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キャッシュレス化を阻んでいるのは20代の若者!?目的が見えない日本のキャッシュレス化
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キャッシュレス化を阻んでいるのは20代の若者!?目的が見えない日本のキャッシュレス化

2019.03.01

 
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収入が低い層--"20代の単身者"ほど
現金決済を好む現実

スーパーやコンビニでは、クレジットカードや電子マネー、スマホ決済などのキャッシュレス決済が浸透し始めていることを実感している人も多いだろう。しかし、一般商店、飲食店ではまだまだ圧倒的に現金決済が多い。レジが混雑しやすいスーパー、コンビニでは今後もキャッシュレス比率が高まっていくだろうが、レジの混雑が少ない一般商店、飲食店では現金決済が続き、ここをどう突破していくかが、日本のキャッシュレス比率を高める鍵になるはずだ。

しかし、この壁は高い。なぜなら、「現金決済を希望する」という人が一定数いるからだ。調査によって異なるが、3割から4割の人が現金決済を希望している。しかも、その割合は20代が突出して多く、50%を超える。よく「若者がキャッシュレスになっているのに、中高年が現金にこだわっている」と言う人がいるが、その見方が誤りであるだけでなく、真逆でさえあることが明らかになっている。



(どの決済手段を希望するかの問い対して、クレジットカードが1位だが、2位には現金がくる。現金を好む人が一定数いることがわかる。
キャッシュレス決済実態調査」(NIRA総合研究開発機構)より引用)



(年齢別に見た「主に現金で支払いたい人」の割合。巷間言われていることとは異なり、20代が突出して現金で支払いたいということがわかる。
キャッシュレス決済実態調査」(NIRA総合研究開発機構)より引用)

さらに年間世帯収入別に「現金派」の割合を見ると、収入が低い層ほど現金決済を好むことがわかる。このデータは世帯収入なので、世帯収入が低いということは単身者の割合が高いと考えられる。つまり、日本のキャッシュレス化を阻んでいるのは、20代の単身者なのだ。



(年間世帯収入別に見た「主に現金で支払いたい人」の割合。収入が低いほど現金を好む。ここでは世帯収入別なので、収入が低い人の多くは単身者であると考えられる。つまり、20代の単身者が現金派であることが、キャッシュレス化の壁になっていると考えられる。
キャッシュレス決済実態調査」(NIRA総合研究開発機構)より引用)

20代単身者の視点で見ると、
「キャッシュレスツール」は
便利とは言えない!?

「キャッシュレス決済は便利」と考えている人が多く、確かにレジの場面だけを見れば、お釣りのやりとりがない分、キャッシュレスの方がスムースだ。しかし、「キャッシュレスツールを使う」ということを20代単身者の視点で見ると、決して便利だとは言えなくなってくる。

クレジットカードの問題は、銀行口座の残高が請求日に不足しないように管理しなければならないことだ。20代であれば、給料日前に給料を使い切ってしまう人も多いはず。そういう人にとって、口座残高の管理は煩わしく、うっかりすると信用事故になって、自分の信用履歴を汚してしまう。現金決済だけにしておけば、「財布の中にお金がなければ買うのを我慢する」というだけで、管理ができるのだ。

電子マネーの多くは、事前チャージ方式であり、多くの流通小売業者が顧客囲い込みツールとして活用しているため、普通に生活しているだけで、3、4枚の電子マネーカードができてしまう。それを持ち歩き、チェーンによって使い分けるのも面倒だし、それぞれにチャージをすると、使い道が限定されてしまうお金ができてしまう。可処分所得が少ない人にとっては、これはけっこうつらい。

しかも、多くの電子マネーが、まずはATMで現金を引き出して、それをチャージするのだから、キャッシュレスといっても現金とのハイブリッドでしかない(オートチャージは、特定の提携クレジットカードからしかできないものが多い)。だったら、現金で支払えばいいやと考えるのも無理はない。

この点で、若者層には銀行口座に直結しているデビットカードが最も適しているのだが、利用できる場所が少ない、分かりづらいという問題がある。

キャッシュレス化が進んだ国は、
現金決済が不便だった

平成30年4月に経済産業省が公開した「キャッシュレス・ビジョン」によると、キャッシュレス化が進んでいるのは韓国、中国、カナダなどだ。これらの国で、キャッシュレス化が進んだのは、現金決済が不便だったという事情がある。

例えば、韓国では高額紙幣がなく、現金決済は相当に不便だった。2009年に5万ウォン紙幣ができたが、それ以前は最高額紙幣が1万ウォンだった。1万ウォンは950円程度。つまり、10万円の冷蔵庫を買いに行くのに、1万ウォン紙幣を100枚以上持っていかなければならない。これではあまりにも不便だということで、クレジットカードを中心にしたキャッシュレス化が進んだ。日本はそこまで現金が不便ではない。

カナダなどは、国土も広く、冬は通行がほとんど不可能な地域もあり、冬場の現金輸送が大きな問題で、口座に残高はあるのに現金化できないということが起こり得る。そのためキャッシュレス化が進んだ。日本は、減りつつあるというものの地方にいってもATMを見つけることは難しくない。

つまり、キャッシュレス決済が進むのは、「現金決済が著しく不便」という前提があるからで、日本のように「現金決済が(諸外国から見たら)利便性が高い」国で、レジでのつり銭のやりとりが省ける程度のことでは、モチベーションとしては弱すぎるのだ。

政府の本音は
「現金のやり取りは不透明なので、
これを捕捉して、税金を取りたい」!?

では、日本はなぜキャッシュレス化をしなければならないのか。「キャッシュレス・ビジョン」にはこう書かれている。

「キャッシュレス推進は、実店舗等の無人化省力化、不透明な現金資産の見える化、流動性向上と、不透明な現金流通の抑止による税収向上につながると共に、さらには支払データの利活用による消費の利便性向上や消費の活性化等、国力強化につながる様々なメリットが期待される。」

総花的な文章で分かりづらいが、どうも「現金のやり取りは不透明なので、これを捕捉して、税金を取りたい」というのが主目的のように読める。税の公平性に寄与するのであれば素晴らしいことだが、使った支出が経費に当たるのかどうかは税務署との見解の相違によるところも大きい。税務署から余計な指摘を受けたくないので、なるべく現金を使うという人も出てくるのではないだろうか。

キャッシュレス決済が目指すべき
なのは、「決済という行為そのものを
消滅させること」

キャッシュレス決済が目指すべきなのは、「決済の利便性」ではなく、「決済という行為そのものを消滅させること」だ。

すでにこれを実現しているサービスがある。タクシー配車の「Japan Taxi」だ。事前にクレジットカードをアプリに登録しておき、それからアプリでタクシーを呼び、タクシーに乗る。降りるときにお金を払う必要はない。スマホを取り出す必要もない。運転手から領収書をもらって、金額を確認するだけだ。決済はアプリ内で完結している。



(JapanTaxiは、ユーザー体験が最も進んだサービスだ。スマホの地図上で自分の位置を指定し、タクシーを呼ぶ。事前に決済情報を登録しておくと、降りるときに財布やスマホを取り出す必要はなく、レシートを受け取って金額を確認するだけでいい。決済という行為そのものが消えている)

キャッシュレス化が進んでいる中国では、このようなスマホによるネット決済が広がっている。マクドナルドでは、店の外からでも専用アプリで注文ができ、決済まで同時に済ませてしまうことができる。あとはお店にいき、注文カウンターで商品を受け取ればいいだけだ。注文レジに並ぶ必要はなく、商品カウンターでも待たされない。

2017年末に創業した「ラッキンコーヒー」は、原則スマホ注文だけにしたカフェチェーンだ。スマホ専用アプリで注文をすると、決済まで行われる。それから店にいって、商品ができあがるとプッシュ通知が送られてくるので、商品カウンターで受け取るだけ。先に店にいって、空いている席を探して、それからスマホで注文してもいい。日本のカフェのように、注文レジに並び、商品カウンターの前で待たされ、挙げ句の果てに空いている席が見つからないなどということはない。この方式が受け、創業わずか1年余りで、中国22都市2000店舗と急拡大をしている。

中国では、一般の飲食店でもこのスマホ注文を導入しているところが増えている。テーブルにつくと、テーブルにQRコードが印刷されているのでこれをスキャン。するとメニューが現れるので注文すると、同時にスマホ決済される。あとは運ばれた料理を食べて、そのまま帰るだけ。注文や会計でいちいちスタッフを呼ぶ必要はない。このようなスマホ注文は、利便性が圧倒的に高いことから、消費者を刺激し、売上も伸びている。また、飲食店の人件費を抑えることにも大きな効果がある。

中国のマクドナルドのスマホ注文のCM。店外でもスマホから注文ができ、決済まで行われる。店舗では商品を受け取るだけ。ここでも「決済」という行為そのものが消えている。カフェや一般の飲食店でもこの「スマホ注文」方式を導入するところが増えている。

https://www.youtube.com/watch?v=aF2NgNB--NQ

何枚ものプラスティックカードを
入れている内は、
キャッシュレス先進国にはなれない

日本の現金決済は、他の国に比べて、次元が異なるといっていいほど利便性が高い。そこに「キャッシュレスの方がもう少し利便性が高い」と言ってみたところで、なかなかキャッシュレスには移行しない。スマホ注文のように、圧倒的な利便性を見せる必要がある。

中国では、現金しか使えない人は、未だに行列に並び、呼んでもなかなか来てもらえないウェイトレスに何度も大声を張り上げなくてはならない。

日本でも、鉄道と高速道路のキャッシュレスがうまく浸透したのは、「キャッシュレスの人がスイスイ通過していく」という圧倒的な利便性を見せられたからだ。

日本のキャッシュレスが目指すべきなのは、ネット決済ができるスマホ決済だ。そのためにはクレジットカードや電子マネーもアプリ化をするか、Apple Payなどのウォレットプラットフォームに対応をする必要がある。財布の中に、何枚ものプラスティックカードを入れている内は、日本はキャッシュレス先進国にはなれない。

原稿:牧野武文(まきの・たけふみ)

テクノロジーと生活の関係を考えるITジャーナリスト。著書に「Macの知恵の実」「ゼロからわかるインドの数学」「Googleの正体」「論語なう」「街角スローガンから見た中国人民の常識」「レトロハッカーズ」「横井軍平伝」など。

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