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中国、災害時にはWi-Fi基地局が空中へ--中国西北工業大学が開発、太陽光発電で空を飛ぶ
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中国、災害時にはWi-Fi基地局が空中へ--中国西北工業大学が開発、太陽光発電で空を飛ぶ

中国・西北工業大学航空学院で、災害時にWi-Fi通信を確保するユニークな方法を研究

日本も、豪雨、豪雪、地震といった災害が、毎年のように起こる国になった。災害が起きた時に最も必要とされるのが「的確な情報」だ。情報端末としてはスマートフォンが何よりも役に立ち、スマホを使うために、携帯電話ネットワークの確保と電力の供給が鍵になる。災害時だからこそ、警察や消防への緊急通報の帯域は確保しなければならない。そのため、携帯電話キャリアは、音声通話の帯域を絞り込み、その代わりデータ通信の帯域を広げるようにしている。お見舞い、安否確認の電話を控えてもらい、災害掲示板の活用やウェブからの情報取得をしてもらうためだ。

中国陝西省の西北工業大学航空学院の周洲教授のチームは、災害時にWi-Fi通信を確保するユニークな方法を研究している。ソーラーバッテリーで飛行する無人飛行機を開発し、そこにWi-Fiルーターを搭載し、空から広範囲にWi-Fi信号を提供しようというものだ。

太陽光がある状態で、無限に飛行できる状態を目指す

このWi-Fi無人飛行機「魅影」(メイイン)は、翼長7m、機体長1.2m、重量16kg。翼には太陽電池パネルが敷き詰められ、太陽光がある状態では、無限に飛行できる状態を目指している。

巡航高度は高度500mから3,000m。最大高度は9,000mで、Wi-Fiルーターは到達距離50kmというもの。携帯電話ネットワークの電波を受信し、これをWi-Fiとして地上に放射する。

高度500mで、300平方kmの地域にWi-Fiを提供できるという。これは琵琶湖の半分程度の広さ、小さな市であれば全域にネット通信を提供できることになる。ちなみに、2015年のデータでは、日本で最も狭い市は埼玉県蕨市の5.1平方kmで、日本の市は全部で791市あるが、300平方km以上の面積があるのは249市になっている。

2008年に起きた四川大地震がきっかけ

このWi-Fi無人飛行機は、2018年にWIPO(国際連合の世界知的所有権機関)が後援しているジュネーブ国際発明展に出品され、Outstanding Innovation Award(傑出したイノベーション賞)を受賞した。



(WIPOが後援するジュネーブ国際発明展に出品した西北工業大学の周洲教授チーム。展示されているのが、ソーラーバッテリー無人機。手前の女性が周洲教授。西北工業大学の「工大要聞」より引用)

周洲教授は、元々航空力学が専門だったが、魅影プロジェクトを始めたきっかけは、2008年に起きた四川大地震だったという。死者6万9197人、行方不明者1万8222人、避難者1514万7400人という中国では最大級の災害となった。

当時の報道では、学校や病院などの建築物の手抜き工事が問題とされ、これが被害を拡大したと言われていたが、その後の調査で、携帯電話基地局も破損し、広範囲で携帯電話が不通となったため、救援、救護が大幅に遅れたということも被害拡大の大きな要因になったと分析されている。

周洲教授は、この経験から、「空中にWi-Fi基地局を設置すれば、広範囲に電波を提供することができる」と考え、魅影プロジェクトを始めた。

連続飛行記録は現在のところ19時間34分、周洲教授「まだまだ伸ばせる」

最も大きな課題は、太陽光エネルギーだけで、無限に連続飛行できるかどうかだ。この無人機は、ドローンのようなヘリコプター型ではなく、グライダーのように滑空することを利用している。気流を見て、滑空することでエネルギーを節約し、太陽光が得られる環境では、無限に飛行し続けられることを目指している。

魅影チームでは、すでに100回以上の試験飛行を行なっていて、スマートフォンの利用に耐える強度の信号が300平方kmの範囲で受信できることを確認している。

また、連続飛行記録は現在のところ19時間34分が最長記録になっている。

しかし、魅影チームによると、この記録は2018年秋の黄土高原で樹立したもので、秋という太陽光がやや弱まっている時期のもので、条件が整えば、まだまだ記録が伸ばせる余地があるという。



(2016年8月に新疆ウイグル自治区で行われた試験飛行の際の記念写真。無人機の翼の長さがよくわかる。西北工業大学の「工大要聞」より引用)

災害ドローンが日本でも近い将来登場か

問題は日照時間が短くなる冬場と風だ。日照がないと発電ができず、風が強いと飛行の抵抗が増え、電力消費が高くなる。それでも2019年初めという冬場に、チベット高原で7級の強風が吹く悪条件下でも16時間の記録を打ち立てている。

現在は、すでに運用を見据えた研究開発に入っており、機体も折りたたみ式になり、運搬もしやすくなった。さらに、あらかじめ設定した座標を通過するように自動飛行し、バッテリー残量が少なくなると、飛行を中断して、出発地に戻ってくる帰巣機能も備えられた。

また、Wi-Fiルーターではなく、赤外線カメラなどを搭載するモデルも開発し、災害支援だけではなく、野生動物保護、歴史遺物保護、農業などに活用する研究開発も始まっている。

このような発想の元になっているのは、「高い場所にルーターを設置すれば、到達距離が飛躍的に伸びる」という単純な原理だ。ホールなどの広い部屋では、Wi-Fiルーターを天井に設置するだけで、部屋の隅々まで届くようになるのと同じだ。

日本の市街地は、中国に比べて面積が小さめなので、より小規模な無人機でもじゅうぶん役に立つ。Wi-Fi電波を提供しながら、カメラで地上を撮影し、災害の状況を伝えるという災害ドローンが日本でも近い将来登場してくることになるだろう。

原稿:牧野武文(まきの・たけふみ)

テクノロジーと生活の関係を考えるITジャーナリスト。著書に「Macの知恵の実」「ゼロからわかるインドの数学」「Googleの正体」「論語なう」「街角スローガンから見た中国人民の常識」「レトロハッカーズ」「横井軍平伝」など。

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