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「どこまで発展する!? 中国のびっくりIT最新事情」第8回通信回線がない圏外でも支払いができるアリペイの仕組み
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「どこまで発展する!? 中国のびっくりIT最新事情」第8回
通信回線がない圏外でも支払いができるアリペイの仕組み

2018.12.11

 
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日本人にとっては面倒くさい!?
中国人はなぜQRコードを
公共交通に使うのか?

中国の都市部は、QRコード方式のスマホ決済「アリペイ」「WeChatペイ」を使うことで、日常の決済のほとんどが済んでしまうキャッシュレス社会になっている。商店での買い物だけでなく、地下鉄やバスなどもスマホ決済に対応する都市が増えてきた。

しかし、日本人の感覚では、QRコード方式は煩わしく感じる。なぜなら、バスや地下鉄に乗る前に、スマートフォンを取り出し、アリペイアプリを起動し、支払い用のQRコードを表示しておかなければならない。Suicaのような交通カードであれば、取り出してタッチするだけでいい。なぜ、QRコードを公共交通に使うのだろうか。

ひとつは、中国の交通カードは都市ごとに発行されていて、相互乗り入れがあまり進んでいない。出張や旅行で別の都市に行った時は、その都市の交通カードを買うか、現金で切符を買う必要がある。しかし、アリペイであれば、対応している都市であればスマホだけで乗ることができる。操作は多少煩わしいものの、1、2回の乗車のために交通カードを買うよりも楽なのだ。

さらに最近では、各都市の交通カードをアリペイの中に登録できるようになっている。アリペイから簡単にチャージができ、スマホのNFC機能を使って、タッチをするだけで乗車できる。中国の公共交通は、交通カードの時代からスマホ乗車に移ろうとしている。

運営側も、交通カードよりもスマホ乗車を推進している。なぜなら詳細なビッグデータが得られるからだ。交通カードは原則無記名なので、乗車場所と乗車時間、人数ぐらいしかデータが取れない。しかし、スマホ乗車であれば、その人の年齢や性別などの属性、さらには前後のGPSデータにより、どこから歩いてきて、降りてからどこへ行ったのかまでわかる。

ネットワークに接続ができない場合、
どうしたらいい!?

杭州市では全国に先駆けてバスのスマホ乗車を始めていて、そのビッグデータを活かしてバス路線やバス停の位置の最適化をしている。乗客のバス停までの徒歩距離を最小化するようにバス停を再配置し、乗客の利便性をあげている。また、不要なバス停は廃止し、ノンストップで走れる区間を設け、渋滞などで遅れても、そのノンストップ区間で取り戻すことができるようにし、定時運行率を高めようとしている。バス停まで歩く距離が短くなり、定時運行することで、バス利用を促そうというものだ。

決済をするには、必ずネットワークが必要になる。決済時にそれが本当に正当なアカウントであるかを、ネットワーク上のサーバーに問い合わせをしなければならないからだ。業界の人は「オーソリ」(オーソリゼーション、信用承認)と呼ぶ。しかし、バス停や地下鉄の改札では、広い中国では圏外のこともありネットワークに接続ができない。そういう場合、どうしたらいいのだろうか。



(杭州市の345路バス路線は、スマホ乗車から得られるビッグデータを活かして、路線の最適化を行なった。乗客の歩行距離を最小化し、バス停がないノンストップ区間を設けることで、遅延を取り戻し、定時運行率をあげる工夫をしている。杭州市の他のバス路線でもこのような最適化がこれから行われていくことになる。百度地図から引用)

プラスティック製の
クレジットカードでの決済の問題は、
カード情報を店舗に渡すこと

私たちが普段使っているプラスティック製のクレジットカードには当然ながら通信機能がない。そのため、決済をするときに、カード情報をいったん店舗側に渡す。そして、店舗側の通信回線を使ってオーソリをかける。カード決済するときに、決済端末に差し込んだり、タッチしたりするというのはカード情報を店舗側に渡しているのだ。

この方式には大きな問題がある。それはカード情報という極めて重要な情報が店舗側に渡ってしまうことだ。そのため、カード会社との規約で店舗側はカード情報のほとんどは保存してはならないことになっているし、店舗側のネットワークにも高いセキュリティ対策が求められている。ここをいい加減にすると、店舗から顧客のカード情報が流出するという事故が起きる。

この問題を解決したのが、Apple PayやGoogle Payなどだ。スマホは自分で通信手段を持っている。そのため、決済時に、スマホ自身の通信回線を使ってオーソリをかける。信用承認が得られると、オーソリサーバーは「トークン」と呼ばれるデータを返す。決済時は、店舗側にこのトークンだけを渡すのだ。カード情報などは渡さないので、店舗からカード情報が流出することがなくなるし、店舗の通信回線も一般的なセキュリティを施しておけばよくなり負担が軽くなる。

アリペイアプリを開いただけで、
"オーソリ"をかけてトークンを得てしまう

スマホペイは、従来のカード決済を大きく進化させたが、それでもオーソリをかけるために、通信回線を必要とする。しかし、アリペイは、通信回線がなくても、決済ができる仕組みになっている。この仕組みがあったから、バスや地下鉄でも決済ができるようになり、スマホから得られるビッグデータを活用して、バス路線などの最適化までできるようになった。

その仕組みは実に単純だ。アリペイアプリを開いただけで、アリペイはオーソリをかけてトークンを得てしまう。この時は、もちろん通信回線が必要だが、ずっと圏外のところにいるということはそうそうあり得ない。そして、このトークンをアプリ内にしまっておくのだ。

支払いをする時に、通信回線ができなくても、アプリ内に保存しているトークン、それから時刻データ、利用者のアカウント情報の3つを組み合わせてQRコードを生成する。このQRコードを店舗側にスキャンしてもらうことで、決済が完了する。

支払いを受ける側が、例えばバスやレストラン内の移動決済端末で通信回線が確保できない場合は、仮決済として処理してしまう。そして、通信回線が利用できる状態になった時に、仮決済を処理して決済を完了する仕組みになっている。

もちろん、利用者側も店舗側も長時間にわたって、通信回線が使えない状態であれば、いつか決済ができなくなりエラーが表示されることになる。しかし、今の時代、丸一日圏外にいるということはそうそうない。あったとしても、それは山ごもりをしているか何かで、そもそも買い物する場所もないはずだ。



(アリペイでは通常の支払いと同じようにQRコードを表示しても、対応している都市の地下鉄やバスに乗車できるが、電子化された交通カードをアリペイの中に入れておくこともできる。交通カードからスマホ乗車に移行しつつある。図は、アリペイの利用マニュアルより引用)

圏外であろうと圏内であろうと、
利用者、店舗側の操作手順は
まったく同じ

通信回線が確保できる間に信用承認を済ませてしまい、トークンをアプリ内に保持しておく。この発想で、アリペイは圏外での決済を可能にしている。素晴らしいのは、圏外であろうと圏内であろうと、利用者、店舗側の操作手順はまったく同じなので、圏外とか圏内とかをまったく気にすることなく利用できることだ。こういうデザインの考え方は、学ぶべきところが多い。

この圏外であることを気にすることなく、スマホ決済ができるデザインにより、スマホ決済はバスや地下鉄という公共交通にも利用できるようになり、そこから得られる詳細なビッグデータを解析して、公共交通を最適化して、利便性を高めるという好循環が生まれている。



(中国のどこの都市でも見ることができるシェアリング自転車。多くの自転車がスマホで解錠して、スマホ決済で料金を支払う。地方都市では、圏外にもシェアリング自転車が置かれていることがある。それでも利用できるのは、スマホ決済がそもそもオフラインでも決済ができる仕組みになっているからだ)

キャッシュレス社会というのは、現金を電子化するだけのことではない。そこから得られるデータを活かして、世の中の利便性を高めていくサイクルを生む社会のことなのだ。

原稿:牧野武文(まきの・たけふみ)

テクノロジーと生活の関係を考えるITジャーナリスト。著書に「Macの知恵の実」「ゼロからわかるインドの数学」「Googleの正体」「論語なう」「街角スローガンから見た中国人民の常識」「レトロハッカーズ」「横井軍平伝」など。

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