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地方移住をしたエンジニアは幸せになれるのか?
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地方移住をしたエンジニアは幸せになれるのか?

2019.01.18

 
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内閣府が2014年に行った「東京在住者の今後の移住に関する意向調査」によると、地方移住を予定または検討している東京在住者は、なんと40.7%にも達しているという。そういう時勢に対応して、開発部門やデザイン部門などのサテライトオフィスを地方に設置する企業が増えている。はたして、地方移住をした人たちは幸せになっているのだろうか。

牧野武文

「時間の余裕」と「生活コスト」は
都会暮らしと変わらない!?

このような「幸せ」という目標が達成できているかどうかというのは主観の問題であり、本人の「幸せ感受性」によるところも大きいので、地道にヒアリングを重ねて調べていかなければ、「成功か失敗か」というわかりやすい結論を導くことは難しい。

そこで、身の回りにいる地方移住をしたエンジニア、デザイナーから聞いた話をまとめてみた。わずか10人ほどの意見なので、統計的な意味はまったく持たないので、あくまでも参考程度に読んでいただければ幸いだ。

地方移住をしたいという理由は、次の3つにまとめられるだろう。

1)環境のいい場所で健康的に暮らしたい
2)時間に余裕のあるストレスのない生活がしたい
3)生活コストを下げたい

また、地方オフィスを設置する企業側の理由は、次の3つにまとめられる。

1)社員に健康的に働いてもらいたい
2)地元の優秀な人材を発掘したい
3)人件費、家賃などの固定費を抑えたい

このうち、環境、健康といった項目は間違いなく達成できる。しかし、意外だったのは「時間の余裕」と「生活コスト」の問題だ。ほぼ全員が口を揃えるのが、「地方に移住をしても生活コストは下がらない」ということだった。これはどういうことだろうか。

もちろん、フリーランスになって、中心地から離れたところにある空き家を借り、近所の商店で食材を買い、自炊をするというのであれば、家賃も驚くほど安く、食費も数分の一になり、しかも美味しく健康的な食事が取れるようになる。しかし、これが可能なのは、どこにいても仕事が追いかけてくる実力のあるフリーランスだけだ。

企業が開設したサテライトオフィスや地方企業に転職をした場合、絵に描いたような「田舎暮らし」をエンジョイするわけにはいかない。



(移住を考える上で重視する点の世代別の上位の回答。多くの人が生活コストを気にしているが、サテライトオフィスへの異動などで地方移住をした場合は、都会と同じ生活パターンをすることになり、生活コストは下がらないと考えておく必要がある。「東京在住者の今後の移住に関する意向調査」(内閣府)より作成)

まず覚悟しておけなければならないのは、仕事量は基本的に変わらないということだ。地方だからのんびり仕事をしてもいいなどというのは都会人の得手勝手な幻想。同じ給料をもらうのであれば、同じだけ効率よく働かなければならないのは当たり前のことだ。

しかも、都会にいたら仕事終わりの夕方に出席できるようなセミナーや勉強会であっても、高速バスや新幹線を利用して都会まで出向かなければならないので一日が潰れる。逆説的だが、時間の余裕は都会にいる時よりも地方に移住した方が厳しくなる。

このため、多くの人が地方都市の駅前などの中心地にある新築マンションに住むことになる。オフィスまで徒歩または自転車で通勤ができ、なおかつ買い物、交通などの利便性のいい場所を選ぶからだ。しかも、どうせなら、Wi-Fi完備で最新の設備を備えたマンションにしたい。そうなると、広さはかなり広くなるものの、家賃は都会のマンションとあまり変わらない。



(移住をする上での不安点、懸念点の世代別の上位の回答。働き口の問題をあげる人が多いが、サテライトオフィスへの異動の場合は無関係になる。それ以外では公共交通の利便性を心配する人が多い。こういう不安から、地方移住をした人は、オフィスまで徒歩または自転車で通勤できる場所に住むことが多くなる。「東京在住者の今後の移住に関する意向調査」(内閣府)より作成)

また、平日は自炊をする余裕もなかなか取れない。仕事が終わった頃には地元の商店は閉まってしまうので、結局、全国チェーンのコンビニを利用したり、全国チェーンのレストランを利用したり、全国チェーンのカフェを利用することになる。日用品の買い物も、全国チェーンの衣料品店、家電量販店、雑貨店、スーパー、モールを利用することになる。原則として価格は全国どこでも同じだ。結局、生活費は都会にいる時と比べて、そんなに安くはならないのだ。

地方移住をして、生活コストを下げようとしたら、専業主婦/主夫がいなければ難しい。中心地から離れた場所に住み、昼間の間に地元の商店で買い物をし、自炊をする。それで初めて、健康的な食事をしながら、生活コストを下げることができる。つまり、地方移住をしても生活コストは下がらないと考えておかないと失敗をする。

「地方をエンジョイしたい」という
積極型の地方移住はうまくいく

では、地方移住をしたエンジニアやデザイナーの全員が後悔をしているのか。もちろん、そんなことはなく、目を輝かせて「こんなに幸せな人生が送れるとは、都会にいる時には思っていなかった」と語る人もいる。

そういう人は、ほぼ例外なく、アウトドア系の趣味を持っている。サーフィン、ダイビング、トレッキング、キャンプ、ジビエ。そういう趣味を持っている人にとっては、地方移住は天国だ。なぜなら、車で15分も走れば、アウトドアの趣味が満喫できるからだ。

しかも、そういう人にとっては、生活費が都会と変わらないことは苦にならない。なぜなら、都会時代は、週末にアウトドアの趣味を楽しむために、片道2時間かけて高速道路通行料とガソリン代を払っていた。それがほぼなくなるのだ。頻繁にアウトドアを楽しむ人にとっては、むしろ生活費に余裕ができるほどだ。

あるベンチャー企業のデザイン部門は、3人で全員がサーフィン好き。そのため、サテライトオフィスを千葉県の海辺に借りた。本社とのやりとりは、スラックが基本で、必要に応じて電話会議。チーフは毎週金曜日だけ、東京本社に出社する。電車で2時間以上かかるが、週1回なのでさほど苦にならない。

業務時間も3人で相談して決めることができる。社員全員で、スケジュール表は共有しているので、業務に差し支えることはない。当然、いい波が出ている時はオフにして、波の状態がよくない時間帯に仕事をしている。そのため、出社して2時間仕事をして、サーフィン、再び6時間働くということもあるそうだ。

また、あるベンチャー企業では、沖縄にサテライトオフィスを設置している。当然、沖縄勤務のほぼ全員がマリンスポーツ愛好者だ。本社は東京なので、距離があるように思えるが、必要があれば東京まで飛行機で3時間。金曜日に東京本社で会議をし、週末を東京で遊んで、日曜の夜に帰るのが定番になっているという。また、東京本社の社員も、沖縄出張が増え、出張に有給休暇を連結させてリフレッシュをしているという。

要するに、「都会に疲れて」という逃避型の地方移住はうまくいかないことが多い。地方には素晴らしいところがたくさんあるが、欠点だって当然ある。都会の欠点から逃れて地方に行っても、今度は地方の欠点に悩まされることになる。一方で、「地方をエンジョイしたい」という積極型の地方移住はうまくいく。

地方自治体は、企業のサテライトオフィスに対して、環境を整えたり、税制優遇の措置をとるなど、積極的な誘致策を打ち出している。地域の雇用や産業育成にもつながるからだ。特に、デジタル系のエンジニア、デザイナー職は、どこにいても仕事ができることから、優遇をされている。しかし、オフィス環境だけを整えるのでは不十分だ。地方移住するのは人間であり、その人にはワークとライフの両方が重要なのだから、生活やレジャー面も考慮した誘致を行っている自治体を探し、そこにサテライトオフィスを設置すると、企業も従業員もハッピーになれる。都会で充実したワークライフバランスを達成することはとても難しい。それが地方であれば可能になる。地方の最大のメリットは「人間らしいワークライフバランスが可能になる」ことかもしれない。

原稿:牧野武文(まきの・たけふみ)

テクノロジーと生活の関係を考えるITジャーナリスト。著書に「Macの知恵の実」「ゼロからわかるインドの数学」「Googleの正体」「論語なう」「街角スローガンから見た中国人民の常識」「レトロハッカーズ」「横井軍平伝」など。

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