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『リブラ』はなぜ叩かれるのか!? --送金業務めぐり金融機関と覇権争い
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『リブラ』はなぜ叩かれるのか!? --送金業務めぐり金融機関と覇権争い

2019.12.06

 
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※上記画像は「リブラ協会」のサイトより。

リブラが批判されているのはなぜ!?

米Facebookが、今年の6月に暗号資産(仮想通貨)『リブラ』の計画を公表すると、世界中の政府機関、金融機関から猛反発を受け、米国議会では「リブラの発行を阻止する」法案まで準備されている。

リブラが批判されているポイントは、次の3つだ。

1)銀行と同じように安全性を担保する規制や監督ができるのか?

2)価格が変動をして、従来の暗号資産(仮想通貨)と同じように、投機的にならないのか?

3)個人情報の流出問題を起こしているFacebookが運営をしてだいじょうぶなのか?

各国の金融機関は、さまざまな規制を受けながら銀行業務を行なっている。規制を受けない民間企業、民間団体が銀行業務を行えるのであれば、公平な競争ができないということが根底にある。

このような規制は、競争の公平性だけでなく、利用者の安全も担保している。例えば、日本で銀行口座を開くときは、何らかの証明書類で身分を確認しなければならないという「規制」があるが、これにより銀行口座が犯罪に使われる危険性を防いでいる。民間企業が、このような規制なしに銀行業務を行えてしまったら、資金洗浄などの犯罪の温床になりかねない。ひいては利用者のためにならない。

「Facebookが、
金融を始めて大丈夫なのか?」

だとしたら、選択肢は3つだ。

1)リブラを運営するリブラ協会も、銀行業の免許を取得し、銀行と同じ規制のもとに業務を行う。

2)暗号資産による送金業務に、規制をかける

3)絶対にリブラの発行を阻止する

1が最も波風の立たない解決策だが、リブラは世界中で使える暗号資産となるので、世界各国の銀行の規制が異なるため、現実的には難しい。そこで、2や3の方向で進んでいるというのが現状だ。

リブラの発行目的はシンプルだ。Facebookの創業者、マーク・ザッカーバーグ氏は、10月23日に米議会下院金融サービス委員会で証言する内容を、事前に書面にしてネットで公開している。

それによると、リブラの目的は「テキストメッセージのように安全にお金を送ることができる」「グローバル・ペイメント・サービス」であり、「現行のシステムはそれに失敗している」と述べている。

面白いのは、リブラが批判される裏の理由ーー「個人情報を集めることで大儲けをして、しかも流出ばかりさせているFacebookが、金融サービスなんか始めて大丈夫なのか?」についても、ザッカーバーグ氏は理解をして触れている。

「現時点で、我々は理想的なメッセンジャーでないことを理解している。我々は、ここ数年、数多くの問題に直面している。人々はこのアイディアをFacebookではない、別の誰かに進めてほしいと思っているに違いない」とも述べている。



(ザッカーバーグ氏が米国下院で証言する内容を、事前にまとめて公表した文書。けっこう生々しい話も出てくる。グーグル翻訳を通すことで、だいたいの要旨はつかむことができる)



(リブラのことを知るには、リブラ協会のサイトを見るのがいちばんわかりやすい。日本語化もされている。リブラとは天秤座の意味で、公平性を意味している)

リブラは、グローバルな送金システムの
問題を解決することを意図

ザッカーバーグ氏の言うとおり、グローバルな送金システムは、まだ誰も納得がいくものを構築できていない。銀行も、仮想通貨さえも失敗をしている。

現在、銀行から海外の銀行口座に送金をしたい場合、SWIFTという仕組みを使う。これは、インターネットのパケットをバケツリレー方式で送信する方式とよく似ている。送金依頼を受けた銀行は、その情報をより大きな銀行に転送をしていく。国内の銀行で転送をしていくと、海外送金業務が可能な銀行にたどり着く。この銀行は、相手国の海外送金業務をしている銀行に転送をする。そして、相手国内の銀行でバケツリレーがされて、目的の銀行口座にたどり着くという仕組みだ。

決して悪くはない仕組みだが、時間がかかる。2日から4日はかかるのが一般的だ。しかも、経由する銀行の数が、到着してみないと判明しないため、事前に手数料がいくらになるかわからない。しかも高額で、2000円から6000円程度になる。

さらに最悪なのが、相手の銀行口座の指定表記が、相手国のフォーマットに合わないなどの問題で、口座が確認できないことがある。この場合は、1週間ほど経って「送金に失敗しました」と言って、突き返されてくるのだ。

リブラは、この問題を解決しようとしている。スマホ決済の割り勘や個人間送金のように、スマホやPCから一瞬で送金ができる。そういう仕組みを作ろうとしている。

ビットコインは
なぜ国際送金の主流になれない!?

このような目的のために、ビットコインを始めとする仮想通貨(暗号資産)が考案され、すでに使われている。しかし、ビットコインを保有している人はそれなりに増えたものの、活発に国際送金に使われているという状況は生まれていない。

その理由は、仮想通貨が政府通貨とは独立した存在であるために、需給関係により相場が変動することだ。それも、現状ではかなり激しく上下する。これは送金には使いづらい。いつビットコインを買うか、受け取った人がビットコインをいつ現金化するかで損得が生まれてしまうため、売り買いするタイミングを考えなければならなくなる。

本来は、ビットコインで決済できる店舗、サイトが増え、ビットコインだけで決済が完結する世界になれば、国際送金するときも、円建て、ドル建てで考えるのではなく、ビットコイン建てで送れるようになるはずだった。そうなれば、価格が変動することは問題ではなくなる。

私たちの日本円は、ドルに対して、日々変動しているが、日本円で給料をもらい、日本円で支払いをしている分には、ドル円相場は気にする必要がないのと同じだ。しかし、ビットコインは日常決済まで普及しているとは言えない。

一方で、相場を見て売り買いすることで利益が出るため、株や為替と同じように、投資商品のひとつとしてビットコインを保有する人ばかりが増えていった。このような投資家は、投機な行動するため、さらに相場の変動が激しくなる。

リブラも、
投資商品のひとつになってしまう?

そこで、リブラはステーブルコインにするという。ステーブルコインとは、既存貨と固定相場にしてしまい、変動を生まないようにするものだ。電子マネーやスマホ決済などがステーブルコインで、1ポイント=1円というのは動かない。

しかし、国際的な通貨であるリブラは、どの通貨に対してステーブルにするのか。リブラでは、通貨バスケット制を採用するという。報道によると、米ドル50%、ユーロ18%、円14%、ポンド11%、シンガポールドル7%という割合のバスケットを想定し、これらの通貨の平均指数にリンクする固定相場となる予定だ。特定の通貨とリブラの相場の動きはかなり小さくできるというものだ。

しかし、これにも批判がされている。例えば、何らかの理由で日本円だけが急激に高くなるという状況が起きたとき、日本円を持っている人は、いったんリブラに変えた方が得になる。通貨バスケットに採用された通貨の変動は、みな一斉に動くわけではないので、触れ幅を小さくできるというだけで、結局は変動をする。変動すれば、投機的な動きが起こり、ビットコインのように、送金サービスではなく、投資商品のひとつになってしまうのではないかというものだ。

これから始まるのは、金融機関と
その他民間企業による銀行業務の奪い合い

「このようなシステムを、あのFacebookに任せて大丈夫なのか?」については、リブラ協会を設立させ、Facebookとは原則関係のないリブラ協会が運営をすることになっている。提唱者がFacebookの創業者であるザッカーバーグ氏というだけで、Facebookはリブラに原則関与しない(ただし、ウォレットを開発運営するカリブラは、Facebookの子会社)。

このリブラ協会に参加するには、最低でも10億円以上の出資と2000万人規模のユーザーを保有しているという高いハードルがかけられている。それでも設立時に28の企業、団体が参加をした。有名なところでは、Visa、Mastercard、ウーバー、Spotify、eBayなどがいた。しかし、Mastercard、Visa、eBay、PayPalなどキーになるプレイヤーが相次いで脱退をし、リブラ協会には暗雲が漂い始めている。

6月のリブラ発表の時は、リブラ協会への参加は、法的拘束力のない基本合意書を交わすだけだったが、その後、リブラに対する反発が強まり、10月11日の翌週の公式会合では、リブラ協会の憲章への署名が行われることになっていた。正式参加をして後戻りができなくなるタイミングで離脱を決定した企業があったということだ。結局、リブラ協会は、ウーバー、Spotifyなど21社でのスタートとなった。

暗雲垂れ込めてきたリブラだが、その仕様に関しても、まだまだ流動的なようだ。例えば、通貨バスケット制に対する批判を受けて、一部報道には関係者の話として、各国通貨に対するステーブルコインにする案も出ているという。つまり、日本円リブラ、米ドルリブラなど、複数のリブラが登場することになる。

一部には、「リブラの2020年発行は難しい」と見る専門家もいるようだ。これから始まるのは、金融機関とその他民間企業による銀行業務の奪い合いだ。金融機関もSWIFTではない、より利便性の高い送金システムを構築するという動きが始まっている。リブラがスタートできるかどうかはまだ不明なところが多いが、第2、第3のリブラが登場して、今後も、送金業務を巡って、金融機関vsその他民間企業の対立は続いていくことになる。

原稿:牧野武文(まきの・たけふみ)

テクノロジーと生活の関係を考えるITジャーナリスト。著書に「Macの知恵の実」「ゼロからわかるインドの数学」「Googleの正体」「論語なう」「街角スローガンから見た中国人民の常識」「レトロハッカーズ」「横井軍平伝」など。

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