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最近よく見かける「3ヶ月無料」「3ヶ月99円」キャンペーンの謎大盤振る舞いに見ても、運営側の新規獲得コストとしては効率的
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最近よく見かける「3ヶ月無料」「3ヶ月99円」キャンペーンの謎
大盤振る舞いに見ても、運営側の新規獲得コストとしては効率的

2019.09.02

 
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「3ヶ月無料」や「3ヶ月99円」、
3ヶ月も使ってしまうと完全に習慣化!?

音楽や読書、映像といったサブスクリプションサービスに加入している人は多いと思う。サブスクというのは、月額定額で見放題、聴き放題のサービスのことだ。このようなサブスクサービスでは、入会時に無料期間があるのが普通だ。どんなコンテンツが揃っているのか、使い勝手はどうなのかがわからないままに入会をしてクレジットカードを登録するのは敷居が高い。そこで、お試しの試用期間を設けている。

数年前までこのお試し期間は1週間というのが一般的だった。1週間もあれば、コンテンツの品揃えや操作感は確かめられるからだ。ところが最近では1ヶ月が当たり前になってきている。これは「お試し」よりも習慣化を狙っている。1ヶ月の無料期間があれば、週末は4回あり、数回から10回は使ってみることになる。そうすると、サブスクを使うことが習慣化してしまい、手放せなくなり、継続してくれるようになるというわけだ。無料期間に面白い連続ドラマを発見してしまい、それを見たいがために有料期間になっても継続した人は多いのではないだろうか。

しかし、最近キャンペーンなどで「3ヶ月無料」あるいは「3ヶ月99円」「4ヶ月99円」などという無料期間が増えている。ずいぶんな大盤振る舞いだが、3ヶ月も使ってしまうと、完全に習慣化してしまう。さらには、無料期間の終了時期を忘れてしまうので、うっかり有料期間に入ってしまい、そのことに気がついても「まあ、使っているからいいか」と継続してくれる確率が高くなるのだ(と多くのサブスクサービス運営は考えている)。



(Appleの音楽サービス「Apple Music」は、もはや3ヶ月無料が基本になっている。他社のサービスも「3ヶ月無料」のところが増えている)

サブスクサービスは
新規会員の獲得が生命線

会員ビジネスには、サブスク以外の従量制のものもある。例えば、ECサイトのようなサービスでは、会員になっても使わなければ費用は発生せず、基本料金のようなものを支払う必要はない。購入した商品の代金だけ、使ったサービス分の代金だけを支払えばいいのだ。このような会員ビジネスでは、1:5の法則というのが昔から言われている。これは新規会員を獲得コストは、既存会員にサービスを利用させるためのコストの5倍必要だという意味だ。

新規会員を獲得するには、様々な広告やプロモーションを行わなければならない。そのための費用を獲得した会員数で割れば、「1人の会員を獲得するためにかかったコスト」が計算できる。一方で、既存会員にもメールマガジンやプロモーション、割引クーポンなどを配布して、消費を刺激する必要がある。これもコストがかかるが、新規会員獲得に比べればずっと小さいコストで済む。当たり前の話で、自社サービスに興味があるかどうかわからない新規の消費者を獲得するよりも、興味があるから会員になっている消費者を刺激する方がずっと簡単だ。そのため、多くの会員ビジネスでは、会員に対してメールマガジンや割引クーポンなどの施策を一生懸命行うことになる。

ところが、サブスクサービスは、月額定額制なのだから、既存会員にプロモーションを行っても、それ以上の消費はあり得ない。既存会員に対するプロモーションは退会防止を目的として行う。そのため、新作情報を伝えるのが中心になり、キラーコンテンツが追加される時は、公開前からティザープロモーションをするのが一般的だ。

そして、サブスクサービスの場合は、新規会員の獲得が生命線になる。そのため、3ヶ月無料、3ヶ月99円といった思い切った施策を打ってくるのだ。

新規会員獲得コストは、
入会後1年に支払われる額の
20ー30%が適切?

新規会員獲得コストがどのくらいかかるのかは、各サービスとも企業秘密であり公開されていない。IR情報から推測することは可能だが、すべてのプロモーションが新規会員獲得を目的として行われるわけではないので不正確なものにしかならない。また、当然ながらサービスの種類、形態、時期によっても大きく変わってくるだろう。

しかし、マーケティング関係者の間では「新規会員獲得コストは、入会後1年に支払われる額の20ー30%が適切」という常識があるそうだ。確固たる根拠があるわけではないようだが、これで月額1000円のサブスクサービスについて計算してみると、年の収入は1万2000円で、これの20ー30%は2400円から3600円にあたる。そう考えると、月額1000円のサブスクを3ヶ月無料にすることは、新規会員獲得コストとしては妥当なものになってくる。

新規獲得コストは、従来はほとんど広告やキャンペーン費用だった。しかし、テレビやネットなどのメディアで広告をして、そこからアプリをダウンロードさせ、ユーザー登録をさせるというのはハードルが高い。予算を効率よく新規獲得に結びつけているとは言い難い。

そこで、先にアプリをダウンロードさせて、会員登録までしたらご褒美を出すという方式の方が、予算を効率よく新規獲得に結びつけられるということがわかってきた。

「PayPay」は
「100億円あげちゃうキャンペーン」で
400万人以上の新規会員を獲得

昨年12月、QRコードスマホ決済「PayPay」が「100億円あげちゃうキャンペーン」という大盤振る舞いをしたことは記憶に新しい。その額に誰もが驚いたが、結果として400万人以上の新規会員を獲得した。ということは、新規会員獲得コストはわずか2500円なのだ。それ以外にも大規模なメディア広告を打っているので、実際のコストはこの数倍になっているだろうが、100億円という驚きに比べて、一人あたりで考えると意外に堅実なコストのかけ方だとも言える。

今後も、サブスクや決済サービスが登場するたびに、このような大型還元キャンペーンは増えていくことになるだろう。

キャンペーンを利用して
フリーライドをする人たちも登場

消費者にとってはありがたいことだが、今度はこのようなキャンペーンを利用してフリーライドをする人たちも登場している。動画サブスクサービス、音楽サブスクサービスなどは、1ヶ月無料のものが多い。そこで、Aというサービスを1ヶ月利用したら、退会して、次はBを1ヶ月利用し、次はCをというように渡り歩く。ご夫婦で、夫のアカウントが一巡をしたら、次は妻のアカウントでとやると、1年ぐらいは無料で見続けられるそうだ。

一度、無料の試用期間を使うと、次からは1ヶ月無料は無くなってしまうが、引越しをして住所が変わると、再び試用期間が申し込めるようになるサービスも多い。さらに、今時のサブスクサービスは1つのアカウントで複数のデバイスから利用できることが多い。単身赴任をしている夫が無料入会し、自宅の家族とアカウントを共有して楽しんでいるという話も耳にしたことがある(ただし、本来は1人で複数のデバイスで楽しむための機能であり、複数人でアカウントを共有するのは規約違反になる)。

こういうフリーライダーたちにとって、「3ヶ月無料」というのは実にありがたいはずだ。スマートフォンのリマインダーに日付付きで退会日を記入しておけば、退会忘れもおこならない。

入会者を増やしたいサービス運営側と、お金をできるだけ払いたくないフリーライダーの知恵比べは今日も続いている。

原稿:牧野武文(まきの・たけふみ)

テクノロジーと生活の関係を考えるITジャーナリスト。著書に「Macの知恵の実」「ゼロからわかるインドの数学」「Googleの正体」「論語なう」「街角スローガンから見た中国人民の常識」「レトロハッカーズ」「横井軍平伝」など。

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