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スタジアム・アリーナを起点に描く日本のスポーツビジネス
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スタジアム・アリーナを起点に描く日本のスポーツビジネス

2018.01.11

 
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11月9日、TECH PLAYとその学生部主催のイベント「スタジアム・アリーナを起点に描く日本のスポーツビジネス」に参加してきた。3年後にオリンピックを控えた今、スポーツビジネスは盛り上がりを見せている。その中でもスタジアム産業は市場規模の拡大など大きな目標を抱えており、注目すべき分野であると言えよう。
しかしスポーツビジネスやスタジアム・アリーナの世界は世間の印象として不明確なものというイメージが拭いきれず、またその関係者でさえも答えがない中で経営にもがき苦しんでいる。本稿では、その現状を変えるべく集まった4人の登壇者によるパネルディスカッションの内容をレポートしていく。地域や自治体との関わり合いが重要となってくるスタジアム・アリーナの未来に革命を起こすことはできるのか。

金沢 芽衣

今回はSPOLABo執行役員の石井宏司氏をモデレーターとし、栃木ブレックス取締役副社長の藤本光正氏、栃木SC代表取締役社長の橋本大輔氏、サッカー国際審判員の當麻政明氏、スポーツファシリティ研究所代表の上林功氏の4人がパネラーとして登壇した。

プロスポーツ経営から見た
スタジアム・アリーナ改革「本音・現実・夢」

プロスポーツチームは地域との関わりが非常に重要となってくる。プロバスケットボールチームの経営者藤本氏とプロサッカーチームの橋下氏はその厳しい現状も含め、今後どのようにチーム経営を進めていきたいかを語った。

藤本氏の経営する栃木ブレックスは日本人初のNBAプレーヤー田臥勇太選手も所属するチームであり、今年にはプロバスケットボールBリーグの初代王者に輝いた。また「日本のバスケット界をリードするチーム」、「地域密着で栃木を元気にして盛り上げるチーム」、「非日常のエンターテインメントを提供するチーム」の3つのビジョンを掲げて日々活動を続けている。
どのスポーツチームにもおけることだが、試合をするには場所がなくてはならず、スタジアム・アリーナとスポーツを切り離すことはできない。そこで大きく関わって来るのが自治体の存在である。彼らが普段利用しているスタジアムやアリーナ(土地)の用意・管理は全て自治体の仕事なのだ。そしてスポーツチームが自治体から試合会場を借りるという形は変えられないことが本テーマの「現実」の部分に深く関わってくる。
栃木ブレックスが借りている場所はごく一般的な市民体育館だが、これが試合で使うとなるとネイビーを基調としたスタジアム会場に一変する。この空間を作るには半日以上の時間と総勢50〜70人ほどの人員を割いているという。しかし、毎回試合の度に設営を行うのは言うまでもなくとてつもない時間と労力を割く。少しでも楽にしたいとひな壇のステージや椅子などの設置を自治体に依頼するも、”公共性”という部分で中々実行されない。したがってステージから椅子の配置、ネイビーのフロアやプロジェクションマッピングの演出の用意も全てチームで行なっている。何故ここまでするのか。これは栃木ブレックスが掲げるビジョンのひとつ、「非日常のエンターテインメントを提供するチーム」を徹底するためだ。「NBAのチケットは高額だが、試合が始まる前には既に半分くらい元が取れた気持ちになる。アリーナに一歩踏み入れコートが広がっているのを見たとき、ゾクゾクとくる。この独特の雰囲気は日常では味わえない」と藤本氏は言う。そこにお金を払う価値があると考えるからこそ、栃木ブレックスも非日常の空間をファンに届けたい。バスケット界全体が変革の時期でもある今、栃木ブレックスはスポーツを観る人のために作られた施設で試合をしたいという夢を叶えるべく今後も活動を続けていくのだ。

同じく栃木にてサッカークラブの代表取締役社長を務める橋本氏は栃木SC設立時に発起人として立ち上げたうちの一人であり、現在は栃木SCのJ2昇格を目指し建て直しを行っている。活動拠点となる栃木県にはJリーグの試合が開催できるスタジアムが1箇所しかない。幸いにもサッカー専用ということだが、栃木県グリーンスタジアムにも抱えている課題はある。スタジアムは屋外ということもあり、天候に大きく左右される。無論そういった点も考慮して建設されているが、栃木グリーンスタジアムの屋根はデザイン重視で、実際に雨が降ると屋根の意味はほとんどないという。雨が降ってしまうと集客はキャパ(5千人)の半分を下回り赤字になってしまうことは大きく問題視されている。アリーナと違い、できる演出が限られているスタジアムはただの競技場になってしまうことを懸念していたが、大型映像装置を取り付けてもらいオープニングとしてチームの映像を流すことができるようになったという。橋本氏は、今後目指すべき場所として、スタジアムが観光パンフレットに必ず載るような、栃木県を象徴とするような存在になってほしいと語った。

スタジアム・アリーナの生かし方殺し方

2つ目のテーマでは実際に各国のスタジアムを利用しているサッカー国際審判員の當麻氏と、スポーツ施設の設計・監理を主としスタジアム・アリーナ改革推進のため様々な活動をしている上林氏を中心に理想のスタジアム・アリーナについて検討した。

上林氏はスタジアム・アリーナ改革の雛形に近いということで良いスタジアム・アリーナの例としてイギリスのオーツーアリーナを挙げた。ここはアリーナの周りに屋根が架けられた複合施設ができており、ショッピングや映画も楽しめるようになっている。元は万博のパビリオンだったものをスポーツアリーナとして蘇らせたのだ。実際、オーツーアリーナができたことにより、元々倉庫街だったノース・グリニッジは周りに大学やホテルが建てられアリーナ周辺の環境価値も上がっているという。
しかし今回は地域と共に作ることを目的とし、国内にある山口情報芸術センター・YCAM(ワイカム)をひとつの理想の形として取り上げた。当初、劇場として使われていたそこでワイヤーフレームを作り、センシング装置を劇場に取り付け、「山口の未来の運動会」を開いた。グラウンドがスタジアムになるという点と、地域を巻き込むという点でワイカムは地域密着型のスタジアム・アリーナを完成させている。これを機に施設を中心とする山口市の小中学校のITリテラシーが凄まじく上がっていることも、山口市にとって大きな利点となるだろう。地域に溶け込んでいるワイカムの在り方に、スタジアム・アリーナもこれくらいならなくてはいけないと上林氏は考える。ここでいうメディアアートをスポーツに置き換え、今後地域密着型としてスタジアム・アリーナを生かしていくには、スポーツリテラシーが地域に根付くような形の状況を作らなくてはいけない。

次に、国際審判員の當麻氏はキャパシティ9万人のイングランドにあるウェンブリー・スタジアムを紹介した。以前、イングランド対メキシコの試合でこの会場で審判を務めた際、當麻氏は自分の吹いている笛の音が聞こえないという経験をした。屋根が付いているこのスタジアムでは、9万人の声が外に抜けずに落ちてくるので、ホームが強い理由はここにもあるのではないかと考える。また、冷風機が備えてあるカタールの国際競技場は客席もフィールドも極めて快適な状態で試合に臨めるのでパフォーマンスの上昇につながるという。経営者でも設計者でもない立場から語られるスタジアム・アリーナは非常に興味深い。

反対に、良くないと思われるスタジアムとは一体何なのか。當麻氏は、「同じ施設の中に異質のスポーツが交わるようなスタジアムでは距離を感じる」と語った。選手や観客、関わる全ての人がスポーツを楽しめるようなスタジアム・アリーナでなければ良い施設とは言えない。また、當麻氏の意見を取り入れたうえで上林氏は設計者の立場として「それ、どう作るの?」と思わせるような要求をしていった先に良い施設があると言った。ビジョンがなく、スペックだけを追ったスタジアム・アリーナではダメなのだ。

しかし、その要求中々通らないのがプロスポーツチームが抱える現実であり冒頭のテーマの課題ともなっている。自治体を味方につけるのはクラブとして非常に重要なことであり、そのためには市民を巻き込んでいくことが最大のポイントと考える。”公共性”という問題を突破するには、市民の協力を得ることがクラブチームにとって大きな力となるのだ。今回、それぞれの立場によってスタジアム・アリーナの見え方が全く異なることに感心した。スポーツをする側とその施設を設計する側でこうして意見を交えることで、国内にはより優れたスタジアム・アリーナが誕生するのではないか。スタジアム・アリーナの未来のために、こうしたディスカッションは今後も取り入れていくべきだと感じた。

原稿: 金沢 芽衣
qnote2017年度新入社員。プログラム未経験。オフィスには7匹の猫がいて、毎日けつポンを要求されている。

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