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小学校でのプログラミング教育必修化へ--先生を支援するICT支援員がいない!
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小学校でのプログラミング教育必修化へ--
先生を支援するICT支援員がいない!

2018.04.24

 
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2020年度から、小学校でのプログラミング教育が必修化される。だが、この教育を行う上で障害となっているのが、学校の先生と一緒になって授業のプランを組み立てる「ICT支援員」の圧倒的な不足だ。

牧野武文

ICT支援員とは!?

ICT支援員という新しい職業をご存知だろうか。全国の小中高校で、デジタル技術の専門家として、ICT活用授業を展開する教師を支援をする仕事だ。ICT技術に対する専門知識が必要なのはもちろん、教育についても一定の知識が必要な複合領域に渡る新しい職業だ。

しかし、現実には、人材が圧倒的に不足していて、これが日本のICT教育推進の大きな障害になっているとすら言われる。

模擬テレビ番組を制作するイマドキの国語の授業

新しい学習指導要領では、プログラミング教育が2020年度から小学校で、2021年度から中学校で、2022年度から高校で必修化をされることになった。このプログラミング教育では、プログラミング言語を学ぶというよりは、力点はアルゴリズム(プログラミング思考)にある。これは技術・家庭、情報などの専門科目だけでなく、一般教科でも取り入れられる。例えば、算数では解法を比較したり、国語では論説文の論旨をフローチャート化して理解するなどだ。

同じく、ICT教育(Information and Communication Technology=情報通信技術を活用した教育)も全科目で取り入れられている。これもタブレットやPCなどのデジタルツールの使い方を学ぶでのはなく、一般科目の中で、デジタルツールを使って、調べ物をしたり、考えをまとめたりして、教科をより深く学ぶことを目標にしている。

例えば、国語の授業で、小説の読解を学ぶとする。まずは通常の授業と同じように、漢字の学習、語句の意味の把握、朗読などをやった上で、班に分かれて課題が与えられる。それはインタビュー番組を作るというものだ。1人 が小説の登場人物役、1人がインタビューアー、1人が監督兼カメラマンとなり、3人で台本を作り、タブレットの動画撮影機能を使い番組を撮影し、それをクラスで批評し合う。

番組は、バラエティ風にしてもドキュメンタリー風にしても、創意工夫を凝らしてかまわない。唯一の条件は、登場人物の台詞は、小説に基づかなければならず、創作するにしても、合理的な推論による裏付けが必要とされる。そのためには、課題の小説を繰り返し真剣に読まなければならず、また小説の舞台となっている年代の社会状況を図書館やウェブなどで調べなければならない。これが深い学びに繋がるというのだ。

「マインドクラフト」で
歴史的建造物を再現する授業

また、ある小学校では、サンドボックスゲーム「マインドクラフト」を授業に活用している。マインドクラフトは、バーチャル空間の中で、積み木を使って、建築物などを自由に作れるというサービスだ。ネットサービスなので、同じ空間の中で共同作業ができるという点が特長だ。

例えば、奈良時代の建築物を再現するとする。本殿担当の班、五重の塔担当の班、一般家屋担当の班などに分かれ、ブロックを積んでいく。適当に作るのではなく、事前に建築物の詳細な構造を図書館やネットで調べ、設計を考えておく必要がある。

このような作業で、プロジェクト進行や共同作業などの力がつくだけでなく、歴史に対しても深い理解ができる。

プレゼンも堂々と積極的に行う
イマドキの子どもたち

地域学習も盛んに行われている。自分たちが住んでいる地域について学ぶもので、商店街にいって、どんな商売がどのように行われているのかを調べる学習が定番になっている。協力してくれる商店主を取材し、生徒たちはタブレットでメモを取り、インタービュー音声を録音し、写真と動画を撮影する。これをパワーポイントのようなアプリでまとめ、教室のプロジェクターに投影をして、クラスの前でプレゼンテーションを行う。

人前で話すことに臆したり、モジモジするような生徒はほとんどいない。理由は簡単で、授業を重ねる中で数多くのプレゼンを行っているので、慣れっこになっているのだ。堂々と、時にはジョークまで交えてプレゼンする小学生を見ていると、日本の未来は明るいとすら思えてくる。

このような学習方法はアクティブラーニング(生徒の主体的な学習)と呼ばれ、そこでは教師の役割も以前の「与えた問題の正解を教える人」から「生徒の学びを促す人」=「ファシリテーター」に変化をしている。現在の教育は「正しい知識を持っている人」を育てるのではなく、「自ら課題を発見し、デジタルツールを駆使して、課題解決ができる人」を育てようとしているのだ。

教師と一緒にICT授業をデザインするICT支援員

しかし、残念なのは、こういった先進的な学習を行っている学校はまだまだ少数派だということだ。文部科学省は、ICT教育をすべての学校に導入していく目標を立てているが、ネックとなっているのが、ICT支援員の人材不足だ。

教師は学校での教育方法や教える内容は大学で教わっているが、デジタルリテラシーは人によって大きく異なる。デジタル機器やソフトの使い方などに関して、教師のサポートをするのもICT支援員の仕事だが、より重要な仕事は、デジタルツールをどのように使えばどのような学習効果があるのかを教師に示し、教師と一緒になって授業計画を立案することだ。これがICT支援員の最も重要で、最も能力が問われる仕事になる。

また、場合によっては授業のサポート要員として教室に入ることもあり、コミュニケーション能力も必要だ。技術を専門用語で説明するのではなく、日常用語で説明する力も必要になる。

雇用が安定しないことが最大の課題

そんなに素晴らしい仕事なのに、人材不足が問題になっている。報酬は一般的な水準だが、雇用の不安定さが課題になっている。

ICT支援員の雇用は、主に3つのパターンがある。一つは、各地方自治体の教育委員会が採用し、地域の学校に派遣するパターン。多くの場合、国の実証事業、支援事業の交付金を使って、タブレットなどの機材購入の他、ICT支援員の人件費も捻出している。このような国の事業は1年から3年の期限があるため、その後は地方自治体の予算からICT支援員の人件費を確保しなければならない。この調整がうまくいかず、国の予算がなくなるとICT支援員の人数を削減しなければならないという危機に直面している自治体もある。

2つ目は、教育関連の民間企業が雇用をし、学校に対して人材派遣サービスとしてICT支援員を提供しているパターン。民間企業なので雇用は安定しているが、その企業の方針によって、働きがいは大きく違ってくる。残念なことだが、現場で「機器の修理屋さん」「便利屋さん」扱いされてしまう例もごく少数だがないわけではない。その企業の方針や実情をよく見極めることが重要だ。


「内田洋行ICT支援員サービス」(出典:内田洋行ホームページ)

3つ目は、私立学校が直接雇用するパターン。募集枠は極めて少ないものの、私立学校はICT教育を生き残りのための重要戦略に定めているところが多く、要求されることはシビアだが、それだけ充実した仕事ができる可能性が高い。

子どもたちの笑顔は、教育関係者が得られるご褒美

ICT支援員は授業をするわけではないので、教員免許は不要で、支援員になるための必須の資格というものはない。しかし、教育情報化コーディネータ認定員会では、毎年、「ICT支援員能力認定試験」を開催している。民間資格だが、地方自治体の中には、応募の条件として、この資格の取得を前提にしているところもあるようだ。


「教育情報化コーディネータ検定試験」

資格取得のガイドブックにあたる「わかる・なれるICT支援員」という書籍も出版されている。この職業に興味を持たれた方は、まずこの書籍を読んでみると、どのような仕事なのか、どのような求人があるのか、概要がつかめるはずだ。


「わかる・なれるICT支援員」

ICT支援員は、技術と教育の境界領域にある新しい職業だ。手取り足取り教えてくれる先輩も存在せず、自分の創意工夫で乗り越えていかなければならないことがたくさんある。とてもハードな仕事だが、その分、やりがいは大きい。子どもたちが新しい体験をした時に見せてくれる笑顔。これは他の職業ではなかなか得られないICT支援員のご褒美だ。

原稿:牧野武文(まきの・たけふみ)

テクノロジーと生活の関係を考えるITジャーナリスト。著書に「Macの知恵の実」「ゼロからわかるインドの数学」「Googleの正体」「論語なう」「街角スローガンから見た中国人民の常識」「レトロハッカーズ」「横井軍平伝」など。

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