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「どこまで発展する!? 中国のびっくりIT最新事情」第1回中国から現金が消えた?スマホ決済「アリペイ」「WeChatペイ」の衝撃
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「どこまで発展する!? 中国のびっくりIT最新事情」第1回
中国から現金が消えた?スマホ決済「アリペイ」「WeChatペイ」の衝撃

2018.04.27

 
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中国で「アリペイ」や「WeChatペイ」などのスマホ決済が普及しているのは、中国からのインバウンド観光客の増加などによって知られてきている。だが、中国のIT技術・サービスはこれにとどまらず、日本人の想像を超えるスピードで発展している。本連載では、日本人の多くがまだ知らないような中国のIT事情について連載形式で掲載する。

牧野武文

街から現金が消えた中国の都市

中国で、スマートフォンを使ったQRコード方式決済が進んでいるという話はテレビや新聞などどこかで耳にされたこともあるだろう。しかし、実際に中国の都市を訪れてみると、その普及ぶりが想像以上であることに驚くはずだ。なにしろ、紙幣や硬貨をほとんど目にしない。街から現金が消えてしまったかのようだ。現金決済をしているのは、海外や地方からの旅行者ぐらいで、都市の住民はほぼすべてがスマホ決済。道端にスイカを並べて売っている露天商すらスマホ決済に対応しているし、駐車違反のキップにもQRコードが印刷されていて、その場でスマホ決済して罰金を支払えば、警察に行かずに済む。

全国でも70%を超えるキャッシュレス決済比率

スマホ決済のツールはいくつもあるが、人気が高いのは杭州市に本社のあるアリババが運営している「アリペイ(Alipay)」、そして深圳市に本社を置くテンセントが運営する「WeChatペイ(WeChat Pay)」。多くの店舗、サービスがこの2つのスマホ決済アプリに対応し、ほとんどの市民がこの2つをスマートフォンに入れて使っている。

統計によると、中国のキャッシュレス決済比率は70%強だが、これはスマホ決済がこれから普及をする農村部まで含めた統計なので、大都市に限れば間違いなく90%を超えている。
よく中国人は「スターバックス以外どこでも使えるよ」と教えてくれるが、そのスターバックスすら、昨年、アリペイとWeChatペイに対応した。

(WeChatペイアプリの画面。スマホ決済アプリを使うには、中国の身分証番号による認証が必要なので、日本人が使うことはできない。ただし、WeChatペイは、国際クレジットカードでの認証もできるようになった。それでも、中国国内の銀行口座がないとチャージができない。中国人の知り合いに現金を渡して、WeChatペイで送金してもらう方法でチャージする必要がある。)

日本で電子決済が普及しない最大の原因は
「決済手数料」

一方、日本のキャッシュレス決済比率は20%前後にとどまっている。政府は、2025年までにこれを40%に引き上げたいとしているが、目標達成はなかなか厳しいものがある。

なぜ、日本では電子決済が普及しないのか。理由は決済手数料にある。商店がクレジットカードや電子マネーに対応をすると、決済額の3%から5%程度が手数料として、クレジットカードや電子マネーの運営会社に取られることになる。これは個人商店では決して小さくない額だ。レストランが、1000円のランチを販売したとして、実際の実入りは950円。50円の手数料を支払わなければならない。

例えば、レストラン検索サイトで、近所のレストランを検索してみていただきたい。繁華街では多くの店がカードや電子マネーに対応しているが、住宅地の中にある個人経営のレストランでは、ほとんどが「支払方法」の欄が記載なしになっている。これは、カードに対応はしているものの、積極的にそれをアピールしたくないからだそうだ。ある個人経営の店主は、「カード決済のお客さんが3割を超えたら、値上げをせざるを得なくなる」と言う。かと言って、常連客を逃さないために電子決済には対応しておきたい。そういうジレンマがあるという。

加盟店になるには、クレジットカード会社などの信用審査を受ける必要があり、さまざまな書類を用意しなければならず、これも個人経営店にとっては小さくない負担だ。さらに、国際的なセキュリティ基準に適合したPOSレジとカードリーダーを購入しなければならない。

手間をかけ、お金をかけ、挙げ句の果てに売上を数%削り取られる。客数が大幅に増加するのでなければ、対応したくないと考える店主が多いのもうなづける。

日本の電子決済は、百貨店、モール、価格帯が高めのレストランなどでのクレジットカードやコンビニ、スーパーが独自発行している電子マネー、鉄道会社などが発行する交通カードに限られていて、それぞれの店舗以外では、どの方式の電子決済が使えるのかがわかりづらいため、結局現金で支払ってしまう。これが、日本のキャッシュレス比率が伸びない理由だ。

中国では手数料ゼロだから普及をした

中国でスマホ決済が急速に普及した理由。それは決済手数料が不要だからだ。加盟店になるのに審査も不要。自分のスマホから公式サイトにアクセスをして、アカウントを作成すればすぐに使える(身分証の番号の入力は必要)。レジはあってもいいが、客数が多くないのであればスマホだけでも対応できる。

個人店主にしてみれば、なんのデメリットもないので、対応して損はない。こうして、大手チェーン店だけでなく、個人商店までがキャッシュレス決済に対応し、例えば露店の焼き芋店ですら利用する状況が生まれた。利用者は、「アリペイ」や「WeChatペイ」をどこでも使えるのだから、これらのサービスをどんどん利用するようになる。今や、大都市では、50元札を1枚だけ、何かがあった時に帰宅するためのタクシー代としてバッグの中などに入れておき、それ以外は現金も財布も持ち歩かないという人が主流になっている。

決済手数料ゼロでも利益が出る秘密

しかし、アリペイやWeChatペイは決済手数料を取らずにどこで利益を得ているのだろうか。それは付帯する消費者金融機能だ。中国は広大であるため、金融機関が個人の与信情報(※その人にお金を貸していいかどうかの基準となる金銭の貸借などの信用情報)を生成するのがきわめて難しかった。極端なことを言えば、北京の人が借金をして上海に夜逃げしたら、探し出すことは難しいし、追いかけていくコストもばかにならない。そのため、中国では国際的なクレジットカードがほとんど普及しなかった。

スマホ決済に付帯している消費者金融機能には、直接お金を借りる機能もあるが、人気になっているのは、「分割払い」や「リボ払い」に相当する機能だ。日本人にとっては、クレジットカードでおなじみの機能だ。「アリペイ」や「WeChatペイ」の運営会社にとって、この利子収入が大きい。

また、スマホ決済の支払い履歴から、かなり正確にその人の信用度を計算することができ、アリペイでは「芝麻信用」という機能を搭載している。これは、支払い履歴などからその人の社会的な信用スコアを算出するもので、一定得点以上であると、自動車ローンや住宅ローンが審査なしで組めたりする。与信情報を生成するのが難しかった中国では、それまで住宅ローンも多くの場合10年ローンが多く、月々の返済額は高くなり、過剰な負担になっていた。マンションを買った人は「房奴族」(部屋の奴隷)と言われることもあった。これも芝麻信用が一定得点以上あれば、長期ローンが組めるようになったため、「房奴族」の数は減少傾向だという。

生活ポータルとなっている決済アプリ

さらに、「アリペイ」や「WeChatペイ」の決済アプリがあれば、ほとんどの生活関連サービスが利用できるのも大きな利点だ。光熱費、税金の支払い、飛行機、列車、タクシー、ホテル、映画、病院などの検索や予約が可能。もちろんそのまま決済ができる。このようなサービスの場合、業者から数%の紹介料をとる。さらに、信用スコアを業者に送信することもでき、これも利用料をとる。

(航空機や新幹線などのチケットはアプリ内から検索をして、そのまま購入できる。中国人にとって、アリペイ、WeChatペイアプリは、すでに生活ポータルアプリになっている。)

サービス提供業者としては、信用スコアの高い優良顧客をつかみたい。予約と同時に決済もする先払い方式なので、いわゆるドタキャンをされた場合でも、顧客には、規定のキャンセル料を引いて返金すればいい。業者にとってはさまざまなメリットがあるので、数%の紹介料を支払うだけならば納得が行く。スマホ決済企業はこのような付帯サービスの収入で利益をあげている。

(アリペイの付帯サービスのいろいろ。これで全体の1/3程度にすぎない。アリペイは金融系の機能が充実している。)

「マネタイズは後から考える」
ITサービスの王道をいく中国企業

銀行業界も遅ればせながら、QRコードスマホ決済「ユニオンペイ」のサービスを始めているが、シェアはなかなか伸びていない。手数料方式のビジネスモデルであるため、加盟店が遅々として増えないからだ。

一方で、アリペイを運営するアリババ、WeChatペイを運営するテンセントはともにIT企業であり、金融系企業ではない。考え方は、他のITサービスと同じように、「まず普及を最優先したデザインにし、マネタイズは後で考える」と言うものだ。アリペイはすでにアカウント数が5億人を超えている。決済手数料を取らなくても、付帯サービスからの収益で十分運営できる状態になっている。

IT、特にモバイルが生活サービスの中心になって、最も大きな変化は、他の分野の企業が参入してきて、その業界をリードするという現象だ。中国のスマホ決済は、銀行という伝統的な決済企業を脇役に回し、金融業界をIT企業がリードすることになった。あるい意味、典型的なITサービスの成功例なのだ。

原稿:牧野武文(まきの・たけふみ)

テクノロジーと生活の関係を考えるITジャーナリスト。著書に「Macの知恵の実」「ゼロからわかるインドの数学」「Googleの正体」「論語なう」「街角スローガンから見た中国人民の常識」「レトロハッカーズ」「横井軍平伝」など。

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