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アジアで大流行の『Tik Tok(ティックトック)』は、アプリデザインの生きた教科書
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アジアで大流行の『Tik Tok(ティックトック)』は、
アプリデザインの生きた教科書

2018.07.20

 
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「Tik Tok(ティックトック)」という動画共有サービスがアジアで大流行している。15秒ムービーを共有するSNSなのだが、大量の音楽が用意されていて、それに合わせて口パクや振り付けをすることで、音楽プロモーションビデオのようなショートムービーが簡単に作れる。なぜ、Tik Tokはここまで流行しているのか。

牧野武文

『Tik Tok(ティックトック)』が
アジアで大流行している理由とは!?

『Tik Tok(ティックトック)』という動画共有サービスがアジアで大流行している。15秒ムービーを共有するSNSなのだが、大量の音楽が用意されていて、それに合わせて口パクや振り付けをすることで、音楽プロモーションビデオのようなショートムービーが簡単に作れる。

2017年の「JC JK流行語大賞」にも選ばれ、2018年第一四半期のApp Storeでのダウンロード数は4580万回となり、世界で最もダウンロードされたアプリになった。日本、タイ、インドネシア、ベトナム、フィリピン、マレーシアのApp StoreまたはGoogle Playで1位を獲得している。



(若い女性の間で大流行しているTik Tok。流行っているのは日本だけでなく、アジア全域で大人気だ)

なぜ、Tik Tok(ティックトック)がここまで流行しているのか。そのカルチャー面からの解説は他にいくらでも適切な評論家がいると思うので、Geekroidではアプリデザインの視点からTik Tok(ティックトック)の図抜けている部分を紹介してみたい。

Tik Tok(ティックトック)が流行した最大の理由。それは、ビデオを作るというクリエイティブな作業をしなければならないのに、クリエイティビティをほとんど必要としない構造になっている点だ。クリエイティブのハードルが極端に低くなるように工夫されている。

誰でもビデオ作りに入っていけるのが、
Tik Tok(ティックトック)の特徴

Tik Tok(ティックトック)を起動すると、何もしなくてもおすすめのビデオが流れ始める。そして、誰にでも想像がつく操作=タップをするとビデオが止まる。誰にでも想像がつく操作=フリックをすると次のビデオが表示される。停止ボタンや再生ボタンなどはどこにもない。

おすすめビデオは、何を最後まで見たかが機械学習されるので、興味のあるビデオと類似したビデオが出てきやすくなる。これを10分ほど見ていると、曲によって振り付けがほぼ決まっていることがわかる。Tik Tok(ティックトック)は、ダンスやビデオをゼロからクリエイトするのではなく、基本は、すでにあるビデオの真似をすればいいのだ。真似をするときに、ほんの一部をアレンジする。その程度のクリエイティビティでじゅうぶん。だから、誰でもビデオ作りに入っていける。

Tik Tok(ティックトック)はビデオ撮影アプリとしても優秀だ。例えば、撮影ボタンというのは通常、タップすると撮影が始まり、もう一度タップすると撮影が終わる。しかし、Tik Tok(ティックトック)では、自分の手で持ってセルフィーカメラで撮影することも多い。この場合、タップ方式はうまくないのだ。左手でスマホを握り、右手の指でタップをする。すると、ビデオの冒頭に右手を引くシーンが写り込んでしまう。左手でスマホを握り、左手の親指でタップした場合は、スマホが一瞬揺れる。いずれにしても、冒頭のシーンを後でカットする必要が出てしまう。編集というのはビデオアプリでも最も難しく面倒な操作になりがちだ。

そこで、Tik Tok(ティックトック)では「長押し撮影ボタン」が用意されている。指で触れている間、撮影が行われ、指を離すとビデオ撮影が終了するというものだ。左手でスマホを握り、親指でボタンに触れ、ビデオ撮影を開始、指を触れたまま撮影を続ければいい。しかも、この撮影ボタン、指がずれていっても追従して動いてくれるのだ。Tik Tok(ティックトック)ではスマホを大きく振って撮影するようなパターンがある。指がずれたとしても、画面から指が離れない限り、撮影が中断されない。



(Tik Tok(ティックトック)の「長押し撮影ボタン」は、押さえている指の位置がずれても追従していく。ダンスをしながらセルフィー撮影するときにはなくてはならないインタフェースだ)

Tik Tok(ティックトック)には、
エンタメアプリには過剰なほどの技術が投入

こういうインタフェースというのは、デスクの上でいくら考えても思いつかない。このアプリを担当したデザイナーは、何度も自分で撮影をしてみて、改善を積み重ねてきたはずだ。

Tik Tok(ティックトック)にはエンタメアプリには過剰といってもいいほどの技術が投入されている。撮影時にリアルタイムでスタンプを合成することができるようになっている。例えば、猫の耳やヒゲが撮影対象者の顔の上に合成される。これはもはや珍しいことではない。

ところがTik Tok(ティックトック)のスタンプはずれることがないのだ。従来のアプリのリアルタイムスタンプは意外にずれる。しかし、Tik Tok(ティックトック)のスタンプは顔にしっかりと追従してきて、ずれることがない。

それもそのはずだ。Tik Tok(ティックトック)では、顔の目尻、鼻の頂点といった特徴点を常に106カ所抽出して、追跡をしている。これに合わせて、スタンプの位置を計算して合成しているので、スタンプがずれない。激しく動いても追従するし、顔を急に近づけても適切なサイズに拡大されて合成されるので、もはや本当に猫耳をつけているとしか思えない自然さを生む。



(撮影中に、顔や体にリアルタイムでスタンプを合成させることができる。過剰とも言える技術が投入されているため、ずれることがなく、自然なスタンプ合成が可能になっている)

一般的な顔認証システム(ドアロック解除や決済認証)などでの特徴点抽出は70カ所弱であると言われる。顔認証よりも精度の高い技術を投入し、しかもそれをビデオ撮影の中でリアルタイム処理しているのだ。

エンタメ系アプリの最大の課題「マンネリ」を克服

エンタメアプリには過剰な技術投入ではないかと思われる方もいるかと思うが、エンタメだからこそ、高度な技術が必要なのだ。「操作がよくわからない」「激しくダンスするとスタンプがずれる」。そういう技術的な制限を感じた時点で、利用者はつまらなく感じてしまう。エンタメだからこそ、利用者に技術的制限を感じさせず、エンタメだけに意識を集中してもらう必要があるのだ。

Tik Tok(ティックトック)を始めとするエンタメ系アプリの最大の課題は「マンネリ」だ。そこでTik Tok(ティックトック)では、流行が途切れなく起きているかのように演出する運営を行っている。どのような曲とダンスが流行っているかは、国によって異なっている。Tik Tok(ティックトック)運営元のバイトダンス社では、各国のビデオをウォッチする専門チームを設け、その国の流行ダンスをウォッチしている。そして、このチームは常に情報交換し、他国で流行したダンスで、自分の国でも流行りそうなものを取り入れて、オススメビデオに登場する頻度をあげる。



(Duraダンスと呼ばれるビデオは、最初中国で火がついた。これを運営元のバイトダンス社が他国にインポートしたところ、日本とタイでも大人気となった。こうして、流行が途切れない運営をしている)

つまり、A国での流行をB国にインポートしてみるという操作を常に行っているのだ。これをひとつの国だけで見れば、次から次へと新しいダンスが流行っているかのように見える。このドライブ感が利用者を惹きつける。Tik Tok(ティックトック)の世界では、秒速で流行が生まれているかのように見えるのだ。

Tik Tok(ティックトック)の成功は決して紛れ当たりではない。神運営と神アプリにより、狙って生み出した流行だ。もし、あなたがアプリ運営やアプリ開発関連の仕事をしようと考えているのであれば、ジャンルが違っても、Tik Tokはぜひ使ってみなければならない。今のところ、Tik Tok(ティックトック)はアプリ運営、アプリ開発の最強の教科書なのだ。

原稿:牧野武文(まきの・たけふみ)

テクノロジーと生活の関係を考えるITジャーナリスト。著書に「Macの知恵の実」「ゼロからわかるインドの数学」「Googleの正体」「論語なう」「街角スローガンから見た中国人民の常識」「レトロハッカーズ」「横井軍平伝」など。

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