

ミニプログラムでできることは、アプリとほぼ同じ

ミニプログラムの利便性を感じるのは次のようなシチュエーションだ。街を歩いていて、コーヒーが飲みたくなった。WeChatで「付近のミニプログラム カフェ」を検索する。すると、近隣に店舗があるカフェの一覧が表示される。その中から、好きなカフェを選んで、ミニプログラムを起動。モバイルオーダーで注文をし、同時に決済も行われる。あとは地図を見て、店舗に行けば、着く頃にはコーヒーができあがっているので、受け取るだけだ。

この他、フードデリバリー、シェアリング自転車、レストランの座席予約、映画館の指定席チケットなど、アカウント登録と決済が必要なサービスの多くが、ミニプログラムをリリースしている。

ミニプログラムでできることは、アプリとほぼ同じ。そのため、アプリの開発ペースを落として、ミニプログラムに軸足を置き始めているサービスも登場してきている。

単機能のサービスではミニプログラム比率が高い

一方で、ミニプログラムにはユーザーに対するプッシュ通知機能がない。これを認めてしまうと、WeChatがプッシュ通知だらけになってしまい、ユーザー体験を損なうとテンセントが考えているのだろう。そのため、新規顧客の獲得ツールとしては優れているが、リピートさせる力は弱い。そこで、ミニプログラムを新規顧客の獲得ツールとして活用し、その後アプリに誘導し、クーポン配布などでリピートをさせるという立体的な戦略をとっているサービスもある。

それでもユーザーは、「ミニプログラムの方が手軽だ」と考えているようで、ミニプログラム経由の月間アクティブユーザー数(MAU)と、アプリ経由のMAUの比率を見ると、すでにミニプログラム経由のMAUの方が多くなっているサービスも増えてきている。

「2020モバイルインターネット全景生態報告」(QuestMobile)掲載のデータから、生活関連サービスのMAU上位5つのアプリ/ミニプログラム比率を見てみると、面白いことがわかる。


アプリの時代が終わる?

(生活関連サービスでMAUの多い5つのサービスで、アプリ経由のMAUとミニプログラム経由のMAUを比較した。フードデリバリーなどの単機能のサービスでは、すでにミニプログラム経由のアクセスの方が多くなっている。「2020モバイルインターネット全景生態報告」(QuestMobile)より作成)

美団というのは、グルメガイドを中心にさまざまな生活関連サービスが利用できるポータルサービスになっている。58同城も不動産、求職を中心にさまざまな生活関連サービスが利用できるポータルサービスになっている。このようなポータルサービスでは、アプリ比率が高い。サービス内容が多岐にわたっているため、アプリの方が使いやすいのだと思われる。

一方で、美団外売とウーラマはフードデリバリーサービス。大衆点評はグルメガイドだ。このような単機能のサービスでは、ミニプログラム比率が高くなっている。単機能であるため、さっと起動して利用できるミニプログラムの方が使い勝手がいいのだろう。

また、生活関連サービスは、クーポン配布や価格キャンペーンが頻繁に行われているため、複数の同類サービスを都合に応じて使い分けるという人がかなりの数いる。そういう人にとっても、スマートフォンのストレージを圧迫することのないミニプログラムの方が都合がいいようだ。

注目は、アップルのApp Clips

WeChatミニプログラムが成功をした最大の理由は、WeChatが抱える膨大なトラフィックだ。WeChatの2019年の平均MAUは9.45億人という桁外れなもの。チャット、通話などができることから、中国では標準的なコミュニケーションツールとしてほとんどの人が利用している。WeChatだけで、独自のエコシステムが構築できるためにミニプログラムが成功している。

追従しているアリペイ(6.86億人)、百度(5.30億人)、中国版Tik Tok(5.11億人)も巨大なトラフィックを確保している。

注目は、アップルのApp Clipsだ。iPhoneの稼働台数は9億台越えというWeChatと肩を並べている。WeChatは実質中国国内での利用だが、iPhoneはワールドワイドで使われている。中国で起きた生活サービスの変革が、今度はApp Clipsによって世界中で起きる可能性もある。

複雑な機能が必要なサービス、重たい動画ストリーミングなどのサービスでは、ポテンシャルのあるアプリがまだまだ使われていくと思われるが、生活サービスのような動作の軽いものの多くはミニプログラムへの移行が始まっている。アプリが消えてなくなってしまうわけではないが、ミニプログラム、App Clips、ウェブアプリの比率が高まっていくことは間違いない。アプリ関連のエンジニアは、今後の動向に注目をしておく必要がある。


アプリの時代が終わる?

アプリの時代が終わる?

(アップルのApp Clips(イメージ)。画面の下半分に表示され、アカウント登録不要でサービスが利用でき、決済はApple Payで行える。Appleが公開しているビデオ「Design great app clip」より引用)

原稿:牧野武文(まきの・たけふみ)

テクノロジーと生活の関係を考えるITジャーナリスト。著書に「Macの知恵の実」「ゼロからわかるインドの数学」「Googleの正体」「論語なう」「街角スローガンから見た中国人民の常識」「レトロハッカーズ」「横井軍平伝」など。

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