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監視カメラ技術で日本は中国の「スカイネット」に遅れ、エンジニアの貢献が重要に
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監視カメラ技術で日本は中国の「スカイネット」に遅れ、エンジニアの貢献が重要に

2020.06.25

 
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中国は世界でも頭抜けた監視カメラ大国

英国のテックメディアcomparitechが、興味深い調査を行っている。それは世界120都市の監視カメラの数を公開資料などから調査し、人口との比較で1000人あたりの監視カメラの数のランキングを作成するというものだ。)

その結果、世界で最も監視カメラの多い都市は中国の重慶市となった。市民1000人に対して168.03台ものカメラが街中に設置されている。さらに、ランキングトップ10のうち8都市を中国の都市が占め、中国以外の国から10位以内に入ったのはロンドンとアトランタのみだった。

ただし、この調査では、民間の監視カメラの数は調査ができなかった都市もあったため、統計から除外されている。また、監視カメラと言っても、交通量調査用のカメラも多く、用途についてはこだわることなく、台数のみを調査している。

中国が監視カメラ大国であることは、今後も揺るがないどころか、世界でも頭抜けた監視カメラ大国になっていく。深圳市では現在192.9万台の監視カメラが設置されているが、今後数年で1668万台へ大幅増加する計画が進んでいる。また、中国全体では2億台の監視カメラが設置されているが、中国公安部の計画によると、2020年末には6.26億台に増設されるという。こうなると、市民2人につき1台の監視カメラが設置される国になる。



(comparitechの調査による監視カメラ数ランキング。人口1000人あたりの台数で順位をつけている。ランキングの上位を中国の都市が占めた)

都市にとって防犯カメラはもはやなくてはならないもの

監視カメラと言うと、反射的に「怖い」と感じる人が多いかもしれないが、都市にとって防犯カメラはもはやなくてはならないものだ。

例えば、日本で新築マンションを購入するときに、防犯カメラが設置されていないと説明されたら、安心するだろうか、不安になるだろうか。オートロックのマンションであっても、宅配便やフードデリバリー、引越し業者を装うことで侵入することは不可能ではない。防犯カメラを設置して、24時間録画を行い、そのことを外部の人にもアピールすることで、安心感を得る人が多いのではないかと思う。

当然ながら、住人は日々防犯カメラに記録されることになるし、そもそも使っているカメラの多くは中国製か中国メーカーのOEM製品だ。

日本人の監視カメラへの安心感、理由は厳格な運用

そのせいか、中国では防犯カメラが犯罪抑止にいかに役立っているかを紹介するニュース映像や記事が多くメディアに登場する。よくあるのはひったくり犯が事件後数時間で逮捕されたとか、迷子になった子どもが誘拐された可能性もあるため捜索をしたら数時間で発見されたなどだ。

街頭の監視カメラが増えているだけでなく、その多くがネットワーク化され、画像処理を行ったり、監視カメラの枠から外れた人物を自動的に追いかけたりして、別のカメラ映像に切り替えていくなどの仕組みが導入されている。

さらに、中国政府が進めている天網プロジェクト(スカイネット)では、ネットワーク化されている監視カメラの映像をリアルタイムで画像処理をし、車、バイク、人などの動くものを識別子、ナンバーや顔から公安部のデータベースを紹介して、自動的に個人を特定したり、歩行認識(歩行の動きから個人を特定)や服装認識で、個人の動きを追いかけていったりすることを可能にしている。

この天網プロジェクトは、中国政府はなにもひた隠しにしているというわけではなく、中央電子台で時折、ドキュメンタリーとして放映されている。それも、「素晴らしいテクノロジーの成果」という文脈のもので、プライバシーに対する懸念についてはほとんど語られない。



(天網システムを紹介したビデオ。人や自動車などを認識し、顔やナンバーから個人特定を行う。指名手配犯の逮捕に大きく貢献している。中国政府はこのシステムを秘密にしているわけでもなんでもなく、テレビ番組などで「中国のテクノロジーの成果のひとつ」としてよく紹介される)

必ずしも防犯カメラが治安を解決するものではないという分析も

この天網では、指名手配犯が監視カメラに移るとアラートを発する機能もあり、空港や駅などで顔認識から指名手配犯が映り込むと、警官が急行して逮捕するということが起きている。中国の市民が本音でどう考えているかを知るのは難しいが、ネットの書き込みなどでは「小さなプライバシー侵害よりも、公共安全への貢献が大きい」と考えている人が多いようだ。

しかし、comparitechの記事では、防犯カメラと治安の関係を分析して、必ずしも防犯カメラが治安を解決するものではないという結論を出している。編集部では、世界の統計情報をまとめたNUMBEOに掲載されている年ごとの犯罪率データを使って、監視カメラの数と治安の関係を分析した。

NUMBEOに掲載されている安全指数と監視カメラの数を比較してみると、ほとんど相関関係が得られなかった。つまり、監視カメラが多い都市ほど治安がいいということはまったく言えなかったのだ。シンガポールやアブダビ、武漢のように、監視カメラが多く治安もいい都市もあれば、アトランタやシカゴ、バグダッドのように監視カメラの数が多いのに治安があまりよくない都市もある。

日本は防犯カメラの運用面で中国に遅れ

もちろん、これだけで防犯カメラが治安の改善に役立たないという結論を出すことはできない。防犯カメラから得られた情報をどう運用するかで治安は改善されていくからだ。要は、犯罪してもすぐに捕まる、必ず捕まるというイメージが定着をすれば、犯罪は起こらなくなる。

日本では、防犯カメラの導入が治安の改善に大きな効果があると考えている人が多く、実際、導入前後で犯罪率が減少したという実例も多い。ただし、防犯カメラで予防できるのは空き巣、強盗などの計画的な犯罪で、暴力事件などの突発的な犯罪に対しては予防効果は薄いと言われる(容疑者逮捕には効果がある)。また、日本では「他人の目を気にする」心理が強いことを指摘する人もいる。

日本は防犯カメラの運用面では、プライバシーに配慮をした独自の運用システムを構築できているが、中国での監視カメラテクノロジーを見ると、テクノロジー的にはまだまだ遅れている。当面はネットワーク化をし、人工知能による画像解析を行うことで、運用コストを下げ、犯罪の自動検出によるリアルタイム警報が出せるものが望まれている。また、中国ではリフォーカスカメラ(深度情報も記録し、後から焦点位置を変えられるカメラシステム)の監視カメラへの応用も始まっている。

日本でもこのような防犯、あるいは作業場の安全監視などの領域で、技術的進化が起きているが、多くは赤外線による夜間撮影、逆光補正などカメラハードウェアの技術進化が主体になっている。

ネットワーク化による画像解析、人工知能の応用でエンジニアが大きく貢献

警視庁のページには、「専従の担当者が24時間体制でモニターし、110番通報その他事件・事故等への対応をしています」と記されており、監視カメラを監視する担当者が張り付いているようだ。警視庁では、各繁華街で合計195台のカメラを運用しているが、有人監視ではこの程度の台数でも作業量は膨大になる。これが防犯カメラの台数の限界となってしまっている。

もちろん、防犯カメラの台数は増やせばいいというものではなく、効果的な設置を適正量行う必要がある。しかも、プライバシーなどの個人の権利を侵害するようなことがあってはならない。この課題を乗り越えるためには、ネットワーク化による画像解析、人工知能の応用が大きく貢献できるはずだ。エンジニアが貢献できる分野のひとつではないかと思う。



(日本の警視庁も都内の繁華街に防犯カメラを設置し、防犯に役立てている。監視カメラだけの理由ではないが、設置箇所の路上犯罪の数は減少傾向になっている。「街頭防犯カメラシステム」より作成)

原稿:牧野武文(まきの・たけふみ)

テクノロジーと生活の関係を考えるITジャーナリスト。著書に「Macの知恵の実」「ゼロからわかるインドの数学」「Googleの正体」「論語なう」「街角スローガンから見た中国人民の常識」「レトロハッカーズ」「横井軍平伝」など。

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