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「キャッシュレス決済が普及しないのは中高年のせい」は本当なのか?
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「キャッシュレス決済が普及しないのは中高年のせい」は本当なのか?

2018.10.17

 
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「中高年や高齢者は現金決済が好き」はホント!?

経済産業省は、現在、2025年までにキャッシュレス決済比率を40%にまで高める目標を掲げている(現在は20%程度)。キャッシュレス決済推進の話になると、「中高年や高齢者が現金主義だから」「若者を中心に普及」というフレーズで、若年層はキャッシュレスに積極的なのに、中高年や高齢者が保守的で、それが重しになっているかのようなイメージを持っている方も多いのではないだろうか。しかし、それは本当なのだろうか。

よく言われるのが「中高年や高齢者は現金決済が好き」という話だ。経済産業省の「キャッシュレス・ビジョン」には面白い調査結果が掲載されている。博報堂生活研究所のデータで、「キャッシュレス社会になった方がいいか」という問いへの回答を男女別、世代別に集計したものだ。

「キャッシュレス社会になった方がよい」と答えているのは、男性で約60%、女性で35%程度で、世代に関わらずほぼ一定している。それどころか、いちばんキャッシュレス社会に積極的なのは、男性で60代、女性で50代なのだ。



(「キャッシュレス社会になった方がよい」と答えた人の年齢別回答。世代を通じて「よい」と答えた人の割合に大差はない。むしろ、50代、60代の方がわずかではあるが高い。「キャッシュレス・ビジョン」(経済産業省)より作成)

それもそのはず、男性、女性ともに、年齢が高くなればなるほどクレジットカードの保有率が高くなる。

日本クレジット協会の「性別・年代別契約数」の統計によると、最もクレジットカードを持っているのは60歳以上で、おおむね、年齢が高くなれば高くなるほどクレジットカードの契約件数が大きくなる。JCBの調査「クレジットカードに関する総合調査」でも、世代別のクレジットカード保有率は年齢が高いほど大きい。



(クレジットカードの契約件数は年齢が高けれ高いほど多くなる。中高年、高齢者は多くの人の想像よりもクレジットカードを持っている。日本クレジット協会の統計より作成)

日本で、クレジットカードが広く使われるようになったのは、バブル経済期で、30年ほど前のことだ。この時、30歳だった人は今60歳になっている。中高年や高齢者は、決して「キャッシュレスを知らない世代」ではなく、むしろキャッシュレス決済の大先輩なのだ。

問題なのはむしろ、
「20代のクレジットカード離れ」

むしろ、それよりも問題なのは「20代のクレジットカード離れ」だ。これからカードを取得するのだとしても、20代男性の保有率66.1%はかなり低い数字で、しかも年々減少していると言われる。これは、キャッシュレス社会の実現に大きな障害となる可能性がある。



(世代別の所有率でも、年齢が高いほど所有率が高い。問題は20代の所有率の低さ。しかも、年々所有率は下がり続けている。「クレジットカードに関する総合調査」(JCB)より作成)

キャッシュレス決済は、その決済方法から「プリペイド」「リアルタイム」「ポストペイ」の3種類に大別できる。「プリペイド」は交通カードやコンビニなどの電子マネーで、あらかじめ現金をチャージしておくもの。「リアルタイム」はデビットカードなどで決済と同時に銀行口座から引き落とされるもの。「ポストペイ」はポストペイ型電子マネー、クレジットカードなどで、決済後の締め日にまとめて請求されるもの。どの方式を利用するにしても、便利に使うにはクレジットカードを紐づける必要がある。プリペイドであっても、オートチャージ機能を使うにはクレジットカードを紐づける。ポストペイに関しては、クレジットカードと紐づけることが前提になっている。

もし、クレジットカードを持っていないとすると、現在のところ、現金でチャージするプリペイド型電子マネーとデビットカードぐらいしか利用できない。

では、若者は電子マネーを使っているのだろうか。政府の「家計消費状況調査」によると、電子マネーの保有率は確かに50歳以下が高く、50代以上は年齢とともに保有率が下がっていく。しかし、1ヶ月の利用額を見ると、最も高いのはなんと60代になるのだ。これは「世帯主の年齢別」統計なので、世帯主が60代ではあるが本人は使ってなく、同居している息子や娘が使っているというケースもあることに注意しなければならないが、電子マネーも若者ばかりが使っているわけではなく、中高年や高齢者もかなり使っている。



(電子マネーの所有率。40代が最も高く、50代以降は急速に下がっていく。しかし、20代も決して高い方ではない。「家計消費状況調査」(総務省統計局)より作成)



(電子マネーの利用額を見ると、60代がいちばん多い。30歳未満は70歳以上よりも少ない程度。可処分所得が小さいこともあるが、これを見ると、「若者が使う電子マネー」というイメージは決して正しくないことがわかる。ただし、「使っている人の平均額」であることに注意。中高年、高齢者は電子マネーを保有している人が少ない割に、保有している人は積極的に使っているということになる。「家計消費状況調査」(総務省統計局)より作成)

プリペイド型電子マネーは中高年向き
ただし中高年はスマホ決済は苦手

実際、プリペイド型電子マネーは中高年向きなのだ。なぜなら、レジでの有人対応ができるからだ。チャージもレジでできるし、ポイント還元などの複雑な仕組みもレジで対応できる。わからないことがあれば、レジで尋ねればいい。さらに、年齢が高くなると、指先の感覚が鈍って扱いが煩わしくなる小銭を扱わなくてよくなる。財布を持ち、現金を主体に決済をするが、クレジットカードや電子マネーカードも入れておき、ちょっと値が張る買い物はクレジットカードで、コンビニやスーパーなどの細々した買い物は電子マネーを使うという、現金とキャッシュレスのハイブリッドスタイルが中高年に向いている。レジで「残高不足です」と言われたら、その場で5000円なり1万円なりを財布から出してチャージをすればいい。

一方で、Apple PayやGoogle Pay、LINE Payなどのスマホ決済は苦手だ。なぜなら、クレジットカードの紐づけなどの設定を自分一人で行わなければならない。スマホ決済では、スマホをかざすとともにパスワード入力や指紋認証を行わなければならなかったり、決済前にアプリを起動してQRコードを表示させなければならないなど、煩わしく感じる中高年は多いと思う。誰かが横について教えてくれるならともかく、これだけのことを自分一人でやろうとする中高年は多くない。そこまで手間をかけても、メリットはクレジットカードやプリペイド型電子マネーとそう変わらないので、手を出す動機としては弱い。

一方で、若者はこういった面倒な方式であっても、1度か2度使ってみれば、体が覚えてしまい煩わしさは感じなくなる。それよりは、決済が瞬時に済むとか、決済履歴が残る、ポイントがつくなどの利便性などに目がいくだろう。

キャッシュレス社会の推進の壁になっているのは、
実は若者が置かれている状況

しかし、若者は可処分所得が少ないので、プリペイド型電子マネーはあまり向いていない。なぜなら、事前に一定額をチャージしなければならず、チャージしてしまうと消費先が限定されてしまうからだ。例えば、こんな使い方をしている若者がいる。コンビニで256円の買い物をして、財布から260円の現金と電子マネーの両方を出す。そして、「260円をチャージしてください」と言って、電子マネーにチャージをし、それからその電子マネーで支払いをするのだ。電子マネーで支払うとポイントがつく、お釣りの小銭が出ないなどの理由もあるが、大きいのは「余計な金額をチャージしたくない」ということだと思う。特に、若者は複数のコンビニやスーパーを利用するので、複数枚の電子マネーカードを持っている例が多い。それぞれに1万円ずつチャージしておくというのはなかなか厳しいものがあるのだ。

チャージ金額が問題になるのであれば、プリペイド型電子マネーではなく、ポストペイ型の電子マネーを使えばいいのだが、それには紐づけるクレジットカードが必要で、そのクレジットカードを持っていない。

キャッシュレス社会の推進の壁になっているのは、中高年のせいではなく、実は若者が置かれている状況かもしれない。若い世代でもクレジットカードが取得しやすい環境を作るか、あるいは審査不要のデビットカード、あるいは銀行口座直結で利用できる電子マネー、スマホ決済を普及していかないと、5年後、10年後に、思ったようにキャッシュレス決済比率が高まらないということになりかねない。

問題は中高年よりも若者の置かれている状況なのだ。

原稿:牧野武文(まきの・たけふみ)

テクノロジーと生活の関係を考えるITジャーナリスト。著書に「Macの知恵の実」「ゼロからわかるインドの数学」「Googleの正体」「論語なう」「街角スローガンから見た中国人民の常識」「レトロハッカーズ」「横井軍平伝」など。

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