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国が統合型リゾート(IR)を推進するワケ。カジノは、たくさんの人にきてもらい、長時間遊んでもらえば、確実に大儲けができるビジネス
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国が統合型リゾート(IR)を推進するワケ。カジノは、たくさんの人にきてもらい、長時間遊んでもらえば、確実に大儲けができるビジネス

2019.10.30

 
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ルーレットは長時間遊ぶと、
確実に損をすることになっている

日本にもあと数年で統合型リゾート(IR)が登場し、カジノで遊ぶことができるようになる。カジノは大人の娯楽場であり、ベットをしながら、スリルと雰囲気を楽しむ場所だ。間違っても、ギャンブルと捉え、カジノで一攫千金などと夢を見てはいけない。なぜなら、ギャンブルとして見た時、カジノゲームは他のギャンブルよりも次元の違うアコギっぷりだからだ。高い確率で手持ちのチップをすべて巻き上げられるようにできている。使う額を決め、チップを支払う娯楽として楽しむというのであればともかく、チップを増やしてカジノを出ようなどということはまず不可能なのだ。

このカジノのアコギっぷりは、数学を使っても証明できる。最も入りやすいゲームとして、カジノの女王と呼ばれるルーレットを例に考えてみよう。

ルーレットは38の出目があり、ボールがどこの目に入るかを当てるゲームだ。38の目のうち0と00の2つはディーラーの総取りとなる(アメリカンタイプの場合)。これがカジノの収入となる。2/38だから5.3%。掛け金の5.3%がカジノの収入となり、これはハウスエッジと呼ばれる。

これは、消費税率よりも低い率で、カジノ側は「ささやかなハウスエッジをいただくだけで、みなさまにお楽しみいただいてます」と慇懃に説明をするが、これがなかなかアコギ。うっかりした人は、100枚のチップを買ったら、一晩遊んでも、90枚ぐらいは手元に残ると勘違いしてしまう。そこまで呑気でなくとも、「小さく賭けていけば、一晩じゅうぶんに遊べるよ」と言う人は多い。

これは大きな勘違いなのだ。5.3%のハウスエッジは、手持ちのお金にかかるのではなく、1回賭けるごとにかかる。つまり、ベットするたびに5.3%ずつ削り取られているのだ。ハウスエッジが5.3%ということは、プレイヤーの期待収入は94.7%になる。10回かけたら、0.947の10乗で、期待収入は約58%になってしまう。20回かけたら、約34%まで小さくなる。ルーレットは長時間遊ぶと、確実に損をすることになっている。これは他のゲームでも同じだ。

【関連記事】「「IR」は何の略称!? カジノを作るメリット・デメリットとは?」

数学的にどうなるか

ここで、次のような場合を考えて、数学的にどうなるか計算してみよう。まず100枚のチップを購入し、1枚ずつ、ルーレットの赤か黒のいずれかにかけていく。当たると2倍になるが、当たる確率は0と00があるために、18/38=47.4%だ。この50%よりも少し小さいというところがミソだ。

こうして、100枚のチップが200枚に増えたら勝ち、逆に0枚になってしまったら負けというゲームに挑むとき、勝てる確率はどのくらいあるだろうか。これは確率で計算ができ、すでに公式化されている。資金nを持って、勝率pのゲームに挑んだ場合、目標金額aに到達できない(つまり、結局0枚になって破産する)確率が計算できる。

どのくらいの数値になると思うだろうか。「思うのだろうか」と問うているぐらいだから、想像よりも低い値になるということはすでに察しておいでだと思うが、たぶんその察した想像よりもさらに低い値になる。

このゲームに勝てる確率は0.027%。つまり、1万人の人がこのゲームに挑んで、2.7人しかチップを200枚にすることはできない。後の9997人は、チップが0枚になり、クレジットカードでも持っていなければ、ラスベガスの寒空におっぽり出されることになるのだ。



(ギャンブラーの破産確率の公式。確率pのゲームに挑むとき、手持ちの資産がnであり、目標資産がaにした場合、0枚になって破産してしまう確率Qが求められる)



(ギャンブラー破産確率の公式を、横軸にゲームの勝率、縦軸に破産確率をとってグラフにすると、1(破産)と0(勝ち)が、ゲームの勝率0.5のあたりで急激に入れ替わるグラフになる。ゲームの勝利確率が0.5の時は、当然ながら、破産確率も0.5になる。ルーレットは勝率47.4%と、50%からわずかに小さくなるだけだが、その小さな勝率の減少でも、破産確率は急上昇してしまう。逆に言えば、カジノゲームの勝率を50%からわずかでも上げる方法があれば、確実に勝てることになる。ここから、昔から人々は必勝法を編み出そうとしてきた)

【関連記事】「早大政経学部入試で数学必須化へ!入試だけでなくビジネスでも求められる数学力」

カジノは、たくさんの人にきてもらい、
長時間遊んでもらえば、
確実に大儲けができるビジネス

チップが1枚1ドルとして、カジノの収益を計算してみよう。1万人に100枚のチップを販売したので、総売上は100万ドル。そして、約3人がチップを200枚に増やしたので、合計600ドルの払い戻しをしなければならない。それだけだ。後の人たちは、がっくりと肩を落として家に帰るか、カードを取り出してキャッシングマシーンを探してくれる。結局、カジノの収益は99万9400ドルとなる。実に、販売したチップの99.94%が収入になるのだ。

だからカジノは儲かる。たくさんの人にきてもらい、長時間遊んでもらえば、確実に大儲けができるビジネスなのだ。そのため、大金をかける富裕層に対しては、航空機のチケットを送ったり、場合によってはプライベートジェットを仕立てたりしてお迎えにもあがる。普通の人に対しても、ドリンクは無料、遊ぶほどポイントがたまって、ショーや食事、ホテルの部屋のアップグレードが無料になる。いずれも、長時間遊んでもらうための工夫だ。

もし、100枚のチップを持っていて、期待収益を最大化するためにはどうしたらいいか。それは100枚のチップをまとめて赤か黒に賭ける1回勝負をすることだ。これであれば、期待値は47.4枚となり最大化できる。しかし、もっと素晴らしい方法がある。それは100枚のチップを持ったまま、両替所に行って、払い戻しを受けてしまうことだ。これであれば、期待値は100枚となり、より最大化できる。つまり、カジノはギャンブルとしてはやってはいけないゲームなのだ。楽しみながらポイントを貯めて、リゾートを楽しむための場所なのだ。

世に流布されている必勝法の類には
振り回されないように

また、世に流布されている必勝法の類にも振り回されないようにしたい。出目に片寄りのあるルーレット台を見つけて儲けるというバイアス法は、モンテカルロの国営カジノで英国の技師、ジョセフ・ジャガーが行って、3日間で6万5000ポンド(現在価値で約5億5000万円)を稼いだ事件が有名だが、これは1875年7月のことだ。しかも、ジャガーは出目を記録するために2年前から準備をし、偏りのあるルーレット台を見極め、3日間だけルーレットを行った。ジャガーはそのまま英国に帰り、仕事をやめ、62歳で死ぬまでカジノに足を踏み入れることなく、地味な引退生活を楽しんだ。

最近では、1991年に、スペインのマドリッドに住むゴンザロ・ガルシア・ペライヨがやはりルーレットの偏りをパソコンで解析をして、荒稼ぎをした。しかし、生活が派手になると、すぐにお金が足りなくなり、一攫千金を夢見て、ラスベガスに乗り込み、連続して出目を外すと、その場で気を失ってしまい、救急搬送され、ギャンブラーを引退することになった。

このような出目の偏りを利用する必勝法は、すでに対策がされている。80年代にすでにカジノ遊具製造業者TCSジョン・ハクスレー社は、偏りが生じづらいロープロファイルホイールを開発し、他社もそれに続いている。ペライヨは、このようなロープロファイルホイールがまだ導入されいないカジノばかりを狙っていたが、現在ではほぼ100%ロープロファイルホイールが採用されていると言われる。さらに、画像解析によって、出目は自動的に記録され、コンピューターが監視をし、出目に偏りが生じると、すぐにホイールは調整または交換される。今のカジノでは偏りは起こらないと考えておくべきだ。

1960年に、MITの数学講師をしていたエドワード・ソープは、当時の最先端コンピューターであるIBM704を使って、ブラックジャックの解析を行い、必勝法を発見した。簡単に言えば、場に出たカードを覚え、場に出ていないカードに偏りが生じ、プレイヤーに有利な状態になったときに掛け金を大きくするというやり方だ。一般にはカードカウンティングと呼ばれる。この成果は、アメリカ数学学会誌にもFortune’s Formula: The Game of Blackjack(幸運の方程式:ブラックジャックゲーム)として発表されている。そして、投資家から資金提供を受け、実際にラスベガスで大儲けをしている。

しかし、これも現在では通用しない。ブラックジャックのルールもプレイヤーにわずかだか不利になるように改定されているし、そもそもソープの時代は1組のカードでプレイするカジノがまだあったが、現在では6組ぐらいのカードをまとめて使うのが一般的だ。残りカードに偏りが起こりづらくなるので、ソープの必勝法を使える局面がほぼ生まれないのだ。

さらに最近のカジノでは、コンティニュアスシャッフルマシンを導入している。これは場に出たカードを放り込むと一瞬でシャッフルして揃えてくれるマシンだ。これを使うと、毎回、偏りのない初期状態でプレイすることになるので、ソープの必勝法はまったく使えない。

今後、必勝法と呼ばれるものが登場しても、カジノも研究をしているので、すぐに対策をされ、無効化されてしまう。それはダークサイドハッカーとセキュリティエンジニアの関係によく似ている。カジノと統合型リゾートは楽しむための場所。決して儲ける場所ではない。

原稿:牧野武文(まきの・たけふみ)

テクノロジーと生活の関係を考えるITジャーナリスト。著書に「Macの知恵の実」「ゼロからわかるインドの数学」「Googleの正体」「論語なう」「街角スローガンから見た中国人民の常識」「レトロハッカーズ」「横井軍平伝」など。

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