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2019年、エンジニアは長期休暇が取れなくなる!?官製デスマーチがやってくる!
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2019年、エンジニアは長期休暇が取れなくなる!?
官製デスマーチがやってくる!

2018.11.29

 
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エンジニアの胃痛を高確率で引き起こす
「デスマーチ」、最初は「皇位継承」

エンジニアの胃痛を高確率で引き起こすウェイクワード−−「デスマーチ」。納期直前に残業が発生する、徹夜になるということであれば、エンジニアはみな覚悟ができている。しかし、忍耐力の限界を超えてしまうのが、「いつ完成するのかがまったく見えない」デスマーチと、「完成してもそもそもなんの社会的意義があるのかがわからない」デスマーチだ。デスマーチには、良性デスマーチと悪性デスマーチの2種類があるのだ。日本政府は、これから2年間、悪性デスマーチを数多くのエンジニアにあまねく課そうとしている。

最初にやってくる関門は、2019年5月1日の皇位継承だ。今上天皇が退位され、新しい天皇陛下が誕生する。時代が変わる歴史的な日となることは間違いなく、ゴールデンウィークと合わせて10連休となる可能性もあり、国民あげて新しい時代をお祝いする日になる。

しかし、問題は元号が平成から変わることだ。新しい元号の発表時期は未定で、一部報道では1ヶ月前になるとも言われている。つまり、さまざまなシステムの和暦表示を、わずか1ヶ月で新しい元号に対応させなければならないのだ。

もちろん、ダミーの元号を使って、あらかじめ改修とテストを前倒しでやっておくことはできる。しかし、その場合でも「漢字2文字である」「イニシャルがMTSH以外」という前提で進めることになる。政府はそのような配慮をするだろうが、発表されるまで、必ずそうなるという保証はどこにもない。もし漢字4文字だったりしたら、もしイニシャルが被ったりしたら、ということも考慮に入れておく必要があるかもしれない。

元号は、改元される5月1日以降、新しい元号表示になればいいというものではない。改元前であっても、ローン返済日など、未来の日付を出力する処理はいくらでもある。非公式な書類であれば「平成35年」などの表示でもかまわないだろうが、公文書では、改元以降は訂正印を打って手書きで修正するなどの作業も発生する。多くのシステムが内部では西暦を使っていて、入出力時に和暦変換をしているので、この変換ルーチンを改修すれば対応はできる。しかし、どのような事態が発生するかは、検証テストだけでは洗い出しきれない。結局、5月1日からの10連休は、すぐに対応できるように「エンジニアは社内待機」のようなことになりかねないのだ。

消費増税、問題は「軽減税率」と
仕様がまったく不明な「5%ポイント還元」

10月1日には、消費税率が10%に改定される。10%引き上げは2回も延期された経緯があり、多くのPOSレジシステムなどではすでに10%に対応済みだ。そのため、本来なら、フラグを切り替えるだけで、簡単に10%に変更できるようになっている。

ところが、そう簡単にはいかなくなってしまった。食品に関しては現行の8%を維持する軽減税率の問題と、仕様がまったく不明な「5%をポイント還元」の問題が出てきたからだ。複雑な仕組みである上に、政治的な駆け引きがあり、中身がいつまでたっても決まらない。

コンビニなどでは、お弁当を買った場合は食品だから軽減税率の8%だが、イートインコーナーで食べる場合は外食とみなされ10%になるという話も出ている。コンビニやスーパーで扱う全品目項目データに「10%」「8%」「場合によって異なる」のフラグ付けをしていかなければならない。さらに、レジには「持ち帰りかイートインか」をレジスタッフが選択できるインタフェースを追加する必要がある。



さらに頭が痛いのが「5%還元」だ。どのような形で還元するのかがまったく決まっていない。中にはマイナンバーカードを利用して還元するなどという案もあるようだが、そうなるとレジがマイナンバー読み取りに対応する必要があり、しかも高度なプライバシーであるマイナンバーを記録保存するのであれば、セキュリティ面も根本から見直す必要が出てくる。

さらに頭が痛いのが、
サマータイム導入の可能性

さらに頭が痛いのが、2020年東京オリンピック・パラリンピックに合わせてサマータイム導入が議論されていることだ。7月下旬という酷暑の大会になるため、サマータイムを導入して、1時間時計を進め、競技を少しでも涼しい時間帯で行おうというものだ。

サマータイムは時計を1時間進めるという単純なものではない。切り替え時間をまたぐ処理は、相当に難しくなる。例えば、切替え前日の深夜に出発し、目的地に切替え日の午前中に到着するような列車の運行管理は、途中で時計が1時間ずれることを考慮したものにしなければならない。

このような問題に対して、「プログラムを修正すればいいだけなので、さほど難しくはないはず」という意見もある。確かにプログラムの修正そのものはたいして時間がかからないし、システムによっては改元や消費税率変更あるいはサマータイムさえ見越してデザインされているものもたくさんある。

しかし、問題は、現在の多くのシステムは、他のシステムと連動して動いているということだ。例えば、企業の売上管理システムは、在庫システムや経理システム、あるいは顧客向けの通販アプリなどとも連動して、多くのデータを日々交換している。修正はプログラムの部分修正で対応できるが、その修正がどのような影響を他のシステムに与えるのか、すべてを見通せるエンジニアは1人もいない。何が起きるかは動かしてみなければわからないのだ。

もちろん「動かしてみたら、システムが止まりました」などということは許されない。そのため、事前の検証テストに膨大な時間と手間がかかる。改元であれば、改元直前は検証のためにデスマーチとなり、改元後に問題が発生したら、その修復のためにデスマーチとなる。

すでに始まっている軽いデスマーチ

軽いデスマーチはすでに始まっている。政治家が「5%還元すればいいのでは?」などという思いつきを口にするたび、システムインテグレーション企業では「改修作業の見積もり」「想定される工程表の作成」「考えられるリスクの分析」「検証の具体的な計画立案」などの作業が発生する。このような作業は、新人には無理で、そのシステムに熟知したシニアエンジニアが当たらなければならない。ただでさえ人手不足なのに、貴重な戦力がそちらに取られてしまうことになり、他の作業が次第にデスマーチ化していく。

想定される官製デスマーチのうち、改元はともかく、「軽減税率」「5%還元」「サマータイム」はシステム的には筋が悪い。非合理的な仕組みであるため、合理的なシステムにそぐわないのだ。軽減税率などやめて10%に統一し、生活困難者には別の形を支援をすればいいし、5%ポイント還元するのではなく、その場で5%割引にすればいい。サマータイムを導入するのではなく、単に競技の開始時間を1時間繰り上げればいい。そもそも、システムのことを考えもせずに、思いつきで口にするのやめて! と、エンジニアであれば誰もが思っているはずだ。

すべての政治家がITに詳しくなる必要はないし、パソコンやスマホが苦手だからITがわからないということでもない。しかし、システム的にそぐわない複雑な仕組みを簡単に口にして、それでIT業界が右往左往することを感じ取れていないのだとしたら、そういう人は「IT音痴」と呼ばれても仕方ないだろう。

エンジニアをダメにするいちばんの方法は、「無駄な作業ばかり強制する」ことだ。官製デスマーチは、エンジニアを弱くするばかりで、それはすでに始まっている。

原稿:牧野武文(まきの・たけふみ)

テクノロジーと生活の関係を考えるITジャーナリスト。著書に「Macの知恵の実」「ゼロからわかるインドの数学」「Googleの正体」「論語なう」「街角スローガンから見た中国人民の常識」「レトロハッカーズ」「横井軍平伝」など。

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