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「どこまで発展する!? 中国のびっくりIT最新事情」第4回出前は空を飛ぶ!? 上海市で始まったドローン配送
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「どこまで発展する!? 中国のびっくりIT最新事情」第4回
出前は空を飛ぶ!? 上海市で始まったドローン配送

2018.07.17

 
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中国のITは猛烈な勢いで進化をしていて、もはや日本は背中を追いかけるどころか、背中が見えない状態にまでなろうとしている。中国の凄いところは、「どんどん実戦投入してしまう」点だ。その一つの例が、ドローンによる料理やコンビニ商品の配送サービスだ。

牧野武文

食べる人に代わって料理を買いに行き、
自宅まで届ける「外売」サービス

中国の町を訪れると、黄色や青の制服を着た人が忙しそうに電動スクーターで走っている姿を見かけるはずだ。彼らは料理の出前をしている。「外売」と呼ばれるサービスだ。中国の料理店では、昔からお持ち帰りサービスをやっている。食べ残した料理を包んでくれて、持って帰れるのだ。そのため、多くの中国人は、持って帰ること前提で大量の料理を注文する。また、昼時などには、水餃子や小籠包などのテイクアウト販売をする料理店も多い。「外売」サービスは、このような料理店に行って、料理を買い、自宅まで届ける「買い物代行サービス」だ。

特定の料理店に所属している出前ではないので、スマートフォンアプリからほとんどの料理店の料理が注文できる。もちろん、A店の○○とB店の○○という組み合わせ注文も可能だ。配達料は、料理店によって異なるが、だいたい10元(約180円)前後。配達料が安いこともあって、広く普及している。

そのため、「外売」サービスを提供する企業の業績も絶好調だ。最大規模の美団(メイトワン)は、先ごろ、香港市場に上場を果たした。また、第2位の餓了么(ウーラマ、お腹すいたでしょ?の意味)は、巨大企業アリババに買収された。さらに、ライドシェア大手の滴滴出行(ディーディー)も新規参入を果たし、激しい競争をしている。

(中国の街のどこでも見かける外売のバイク。この他に黄色をブランドカラーにした美団も有力。さらに、ライドシェア大手の滴滴出行も新規参入し、競争が激化している)

「外売」サービス、
最近ではコンビニやスーパーにも対応

そのため、各社とも料理以外の買い物代行に守備範囲を広げている。以前から、生花、医薬品などにも対応してきたが、最近ではコンビニやスーパーにも対応するようになってきている。特に、今年3月から北京、上海など10都市で、中国ファミリーマートとウーラマの提携が話題になっている。スマホから注文することで、コンビニの商品を24時間宅配してもらえるのだ。配達料は5元(約85円)、最短30分で配達してくれる。

特に、スーパーや商店が終わる午後10時以降の深夜帯の注文が多く、ファミリーマートでは、すでに深夜帯の売上は、来店客売上よりも宅配売上の方が多くなっているという。売れるものは、ミネラルウォーター、烏竜茶、アイス、ポテトチップといった定番商品が主体だ。

さらに、ウーラマはアリババが展開するスーパー「フーマフレッシュ」の宅配も行い、中国での買い物は、「スマホ注文→宅配」という新しいスタイルが定着しつつある。

(ウーラマのアプリ。アプリ内から、近所の料理店の料理が注文できる。利用者レビューの機能もあり、もはや外食は食べにいくものではなく、届けてもらうものになり始めている)

外売配達員の報酬の低さや
交通事故の多さが課題

しかし、同じことを日本でやろうとすると、さまざまな課題に直面する。まず、配達料だ。外売の配達料はとても安い。これはつまり、外売配達員の報酬が低く抑えられているからに他ならない。配達員の報酬は完全歩合。そのため、生活できるレベルの給料を稼げる配達員は、頭を使うか、体を使うかして、配達数をこなしている。

北京、上海などの大都市では交通警察の指導が厳しくなり状況は改善されたが、二級都市などにいくと、外売配達員のスクーターはちょっとした暴走族だ。信号は守らない、歩道を爆走する、歩行者を蹴散らす。あまりの傍若無人ぶりに、市民からの苦情も相次いでいるという。

当然、交通事故も多い。それも日本人が想像するレベルを超えていて、ひとつの都市で1年に50人程度の外売配達員が死亡するというのが一般的だ。つい最近も、上海市では昨年、2.5日に1人の割合で外売配達員が死亡していたという記事が話題になった。危険をはるかに通り越した命がけの仕事なのだ。

課題解決のためドローン導入、
上海の繁華街と工業園地域をドローンで結ぶ

外売企業もこの問題には、頭を悩ませている。そのため、ドローンの導入が始まっている。

上海市金山工業園は、上海市の西南の外れ、杭州湾に面した臨海地域にある。工場や企業本社ビルなどが並ぶ開発地域で、多くの人が働いている。しかし、問題は、近所にレストランがあるような繁華街がないということだ。そのため、外売サービスを利用して、お昼を出前させる人がとても多い。

繁華街までは2kmから4km程度離れていて、外売配達員は注文が入るたびに、この距離を往復しなければならない。これが配達時間がかかることになっていたし、バイクの速度超過にもつながり、配達員の安全上の問題も起きていた。

そこで、繁華街と工業園地域をドローンで結んだ。17の飛行ルートを設定し、約100軒の料理店が提携をした。料理店に注文が入ると、料理店スタッフが専用ボックスに料理を入れる。これを配達員が回収、ドローン発着ポイントに運び、ドローンで飛ばす。ドローンは工業園内にある配送拠点に着陸し、そこで待ち構えている配達員がバイクで各配達先に運ぶという手順だ。つまり、ドローンで配達先まで運ぶのではなく、長距離になる中間部分をドローンで中継させるという考え方だ。

しかし、これで全配送ルートの70%がドローンで置き換えられ、配達員がバイクで走る距離は、平均で15%程度まで激減したという。配達員はそれだけ注文数をこなすことができ、報酬アップにもつながる。

ITの力を使い、深刻な社会問題を
解決していくのが今の中国の強み

ウーラマでは「このドローン配送は、ウーラマの未来物流戦略の第一歩です。私たちは労働集約企業から、技術集約企業に進化します」と、メディアの取材に答えている。

さらに、ウーラマでは、ビル内を自動で移動する運搬ロボットの開発も進めている。配達先の部屋を認識し、自分でエレベーターに乗って、適切な階に移動することもできるという。年内には、500のオフィスビルでの試験運用を開始する予定だ。

中国のITは猛烈な勢いで進化をしていて、もはや日本は背中を追いかけるどころか、背中が見えない状態にまでなろうとしている。と言っても、中国の技術力や発想力が日本を大きく上回っているわけではなく、中国の凄いところは、「どんどん実戦投入してしまう」ところだ。

ドローン配送も墜落した場合などの保険も新設して手当てをしているが、日本人の感覚では補償をすればいいという問題ではない。万が一、それが人的被害を与えた場合、企業の道義的責任も厳しく問われることになり、なかなかドローン配送の実戦投入には踏み切れない。

ところが中国では「何千万分の1でしか起こらない事故を気にして、50人の配達員の命を見捨てるのか」という論法が成立する。劣悪な社会環境が残されているからこそ、思い切った進化が可能になっているのだ。それが幸せなことなのか、不幸なことなのかはわからない。しかし、中国は、オセロのコマをひっくり返すように、今後も、ITの力を使って、深刻な社会問題を解決していく。それが今の中国の強みになっている。

原稿:牧野武文(まきの・たけふみ)

テクノロジーと生活の関係を考えるITジャーナリスト。著書に「Macの知恵の実」「ゼロからわかるインドの数学」「Googleの正体」「論語なう」「街角スローガンから見た中国人民の常識」「レトロハッカーズ」「横井軍平伝」など。

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