ITエンジニアのための勉強会・イベントレポート情報メディア

「できるエンジニアがこっそり読んでいる傑作マンガ」第3回広い視野を持つための5作品
trend

「できるエンジニアがこっそり読んでいる傑作マンガ」第3回
広い視野を持つための5作品

2018.07.27

 
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

エンジニアがついつい陥りがちな視野狭窄。目の前のシステムの中に入りすぎて、そのシステムが世の中にとってどんな意味を持つのか、どのように役立つのか、どのような使われ方をするのかが見えなくなってしまう現象です。これが高じると、仲間内から絶賛されても、世の中からはまったく相手にされない独りよがりのシステムができあがってしまいます。

そこで、視野を広げる傑作マンガをご紹介していきます。いずれも気軽に読めるものばかりです。Kindleで電子化されていて、スマートフォンでいつでも読めるものだけに限定しました!(順位はあくまでも個人の主観です)。

牧野武文

第5位 ギャグ連発の大人の学習マンガ
『決してマネしないでください』


(蛇蔵著、講談社刊)

雑学がギュッと圧縮され、緩衝材としてキレキレのギャグが詰められた大人の学習マンガです。ちょっとマイナーだけど現代に大きな影響を与える科学者の簡単な伝記が軸になっています。第1巻に登場するのは、ラボアジエ、ゼンメルバイス、ジョン・ハンター、ニコラ・テスラなど。

ごく限られたページ数で科学者の功績を紹介するため、かなりの駆け足ですが、その駆け方がちょっとすごい。物の見方が普通じゃないんです。

例えば、ニコラ・テスラは、晩年、ウォーデンクリフタワーという巨大空中送電塔を建設して、世界中に空中送電して、フリーエネルギーの世の中を作ろうとしました。もちろん、この計画は失敗してしまいます。これに対して「テスラは世界中を電子レンジにしようとしたわけですか」という物騒なセリフが出てきます。それに対して、「衛星放送やWi-Fiもマイクロ波なので、電子レンジと同じ。でも、出力が違うので人が温まったりすることはない」という説明があり、「電子レンジと同じで水に吸収されるので、雨の日に移りにくいのはそのためです」となります。「そうだったのか!」となりますよね。知識の盲点になっているところを気持ちよく結びつけてくれる。そんなレベルの高い雑学マンガです。

第4位 エンジニアリングの源流に遡る
『ヒストリエ』


(岩明均著、講談社刊)

紀元前4世紀のギリシアを舞台にアレクサンドロス大王に仕えた書記官、エメネウスの数奇な生涯を描いた物語です。主人公のエメネウスは、小さい頃から利発で、奴隷の身分に落とされながらも、頭角を現してきます。その才能がとてもエンジニア的なのです。ボートを漕ぐ車輪のようなものを工夫したり、武器を工夫したり。エメネウスは常に対象を観察して、その構造を理解し、工夫をしていくのです。

エンジニアは現在では「モノやソフトウェアをうまく動くように工夫する人」ですが、すべての分野の科学が「哲学」というひとつのジャンルだったギリシア時代は、エンジニアリングもこの哲学の中に含まれていることがわかります。

現在とはまったく異なるギリシアの都市国家の世界、まったく異なる文化、そういう異世界に触れながら、エンジニアリングの源流に遡ることができるようなマンガです。

第3位 人口減少を解決する都市デザインが学べる
『テツぼん』


(高橋遠州原作、永松潔画、小学館刊)

鉄道オタクである主人公の仙露鉄男は、父親の地盤を継いで国会議員になってしまいます。でも、政治に興味はなし、興味があるのは鉄道だけなのですが、周りの人の誤解も手伝って、一目置かれる国会議員になっていくという物語です。ほのぼのギャグマンガ+鉄道豆知識のような構造なのですが、これが侮れません。かなり鋭い都市デザイン論が随所に出てくるのです。

例えば赤字が膨らむ地方ローカル私鉄。廃止してバスに転換する計画が進みますが、鉄道オタクの仙露議員は、デュアルモードビークル(DMV)=線路と道路の両方を走ることができる車両の導入を提案します。DMVの定員は鉄道車両よりも少ないので、運転間隔を短くする必要があります。必然的に15分間隔以下のフリークエント運転になり、沿線住民にとって利便性が高まり、乗客が増え、赤字解消ができる。人口減に対しては、地元建設会社が住宅開発をすればいい。知名度が必要であれば、ローカル鉄道会社を買収して、そちらに社名変更してしまえばいい。鉄道会社は小さくても赤字でも知名度と信頼度はバツグンなのです。

確かに鉄道オタクの机上の空論なのかもしれませんが、決して実現できない話じゃない。人口減少に悩む地方を鉄道で救うという話も感動的です。地方の課題は10年後の日本全体の課題です。このマンガから、日本を救う都市デザインのアイディアをたくさん学ぶことができます。

第2位 腐った政治に数学の力で切り込む
『アルキメデスの大戦』


(三田紀房著、講談社刊)

舞台は第二次世界大戦前夜の海軍ですが、現在の日本の課題に通じる問題が扱われています。海軍の中で、すでに時代遅れの考え方である大艦巨砲主義派は、巨大戦艦「大和」の建造計画を進めます。しかし、新しい考え方である航空主兵主義派(航空母艦を建造して、制空権を掌握する)は、この巨大戦艦建造計画を阻止しようとします。

航空主兵主義派がその切り札として目をつけたのが、東大数学科の天才、櫂直(かい・ただし)です。櫂直は、大艦巨砲主義派が提出してきた大和の建造費見積もりに疑問を抱きます。正確な見積もりより安く提出して、計画を承認させてしまう。建造を始めてしまえば、追加予算を認めざるを得なくなる。櫂直は、大和の正確な見積もりを算出し、いかにお金のかかる計画であるかを上層部に訴えようと考えます。

しかし、櫂直は戦艦建造に関しては素人。そこで数理統計学の知識を活かして、鉄1トンあたりの建造費を算出します。小さな水雷艇などは総トン数は小さくても、複雑なので1トンあたりの建造費は高くなります。戦艦は総トン数は大きくても、構造が単純なので1トンあたりの建造費は安くなります。櫂直は、過去の建造費実績から、この波動曲線の方程式を求め、そこから大和の建造費を割り出そうとします。

保守的な人たちが、非合理的な決断をしていく。そこに合理的な決断を通すために、櫂直は数学を使って、有無を言わせない裏付けを割り出していく。保守対数学。現代にも通じる合理的思考が学べるマンガです。

第1位 何もかもがカッコいい文句なしの傑作
『宇宙兄弟』


(小山宙哉著、講談社刊)

このマンガはズルすぎます。宇宙、宇宙飛行士、NASA、JAXA、月への有人飛行という道具立てを使って、面白くならないわけがありません。男の子だけでなく、女の子でも、宇宙兄弟に夢中になってしまうはずです。

前半は、先にNASAの宇宙飛行士となった弟の南波日々人、出遅れてしまった兄の南波六太の話が中心になって展開しますが、徐々に魅力的な登場人物が加わっていき、物語世界がどんどん豊かになっていきます。

宇宙に少しでも憧れを抱いたことがある人にとっては、あらゆる場面がかっこよすぎてため息ばかり出てしまうほどですが、作者独特の脱力ユーモアが散りばめられて、ちょうどいい息抜きになって、リズム感よく気軽に読んでいけるようになっています。

でも、エンジニアなら、さらっと登場する数々のツールに注目してほしい。月面移動車、月面に設置する電波天文台など、思いつきではなく、実用性が相当に深く考えられたものになっています。作者が綿密な取材とブレーンの助言を受けているのだとは思いますが、いずれも現実の宇宙開発に使われてもおかしくないものばかり。こういう道具に注目しながら読むと、またひとつ深く楽しむことができるようになります。エンジニアなら誰でも絶対面白いと思う、文句なしのエンターテイメントです。

原稿:牧野武文(まきの・たけふみ)

テクノロジーと生活の関係を考えるITジャーナリスト。著書に「Macの知恵の実」「ゼロからわかるインドの数学」「Googleの正体」「論語なう」「街角スローガンから見た中国人民の常識」「レトロハッカーズ」「横井軍平伝」など。

「できるエンジニアがこっそり読んでいる傑作マンガ」第3回広い視野を持つための5作品

この記事はどうでしたか?

おすすめの記事

キャリアを考える

BACK TO TOP ∧

FOLLOW