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スマートシティ必須のVPP(仮想発電所)--エンジニアは新領域に転身するチャンス
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スマートシティ必須のVPP(仮想発電所)--エンジニアは新領域に転身するチャンス

衝撃的だったトヨタのWoven City(ウーブンシティ)構想、だが新都市構想は中国が先行

今年1月6日、米ラスベガスで開催されたCES2020で、トヨタが発表したWoven City(ウーブンシティ)構想は衝撃的だった。実際に人が住み、あらゆる最先端テクノジーの実証都市となる。停滞する日本においては、久々に希望が見えるプロジェクトだ。Wovenとはweaveの過去分詞で「編み込まれた」という意味だという。



(CES2020でのWoven Cityの発表の様子。いろいろ語られているが、内容はほとんど未定。まったくゼロから、多くの協力を得て作り上げていくことになる)

このようなゼロベースの新都市構想は、中国が北京市郊外に建設した雄安新区が先行している。最終的には2,000平方キロという広大な都市になる計画だ。すでに100万人以上の人が暮らし、あらゆるテクノロジーの実験が行われている。中心部の10万平米(東京ドーム2個分)の区画では、人間が運転する自動車の乗り入れが禁止され、自動運転車のみが走行している。人は自動運転バスで移動する。

この区画には交通信号がなく、自動運転車は他車情報を参照して、安全に交差点を通過する。交差点での渋滞圧が減るため、車両数が増えても渋滞が起こらないという。Woven Cityでは、トヨタがリードをするため、このようなコネクティッドカー関連では、雄安新区よりもさらに高度な技術が投入されることになるだろう。

Woven Cityのエネルギー源は、太陽光発電と地下に設置される燃料電池が主体になる。このようなゼロベースの都市では、エネルギーを自前で発電して、消費するというエネルギーの地産地消が基本になる。また、化石燃料に頼らない再生可能エネルギーを利用することも前提になっていく。



(Woven Cityのプロモーションビデオ。本当にイメージだけで、具体性はほとんどないが、わくわくする。これを見て、心が動かないエンジニアはいないだろう)

【関連記事】「トヨタ、ネットでつながる実証都市「コネクティッド・シティ」を静岡県に建設」

注目されるVPP(仮想発電所)、必要とされる幅広い分野のエンジニア

このような動きの中で注目をされているのがVPP(バーチャル・パワー・プラント、仮想発電所)だ。多くのエンジニアの方が、電力関連というと特殊な業界で、自分とは遠い存在だと思われているかもしれない。しかし、VPPは幅広い分野のエンジニアを必要としている。そのことをご紹介したい。

発電というのは、必要な量だけ発電するのが基本だ。1日の中で、1年の中で変化する需要量に応じて、必要な量だけ発電をする。多すぎても、少なすぎてもいけない。需給バランスが崩れると、発電施設が最悪損傷してしまうからだ。

2018年9月6日、震度7の北海道胆振東部地震では、日本で初めてのブラックアウト(全域停電)が起きた。検証をした第三者委員会の報告書では、さまざまな複合原因が指摘されているが、そのうちのひとつがこの需給バランスが崩れたことだ。機器の故障、送電線の切断などで供給量が大幅に減ると、風力発電所の負荷が高まり、周波数が低下。周波数の低い電力を流すと、電力網が混乱することから安全停止をした。これでさらに全体の電力供給量が低下し、他発電所の負荷が高まるという連鎖が起きた。

このような事態を防ぐために、電力会社は余剰の発電施設を持っておかなければならない。需要が急激に高まった時は、余剰発電施設を稼働させることで、供給量を合わせる必要があるのだ。

水力という自然エネルギーは、水量を制御することで発電量を人為的に制御できる。しかし、太陽光、風力はお日様まかせ、風まかせで、電力需要とはまったく別の動きで発電量が上下する。このような自然エネルギー発電が導入される前、電力会社は需要量と発電量という2つの変数だけを見て、バランスさせればよかった。しかし、需要とはまったく違った動きをする自然エネルギー発電という独立変数が加わることで、制御は非常に複雑なことになっている。電力会社が自然エネルギーに消極的に見えることがあるのは、この制御が難しいからという問題があるのだ。

【関連記事】「電力の世界をAIの力で革新、持続可能なエネルギー社会の実現に挑戦」

太陽光発電事業者などの発電施設をひとつの仮想発電所とみなして機能させるVPP

そこで、問題の切り分けが行われる。それがVPPだ。太陽光発電などを提供する事業者(アグリゲーター)が、すべての発電施設をひとつの仮想発電所とみなして、ひとつの発電所のように機能させるというものだ。自然エネルギー発電は、発電量が需要とは関係なく上下するので、バッテリーを仲介させるのは当然のこととなる。発電量が多い時は、余剰分をバッテリーに蓄電しておき、電力網の需給バランスが供給不足になったら、その分をバッテリーから電力網に流し補う。電力網から見れば、非常に制御しやすいひとつの発電所に見える。

神奈川県小田原市では、このVPPで面白い計画を進めている。PHEV(プラグインハイブリッド車)のカーシェアリングを行い、このPHEVのバッテリーをVPPとして活用しようというものだ。普段は普通のカーシェアリングとして市民に活用してもらう。しかし、停車中で充電スタンドにつながっているPHEVは、VPPとみなせる。電力会社の求めに応じて、PHEV内のバッテリーから電力会社に対して電力を供給する。カーシェア利用料金と電力販売の両方で収益を上げるというものだ。災害時には、PHEVを避難所などに移動して、スマホ充電などの緊急バッテリーとしても活用するという。

【関連記事】「「再生可能エネルギー×EV」でカーシェアビジネスを展開し、地域の課題を解決」

VPPという仕組みは実にIT向きの題材

このVPPという仕組みがわかってくると、実にIT向きの題材だということがわかる。バッテリーというスタックに、どのタイミングでプッシュするか、プルするかを決定する問題に帰結できるからだ。電力を情報として見なせば、経路の中でいかに情報を効率的に転送するかという問題でもある。まるで情報科学の教科書に出てくるような基本事例に近いのだ。

実際、電力関連業界は、VPPに取り組むというミッションの中で、エンジニア不足が深刻になっている。なぜなら、多岐にわたる技術開発が必要になるからだ。

まず、必須になるのが、機械学習などの人工知能技術だ。従来の電力制御では「需要を見て」というリアルタイム制御が求められていた。しかし、VPPでは、「需要量と発電量を予測する」という未来予測に基づいた制御が求められる。当然そこには機械学習の技術が必要になる。

通信ネットワークと送電ネットワークは今までまったく別物だった。通信は微小電力であり、送電は大電力だ。通信は双方向だが、送電は一方向だ。そのため、ITエンジニアの発想とはまったく違った別世界だった。

しかし、VPPの登場により、大電力であることは変わらないものの、双方向になる。通信ネットワーク的な発想や、人工知能の知識が必須になる。

電力業界以外から新鮮な視点を持っているエンジニアを求めている求人も

現在、京セラが「電力分配・制御・予測アルゴリズム開発エンジニア」として各人材プラットフォームで求人募集をしている。求めているのは「事業展開を想定した研究開発ができる」エンジニアとされていて、募集告知の中では、電力業界での経験には触れられていない。

しかも必須経験は「要件定義、設計、検証の経験」。さらに次のいずれかの必須経験を求めている。

・データの活用、データ解析、処理の経験(データの種類は不問)

・時系列データの解析、予測技術の開発経験

・量子コンピューターの開発経験

・SQL言語を扱った経験、R、Pythonによる処理の並列処理化の経験

このような内容を見れば、電力業界以外から新鮮な視点を持っているエンジニアを求めているように見える。

「電力分配、制御」という言葉が並ぶと、自分とは遠い領域に見えてしまう方もいるかもしれないが、先ほども触れたように、VPPの電力網は、通信ネットワークにかなり似通ってきている。もちろん、転職後に電力系の技術を学ぶ必要はあるものの、ネットワークやコミュニケーション系のエンジニアであれば、挑戦してみる価値はあるのではないだろうか。

ひょっとしたら、現職で培った技術や視点を活かして、VPPシステムに大きな貢献ができるかもしれない。現職では誰もが持っているごく一般的な技術、発想が、フィールドを替えることで、高い価値を持つことはじゅうぶんにあり得るのだ。

原稿:牧野武文(まきの・たけふみ)

テクノロジーと生活の関係を考えるITジャーナリスト。著書に「Macの知恵の実」「ゼロからわかるインドの数学」「Googleの正体」「論語なう」「街角スローガンから見た中国人民の常識」「レトロハッカーズ」「横井軍平伝」など。

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