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わずか2年で、スターバックスと肩を並べたラッキンコーヒーの成功の理由とは!?
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わずか2年で、スターバックスと肩を並べた
ラッキンコーヒーの成功の理由とは!?

2019.09.18

 
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異例づくめの「ラッキンコーヒー」、
中国のカフェ業界のリーダーが交代!?

中国のカフェ業界は、米スターバックスが1999年に北京市に1号店を出店して以来、ずっとリードをしてきた。中国に本格的なカフェ文化を紹介したのはスターバックスだったと言っても過言ではない。現在、店舗数は約3500店舗にもなっている。しかし、それがわずか創業2年足らずのスタートアップに脅かされている。2018年1月1日に北京と上海で開業した瑞幸コーヒー(中国名ルイシン、英語名ラッキンコーヒー)だ。店舗数は2019年6月末現在で2963店。しかも、尋常ではないペースで出店をしているため、2019年中に店舗数でスターバックスを抜くのはほぼ確実と見られている。中国のカフェ業界のリーダーが交代する可能性もある。



(ラッキンコーヒーのアプリで、北京市の店舗マップを表示した画面。異常な数の店舗がある。おそらくコンビニよりも店舗密度は高いのではないか。2021年末までに1万店を出店し、主要都市では歩いて5分以内に必ず店舗がある状況を作り出すという)

これだけでも驚きだが、ラッキンコーヒーはあらゆることが異例づくめだ。2019年5月には、創業1年半で、米ナスダック市場への上場を果たしてしまった。しかも、ラッキンコーヒーは創業以来黒字になったことがなく、赤字上場なのだ。さらに驚くのは、創業者の銭治亜(チエン・ジーヤー)CEOは、「今後数年間は戦略的に赤字を出し続ける」と公言している。各メディアからは「投資資金を燃料として燃やし続けて走っている」と揶揄されている。上場までのスピードも驚異的だが、赤字上場というのも驚きで、今後も赤字を出すというのも驚きだ。

スケールしやすいネットサービスの場合は、短期間での上場、赤字上場ということもあり得る。しかし、それは多くの場合、サブスクリプションサービスだ。サブスクの場合、退会率は緩やかにしか増えていかない。多少内容に不満が出ても、すぐには退会せず、様子を見る人が多いからだ。そのため、新規顧客獲得戦略がしっかりしていて、運営も手抜きをしなければ、安定した収益が見込め、現在は赤字でも将来は黒字化がほぼ確実。だから投資をしたいという人が現れて上場が可能になる。

しかし、ラッキンコーヒーはスケールが簡単ではない小売業だ。わずか2年足らずで3000店舗を出店することは簡単ではなかったはずだ。しかも、ラッキンコーヒーがわずか2年で急成長したということは、別のスタートアップが突然現れて、強力なライバルになる可能性だって否定できない。まるでネット企業の成功物語のような急成長ぶりを、実体のある小売業でやり遂げてしまったのだ。

"コーヒーのコスト構造の歪み"を変える

このような離れ業ができたのは、コーヒーのコスト構造に歪みが存在していたからだ。よく言われることだが、コーヒーの原価は驚くほど安い。もちろん、どのような豆を使うか、いくらで販売するかによっても異なるが、コーヒーの原価率は10%以下であることがほとんどだ。

そのため、多くのカフェが内装に凝る。おしゃれにして居心地のいい空間を作る。つまり、コーヒーの低い原価率という特性を生かして、空間づくりにコストをかけていた。要するに、カフェに行くということは、コーヒーを買っているのではなく、空間を買っているのだ。

この「歪み」を利用したのがコンビニコーヒーだ。以前、セブンカフェの原価表がネットに流出したことがある。これによると、真偽のほどはともかく、100円で販売されているレギュラーサイズのホットコーヒーの原価は46.8円になっている。一般のカフェではこれを500円で販売し、空間を提供する。コンビニでは空間は不要で、人件費も吸収できる。店舗経費がほぼ不要な分、安くして100円で販売しているということになる。しかし、原価自体はカフェのコーヒーと比べて決して低いわけではないので、それなりのグレードの豆を使っていると考えられる。だから、美味しいコーヒーが100円で飲めるわけだ。

ラッキンコーヒーも似たような考え方でコーヒーのコスト構造を変えた。ラッキンコーヒーの店舗には3種類ある。一般のカフェのようにソファが用意されているリラックス店。テイクアウト専門のピックアップ店。外売(デリバリー)専門のデリバリーキッチン(一般客が買うことはできない)の3種類だ。



(ラッキンコーヒーの典型的なピックアップ店。客席は原則としてない。ピックアップ店が中心であるため、大量出店が可能であり、店舗コストがかからない。「ラッキンコーヒー公式サイト」より)

このうち2741店がピックアップ店で、デリバリーキッチンは99店、リラックス店は123店しかない。つまり、ラッキンコーヒーは実質的にテイクアウト専門のカフェチェーンなのだ。

そのため、一般的なカフェとコーヒーのコスト構造が大きく違っている。一般的な中国のカフェの場合、原価は4元前後、店舗運営コストが12元程度、これを20元から25元程度で販売するのが相場だ。しかし、ラッキンコーヒーの場合は、同社の決算書によると、原価は4.8元と相場と変わらないかやや高い程度だが、店舗運営コストが4.5元と極端に安い。テイクアウト店を中心にしたため、店舗はほぼスタンドのような感覚で、面積も狭く、カウンターとキッチンがあればいいだけになった。

テクノロジーを使って、
ユーザー体験を大きく変えることに成功

しかし、これだけだったら、ただのテイクアウト専門カフェチェーンにしかすぎない。テクノロジーを使って、ユーザー体験を大きく変えることに成功した。ここがラッキンコーヒーの人気の秘密になっている。それはスマートフォンを利用して、モバイルオーダーを基本にしたのだ。ある人がオフィスにいて、コーヒーが飲みたくなったとする。スマホを取り出して、ラッキンコーヒーのアプリを起動。コーヒを注文する。スマホ決済と紐づいているので、そのまま決済まで完了する。できあがり時間が表示されるので、それに合わせて店舗に行く。コーヒーの用意ができるとプッシュ通知がくる。注文用のQRコードが生成されるので、カウンターでそれをスキャンしてもらうとコーヒーが渡されるというものだ。

一般のカフェであれば、まず店舗に行って、注文カウンターに並ぶ。注文をして、決済をする。次に商品カウンターに並ぶということをしなければならない。オフィス街のカフェは多くの時間帯で行列ができている。ラッキンコーヒーは「行列のできないカフェ」なのだ。

モバイルオーダーをするということは、個人の購入履歴が把握できるということだ。その購入履歴を分析して、個人の嗜好に合った優待クーポンを次々とアプリに送り込む。その人が一度飲めば習慣になるであろう種類のコーヒークーポンや、一度その時間に飲めば習慣になるであろう時間帯に有効な割引クーポンなどを送り、消費を刺激する。また「1杯注文したら1杯無料」クーポンでは、もらった1杯のコーヒーは近くにいる誰かにあげることになり、ユーザーにラッキンコーヒーのエバンジェリストになってもらうことができた。



(ラッキンコーヒーの公式サイト。ブルーに鹿のシルエットがラッキンコーヒーのトレードマーク。右の青い丸枠には「新規ユーザー。最初の1杯は無料で、5割引クーポン進呈。すべて2杯飲むと1杯分のクーポンを贈ります」と書いてある。このクーポンの大盤振る舞いも人気の理由のひとつだ)

2021年末までに1万店舗にする計画

このようなクーポン戦略をとっているために「数年間は戦略的赤字を出し続ける」ことになっている。このやり方をどう評価するかは投資家次第だが、株の値が付いているということは、評価する投資家が一定数いるということだ。

ラッキンコーヒーの唯一の弱点は、「簡単にモバイルオーダーができるものの、店まで取りに行くのが面倒。かといって、料金を支払ってまでデリバリーするのも嫌だ」というものだ。そこで、ラッキンコーヒーは主要都市では、歩いて5分以内に必ず店舗がある状況を作り出そうとしている。2021年末までに1万店舗にする計画だ。

読者の方はすでに気がつかれていると思うが、ラッキンコーヒーのこのような手法は、いずれもネットサービスのスケール手法やグロースハックの考え方を、小売業に適用したものだ。ネットサービスでは当たり前のように行われていることを、実体小売の世界でも実行した。これがラッキンコーヒーのテック企業並みの急成長の秘密だ。ネットのスケール手法が、小売業でも可能であることを示したことが、ラッキンコーヒーの最大の功績だ。すでに小売業、飲食業も、ネットのビジネス手法を取り入れないと成長が望めない時代に入っている。

(※トップ画像はラッキンコーヒー公式サイトより引用しています。)

原稿:牧野武文(まきの・たけふみ)

テクノロジーと生活の関係を考えるITジャーナリスト。著書に「Macの知恵の実」「ゼロからわかるインドの数学」「Googleの正体」「論語なう」「街角スローガンから見た中国人民の常識」「レトロハッカーズ」「横井軍平伝」など。

わずか2年で、スターバックスと肩を並べたラッキンコーヒーの成功の理由とは!?

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