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「どこまで発展する!? 中国のびっくりIT最新事情」 第6回交通信号をAIが制御し渋滞を解消、アリババ本拠地・杭州が実験都市に
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「どこまで発展する!? 中国のびっくりIT最新事情」 第6回
交通信号をAIが制御し渋滞を解消、アリババ本拠地・杭州が実験都市に

2018.09.28

 
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中国はどこの都市に行っても、膨張する人口を吸収しきれず、地下鉄などの建設も間に合わず、それでいて自動車だけは年々増えていくため、ひどい渋滞と駐車場不足にあえいでいる。そうした状況の中、アリババ本拠地・杭州市で交通信号をAIが制御し渋滞を解消する壮大な実験が行われている。

牧野武文

風光明媚な中国浙江省杭州市は、
ジャック・マーこと馬雲創業のアリババの本拠地

中国浙江省杭州市は、西湖という湖を中心にした観光都市だ。あまりに風光明媚なその風景は、中国の文人墨客に愛され、著名な知識人は一生に一度は杭州を訪れ、水墨画に描いたり、詩を読んだりしている。その伝統は今でも生きていて、中国には珍しい静かで落ち着いた文化都市として、海外からの観光客も多い。

その杭州に、近年、新しい顔が付け加わった。その新しい杭州を作ったのは、馬雲(マー・ユィン)という人物。馬雲は、文化大革命の嵐が終わり、疲弊しきった1980年の中国で独学で英語を学んでいる高校生だった。馬雲はボロボロの自転車で西湖の周辺を巡っていた。オーストラリアの訪中団が杭州市にやってくるというニュースを耳にして、オーストラリア人と知り合いになって、自分が学んだ英語を実践してみたかったのだ。

そこで、同い年のオーストラリア人、デビッド・モーリーと知り合い、2人は生涯の友人となった。馬雲は、パスポート取得が難しい当時の中国で、モーリー一家の手助けもあり、オーストラリア旅行をし、見聞を広げた。

そして、馬雲は、杭州市でアリババドットコムというサービスを始めた。海外メーカーと中国の部品製造メーカーをインターネットでマッチングするサービスだった。このサービスは大当たりし、世界中のメーカーが中国製の部品を使うようになり、家電製品や電子製品の価格は劇的に下がっていった。

馬雲は、アリババドットコムのシステムを活かして、BtoB ECサイト「タオバオ」、BtoC ECサイト「Tmall」を始め、アリババは中国最大のEC企業となった。タオバオで取引の決済に使っていたポイントを、実店舗でも使えるようにし、QRコードスマホ決済「アリペイ」を普及させた。馬雲は世界的にも有名な経営者となり、英語名のジャック・マーとして知られるようになる。

アリババ系企業「アリクラウド」が実験する
「ET都市ブレイン」とは!?

このアリババ関連企業が、続々と杭州市に移転、創業し、杭州市は今や中国で最も先端テクノロジーが生まれる街になっている。杭州市政府も積極的で、市内全域で新しいテクノロジーの実験を行なっている。

文人墨客の風光明媚な古都は、今ではスタートアップを目指す若者たちの未来都市になっているのだ。

その杭州市で、アリババ系列の企業「アリクラウド」が大規模な実験を行なっている。中国の都市が抱える最大の課題である交通渋滞をなくそうとしている。方法は、人工知能(AI)で交通信号を制御するというもの。渋滞する交差点の信号切り換え時間を制御することで、渋滞を軽減する。信号切替時間と渋滞度を機械学習させていくことで、渋滞をなくしていこうとしている。

このシステムは「ET都市ブレイン」。主な機能は3つある。ひとつは信号を人工知能(AI)で制御して、渋滞を解消する。2つ目は監視カメラ映像を画像解析して、交通事故や交通違反を人工知能(AI)が自動認識する。3つ目は、救急車の経路にあたる信号を、救急車の移動に合わせて青に変え、救急車の到着時間を短縮するというものだ。

(交通監視カメラ映像を人工知能が分析。交通量や事故、違反などを自動識別する。)

渋滞を解消するには、道路の改善、車両の規制などの方法があるが、信号を柔軟に制御して解消しようというのがET都市ブレインの発想だ。

昨年7月から、杭州市で
ET都市ブレインの実証実験が開始

昨年7月から、杭州市でET都市ブレインの実証実験が始まっている。杭州市の中で最も渋滞がひどいと言われる莫干山路、高架道路の中河・上塘間で実証実験が行われた。莫干山路の試験運用区間には信号が32か所あり、導入後渋滞時間が8.5%減少し、この区間の通過時間は平均で1分短くなった。

高架道路の中河・上塘間は約22kmで、出入り口ランプが20か所ほどある。こちらも渋滞時間が15.3%減少し、通過時間は平均で4.6分短くなった。

また、新市街である蕭山区では、緊急車両の通過実験が行われた。100回以上の演習が行われ、緊急車両が通過する信号は次々と青になっていく。これで緊急車両の平均速度は50%上昇し、以前の半分以下の時間で現場に到着できるようになった。杭州市にはすでに約3600か所に交通監視カメラが設置されている。この画像もET都市ブレインが解析をして、交通事故や交通違反を自動識別する。ET都市ブレインがアラートを発すると、交通警察官が映像を確認し、緊急車両の指示を出したり、違反の処理をする。ET都市ブレインは、1代の監視カメラ映像の解析を約1分でこなしてしまうという。

(左の2台は停止をしており、動いている他の車が避けている。ここから2台が追突事故を起こしたと判断して、緊急車両などの手配をする。)

(緊急車両の通過経路は、緊急車両の移動に合わせて、交通信号がすべて青になっていく。安全に円滑に緊急車両が通行できる。現場到着時間は、以前の半分以下になった。)

今年9月にET都市ブレインは
2.0にバージョンアップ、大きな効果に期待

そして、今年9月、ET都市ブレインは2.0にバージョンアップされ、杭州市での本格運用が始まる。杭州市の中心部、余杭区の臨平地区と未来科技城地区を含む、合計420キロ平米に拡大される。この地区には、信号が1300か所あり、杭州市全体の1/4の信号が人工知能で制御されることになる。

試験運用は「線」での導入であったため、効果は限定的だった。しかし、本格運用では「面」での導入であるため、機械学習が進むと、大きな効果があがるのではないかと期待されている。

このET都市ブレインは、中国の他都市でも導入が検討されたり、試験運用が始まっている。また、マレーシアのクアラルンプールでも実証実験が始まっていて、試用区間での通過時間は、48.9%も短縮するという大きな成果をあげている。

中国はどこの都市に行っても、膨張する人口を吸収しきれず、地下鉄などの建設も間に合わず、それでいて自動車だけは年々増えていくため、ひどい渋滞と駐車場不足にあえいでいる。しかし、このET都市ブレインが成果をあげると、中国は渋滞のない国になるかもしれない。

原稿:牧野武文(まきの・たけふみ)

テクノロジーと生活の関係を考えるITジャーナリスト。著書に「Macの知恵の実」「ゼロからわかるインドの数学」「Googleの正体」「論語なう」「街角スローガンから見た中国人民の常識」「レトロハッカーズ」「横井軍平伝」など。

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